資金調達ノウハウ

キャピタリストの視点[1]

[資金調達はじめの一歩]起業家と投資家のマッチング、会社代表メールは有効?

株式会社オプトベンチャーズ

パートナー

菅原康之

編集/塚岡雄太 | 2018.06.28

この連載では、これから起業したいと考えているプレ起業家や、起業して実際に投資家から資金調達をしたいと考えている方々へ向け、自身がベンチャーキャピタル業務をしている中でよく聞かれる質問などをもとに、成功するためのヒントをご紹介します。

ベンチャー企業の運営には共通する落とし穴がいくつもあります。それらを事前に知って回避することで、成功の可能性を高めて欲しいと願っています。

株式会社オプトベンチャーズ パートナー 菅原康之(すがわら やすし)

2010年、オプトHLDに入社。新規事業開発社内インキュベーター、イントレプナーとして社内新規事業開発を専門とし、13年よりコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)事業を担当し、投資先の事業成長支援を行う。15年より、ベンチャーキャピタル子会社の設立時より参画。パートナーに就任。慶應義塾経営大学院経営管理研究科卒業(MBA)。

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投資家は自分自身のネットワークから投資案件を探してくる

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皆様は投資家を探すときにどのように探していますか? 投資家の知り合いがいない場合には、ホームページを探してメールなどで事業計画を送り投資の依頼をしたりしているのではないでしょうか。その場合、投資の確率を上げるために数十もの投資家に同じメールをコピペして送っていませんか?

私自身、投資家としての活動を振り返ってみると、会社の代表窓口のメールアドレス宛に毎日大量の投資検討依頼のメールが届いていますが、それがきっかけで投資の検討をしたことは、ほとんどありません。

少し驚きましたか?

でも少し客観的になり逆の立場で考えてみると分かるのですが、一度も会ったことのない人から「お金を貸してほしい」と言われても怪しくて会うこともしないのではないでしょうか。我々は投資を生業としていますので、もちろん怪しいとは思いませんが、ほとんど検討をしないという気持ちは分かりいただけるのではないでしょうか。

実際には、我々が投資検討をする案件は起業家からの紹介や投資仲間からの紹介、各種ピッチイベント(※注)などに参加したりして、自分自身のネットワークから探してくることがほとんどです。

ですので、投資家から出資をしてもらうためには、まずは投資家や起業家のネットワークの中にあなた自身が入っていかないといけません。

※注:ピッチイベント
スタートアップエコシステムには、投資を必ずしも必須とぜず、事業成長支援を行う「スタートアップアクセラレーター」と呼ばれる組織がいくつかあります。彼らが育成したスタートアップのサービスを披露する場として実施しているイベントが毎月のように開催され、起業家が投資家と出会うきっかけの一つとして定着しています。

 

VCのお金も投資家から集めたお金。だから信頼できる人に預けたい

では、なぜ投資家は自分のネットワークから投資案件を探すのでしょうか。それは VC (ベンチャーキャピタル)も自分たちのお金を投資しているわけではなく、金融機関や事業会社から集めた資金の運用代行している立場だからです。

ベンチャーキャピタルのビジネスモデル

※編集部作成

そのため、投資したお金を元に事業を成功させて、何倍にもして返してくれる起業家に投資をする必要があります。さらに極論するとお金を無駄遣いしない信頼できる人に預けたくなります。

信頼できる人というのは人それぞれ定義があると思いますが、私はたくさん話したり食事をしたり何かを一緒に取り組んだりするような中で作られると思っています。

ですので、知り合って数週間の人は信頼関係までは築けていないことが多いと思います(まれに出会った瞬間に信頼関係ができることもあるかもしれません。ひと目惚れのようなことでしょうか)。ですから、投資の検討は難しい、ということになってしまいます。まして、一度も会ったこともなく、メールから出資検討の依頼が始まる方ならば、言うまでもないですね。

 

ただし、メール内容は全て目を通しているし、そこから投資につながった案件もある

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しかしながら、全ての投資家が投資の機会はとても貴重で重要だということを理解していますし、自分の先入観で物事を決めないように常に謙虚に注意しています。ですので、代表窓口のメールに届いた投資検討依頼も、内容は全て目を通していると思います。さらに、経験上、その中から投資検討に至ったケースも数件あります。

今現在、投資家との繋がりがないという起業家の方は、 可能性にはチャレンジするというスタンスで投資検討依頼のメールを送るのもありだとは思います。

ただし、目的が事業成功のための資金を集めるということなのであれば、自分自身の友人知人の中で投資家の知り合いはいないか? または、友人の友人に投資家がいないか? とまずは、自分自身のネットワークを手繰り寄せて、投資家を紹介してもらうことを考えてみてください。

 

結局は恋愛と同じ。メールで好きですと言われても響かない

ここまでの話を読んで、自分には難しいなと感じた人は、恋愛に置き換えて考えてみてください。 仮にとても魅力的な異性に出会い、その人とお付き合いしたいなと思った場合には、 友人に紹介してもらったり、自然な形で会えるチャンスを意図的にセッティングしたりしますよね?

さらに友人の紹介でお付き合いした異性とは、比較的うまくいくケースが多くなかったですか?

結局のところ、資金調達も起業家と投資家の恋愛のような側面があるのです。投資家は事業が成功し、自分たちにリターンが出る状態になるまでに、数年以上かかることを知っています。つまりは長時間、一緒に過ごす関係になることが前提です。それはまさに長く付き合っていきたい恋人のようなものですよね。

ですので、「誰でもいいから出資してほしい」という起業家にはあまりお金は集まりませんし、逆に「この人に出資してほしい、なぜならば……」という人の方がお金を集めやすいように感じます。 まずは、投資家と友達のように仲良くなり信頼関係を築いて、投資検討してもらえるような土台作りに取り組んで欲しいと思います。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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