資金調達ノウハウ
株式会社オプトベンチャーズ
パートナー
菅原康之
編集/塚岡雄太 | 2018.07.04
株式会社オプトベンチャーズ パートナー 菅原康之(すがわら やすし)
2010年、オプトHLDに入社。新規事業開発社内インキュベーター、イントレプナーとして社内新規事業開発を専門とし、13年よりコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)事業を担当し、投資先の事業成長支援を行う。15年より、ベンチャーキャピタル子会社の設立時より参画。パートナーに就任。慶應義塾経営大学院経営管理研究科卒業(MBA)。
©Shutterstock
仕事柄、資金調達についてだけでなく「これから起業したい」と言う起業家からの相談を受けることが多くあるのですが、その中でよく耳にするのが 「VC(=ベンチャーキャピタル)によって言うことが違うので分からない」という意見です。そもそも起業家と投資家の間には大きな情報の非対称性があり、それは常々問題だと思っていました。
ただ、一方で「VC によってアドバイスが異なる」と言う問題については、 数あるVCをひとくくりに捉えていることから生じる問題でもあると考えています。
それを理解するために、まずは次の質問に答えてみてください。
以上、三つの質問に全て YES であって、今回のような疑問を感じているのであれば、もしかすると起業するのは向いていないかもしれません。ほとんどの方は、全ての質問にYESにはならないのではないでしょうか。
VCの業界はとても狭く、投資活動をしているキャピタリストは日本国内で1000人に満たないくらいしかいないのではないかと思います。ですので、その中で30人以上に会うということは、意外と難しいことです。
多くの人は数人のキャピタリストに会っただけで、キャピタリストを一般化をしているのではないでしょうか。
これは、実際に 投資家業をしている私からすると、「女性によって言うことが違うので何が正しいかわからない」と言って恋に悩む男子中学生のような発言に聞こえてしまいます。
「VC によって言うことがそれぞれ異なっていて、何が正しいかわからない」という意見は、半分は正しいですが、半分は間違っています。どういうことか、説明してみましょう。
まず重要なのが、ひとくくりにVCや投資家といっても、その性質は異なっているということです。下の図を見てみてください。よく「スタートアップエコシステム」という言葉を耳にしますが、それを図にしたものです。
このスタートアップエコシステムは、投資家それぞれのプロファイル(得意分野)に応じて得意領域の棲み分けがあり、ステージごとに主たる支援者を変えながら、IPOやM & Aのような EXIT(出資者に利益が入るポイント)に向けて支援をしていく仕組みになっています。
そのため、どのステージが得意な投資家か? によって、あなたの会社や経営チームを見る視点が異なってきます。
つまり、VC などの投資家のフィードバックを聞くときは、その投資家がどのようなステージで支援するのが得意で、どのようなプロファイルを持っているのかを認識して参考にする必要があるのです。
もし仮に、あなたの会社がプロダクトのないシード期の会社だった場合に、ミドル期の支援が得意な投資家に相談しても、「本当にこの事業計画の通りに進捗するのか?その根拠は何か?」など、成長のためのストーリーを論理的に説明することを求められたりします。
この話を聞けばおわかりの通り、あなたが自分の事業に関してライトパーソン(※注)でない人に相談してしまうと、当然、的外れなコミュニケーションになってしまいます。
「VCによって言うことが違う!」という疑問は、ライトパーソンでない投資家たちと話して異なるフィードバックが返ってきた結果なのです。
※注:ライトパーソン
ここでいうライトパーソンとは、あなたが抱えている課題に関して「適切なアドバイスを与えてくれる人」という意味です。意見は「誰が言うか」によって正しかったり、間違っていたりします。ですので、この問いについての最適な答えを持っているのは誰か? を考えることが重要です。
とはいえ、通常の場合、30人以上のVCやエンジェル投資家の友人がいるという人は、本当に数えるほどしかおらず、そのような方は、投資家仲間の間でも有名で、起業するとわかるやいなや高額な資金調達を出来る人だったりします。
ほとんどの人は起業家やベンチャーキャピタリストの友人やその知人が数名いるかいないかだと思いますので、この繋がりを最大限に生かすために、その投資家がどこにプロットされるのかを認識しつつ相談をしてみるのが良いでしょう。
その時に、その投資家のプロファイルを把握するために、下記のような質問をしてみてください 。
上記のような質問をした結果、自分の事業ステージと合致する投資家の意見はぜひ参考にしていただきたいと思います。
もし、自分の事業ステージと合致しない投資家であった場合には、参考になりそうな意見のみ取捨選択して参考にし、他の投資家を紹介してもらうようにしましょう。投資家同士は競合である一方、パートナーとしての側面もあるため、あなたの事業やあなた自身がとても魅力的であれば、あなたに合う投資家を紹介してくれるはずです。
以上のように、投資家と言っても一括りではなく、得意とするステージや領域によって視点が異なっているということがわかりいただけたでしょうか。自分自身や自分の事業に適している投資家を見つけ、その人のアドバイスを参考にするのが良いと思います。
ただ、投資家といえども結局は赤の他人ですから、一歩引いて、その人たちの意見をあたかも神の意見のように捉えないように注意しましょう。
「VCによって言うことが違う」と VC を批判する人が良い起業家になれるのかどうかは疑問です。あくまで全てを「参考意見」と捉え、それを踏まえて自分自身はどう進んでいくのか? を日々考えていくのが起業家の営みなのではないかと思います。
ですので、今回のような投資家の特性を整理、理解した上で、自分の事業に活かせる部分を少しずつ取り入れていくようにし、授業を常にブラッシュアップしていってください。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美