未来を創るニッポンの底力

300歳超の老舗ベンチャー

日本の工芸品を蘇らせる中川政七商店・十三代の「ブランドマネジメント力」

株式会社中川政七商店

代表取締役社長/十三代

中川政七

写真/吉野洋三(TAKIBI) 文/竹内三保子(カデナクリエイト) | 2017.12.11

未来を創る底力【1】「構造の理解が戦略の基礎」

▲日本の園芸文化を再構築する目的で立ち上げられたブランド「花園樹斎」は、植物監修にプラントハンター・西畠清順氏を招請。中川政七商店がプロデュースする工芸と見事な融合を果たしている。

中川社長のサラリーマン経験はたったの2年。中川政七商店に入った頃は、生産管理のやり方も、クリエイターへの発注の仕方も、出店先の探し方も知らなかった。それにも関わらず、短期間で赤字の事業部を立て直し、また、新しい事業も短期間で軌道に乗せることができたのはなぜか。

「ゼロから現場に入って自分で考えていくのは、ものすごく時間がかかるし、出てくるアイデアにも限界があるでしょう。一方で過去に同じようなことを経験した人は沢山いる。対象によっては学問にまで発展しているものもある。だから、新しいことに手を付ける前に、まずは本を読んだリ、その道のスペシャリストに話を聞いたりして、これから入っていく世界、そこでやるべきことの構造をひと通り理解します」

構造を理解していれば、戦略を立てられるので、比較的容易に目指すべき方向に進んでいく。クリエイターを起用する場合でも、構造を理解しているからこそ、良いクリエイターかどうか、また、どう頼めばいいのかがわかってくる。まだ見ぬ次の100年に向けての戦略も、構造の理解が背景にあれば、普遍的な戦略になっていくはずだ。

未来を創る底力【2】「成長のカギは社内の企画力」

▲「遊 中川」の上質な麻生地をベースにしたトートバッグ。持ち手には伸びにくく非常に丈夫な真田紐を使用。日本刀の下緒(さげお)などに使われていたというこの紐を、現代の生活に合った形で活用したいという思いから、この「真田紐シリーズ」は生まれた。

ファブレス(工場を持たない)のSPA(製造小売業)という業態の中川政七商店が成長していくための核となった武器は「企画力」。だから、SPAモデルに転換したばかりの頃から、企業規模に対しては多すぎるほどの企画担当者を配置する方針だった。

「企画をしてほしいと言っているのに、みんなデザインをしてくる。なぜできないのかと当初はイライラすることもありましたが、途中で、原因は『企画とは何か』がわからないのだと気付いた。企画の立て方から教えようになってからは、みんなの成長は早かったですね」

現在、同社では企画を立てる時に社内で「組み立てシート」と呼ばれるシートを使っている。そこには「志」「ストーリー」「らしさ」「コンセプト」の4つの円が書かれている。

「これまで見た優れた企画は、必ず、この4つのポイントを満たしていました。そこで、何かいいアイデアを思いついたら、まずはそれを軸に4つのポイントを埋めてみる。全部埋まれば、そこそこ優れた企画。ひとつしか埋まらなければ甘い企画、といったことがある程度わかってきます。埋まらない箇所を人に相談しても構わない。このシートを使うようになってから、担当者の平均点がアップしました」

感性の世界に思える企画力の養成方法も実に合理的。こうした合理性が中川政七商店の強さなのだろう。

未来を創る底力【3】「非合理な慣習には従わない」

▲「中川政七商店・表参道店」の上階にある、東京事務所のオフィス風景。清澄白河の「ブルーボトルコーヒー」などを手掛ける、スキーマ建築計画の長坂常氏が内装を担当。合理的に業務が進められるようフリーアドレス制を導入。

工芸業界初のSPAモデルの確立、自社でのブランドマネジメント、窮地にたつ工芸業者のサポート……。中川社長が、次々に新しいことにチャレンジできるのは、優れた発想力があるからだけではない。業界で実施されている既存ルールの理由を考え、そこに合理性がなければ従わないという強さがあるからだ。たとえば、百貨店への定期的な顔出し。一般にメーカーや問屋の営業担当者は百貨店に最低月に一回、多いところでは週に一回、現場の管理職の下に挨拶に行くのが常識だが、中川社長は、そうした慣習に従うのをやめた。

「営業担当者をつければ人件費がかかります。それを吸収するために商品の価格を上げると、ますます売れなくなります。もちろん、営業担当者が行くことで売上が上がるなら、毎日でも行きますよ。でも、実際は行ったところで上がらない。じゃあ、定期的な顔出しはいらないんじゃないですか、と百貨店サイドに言いました」

当初は怒る現場担当者もいたが、結果を出せば、次第に誰も何も言わなくなる。このように中川社長は、成長の妨げになりそうな非合理な慣習をひとつひとつ取り除いていった。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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