資金調達ノウハウ

キャピタリストの視点[2]

[成長ステージ別]投資家が重視する資金調達を左右する事業の「4つの軸」とは

株式会社オプトベンチャーズ

パートナー

菅原康之

編集/塚岡雄太 | 2018.06.29

この連載では、これから起業したいと考えているプレ起業家や、起業して実際に投資家から資金調達をしたいと考えている方々へ向け、自身がベンチャーキャピタル業務をしている中でよく聞かれる質問などをもとに、成功するためのヒントをご紹介します。

今回は、投資家たちが持っている「成長企業を見抜くメガネ」について。投資家たちは、あなたの事業のどこを見て投資をするかしないか決めているか、知っていますか?

株式会社オプトベンチャーズ パートナー 菅原康之(すがわら やすし)

2010年、オプトHLDに入社。新規事業開発社内インキュベーター、イントレプナーとして社内新規事業開発を専門とし、13年よりコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)事業を担当し、投資先の事業成長支援を行う。15年より、ベンチャーキャピタル子会社の設立時より参画。パートナーに就任。慶應義塾経営大学院経営管理研究科卒業(MBA)。

©Shutterstock 

 

起業家の悩み「投資家は自分の事業のどこを見ているのか分からない」

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投資の仕事をしていると、よく起業家の方から「投資家は自分の事業のどこを見て投資の判断をしているのか分からない」と言われることがあります。 確かに投資家は、投資の相談を受けて、投資をお断りする場合に、その理由について詳細に伝えることは少ないのではないかと思います。

それは、この仕事が信用商売であり、良かれと思って理由を伝えることが、逆にネガティブな噂になって投資の相談が来なくなることを恐れているということもありますし、単純に、論理的に説明することは難しいが、経験に基づいた判断として「投資をするに適した経営チームではない」というような場合もあります。

しかし、私自身はこの起業家と投資家の情報の非対称性は、大きなリスクを取って果敢にチャレンジをする起業家にとって不公平だと考えています。ですので、可能な限り、一般的な投資家の頭の中を言葉にして書き出してみたいと思います。

 

多くの投資家が持っているであろう「成長企業を見抜くメガネ」

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前もって言い訳をさせて頂きますと、投資家はそれぞれ千差万別で色々な価値観、判断基準を持って投資の検討をしているので、全ての投資家に当てはまるようなポイントを一般化することはできません。

しかしながら、ベンチャーキャピタルと言う仕組みは既に100年近い歴史があり、多くの投資家が持っている「成長企業を見抜くメガネ」も、大枠は同じものと考えていいと思います。

我々が投資先の投資判断をするにあたり、まず確認するのは「起業家が描いているビジョンや世界観への共感」です。

そして、そのベンチャー企業が成長していく企業かどうかを見抜くために、起業家のピッチやディスカッションを通じて、下記の4つの軸で評価できるかを見ています。

 

成長を見抜くメガネのイメージ図

※編集部作成

上記の指標は大きく、下記の2つに大別することができます。

1.人および組織

2.マーケット

大企業のような豊富な経営資源がないベンチャー企業においては、「経営者及び経営チーム」が最も強い競争優位の材料になります。

投資家によって、どのような経営者及び経営チームを持つ企業が成長するかについては持論があると思いますが、共通して見ているのは、「普通の人と違う壮大さやクレイジーさ」、そして「実現不可能に見える事業計画を何が何でも達成しようとする達成力」、「危機的状況であっても逃げ出さないしぶとさや覚悟」などでしょう。

それに加えて、企業を経営するために必要な経営能力です。

ただし、経営能力に関しては起業家一人で持っている必要はなく、それらを補い合い、高い経営能力を発揮できる「チーム」としてその能力を持っていることが大事です。

市場及びビジネスモデルに関しては、成長企業となるための大前提として大きな市場をめがけていくことが大事です。そしてその上で、ビジネスが成立するための力学に反しない儲け方の枠組みが作られているかが大事です。

 

投資家が見ているのは「シード期は経営者と経営チーム」「レイター期に近づくと市場とビジネスモデル」

経営者、経営チーム、市場、ビジネスモデルの4つの指標のうち、どの指標が重要かは投資家によって異なります。

ベンチャー企業の成長ステージを大きくシード期、アーリー期、ミドル期、 レイター期 と分けることが一般的ですが、 シード期の投資家ほど、経営者及び経営チームを重視して投資の判断を行います。

ベンチャー企業の成長ステージ・イメージ図

※編集部作成

シード期においては、現在描いている事業がうまくいかずにピボット(事業転換)する可能性も大いにあるため、市場やビジネスモデルに時間をかけて精査しても結果的には意味のないことが多くあるためです。

それに対して、ミドル期、レイター期の投資家は 市場やビジネスモデルに重きをおいて投資の判断を行います。

このステージの企業は顧客からの良い評価も得られているため、ビジネスの成立は確認されており、むしろ重要なのは、これからどのぐらいのスピードで成長していけるか? いつ IPOやM&AなどのEXIT(出資者に利益が入るポイント)に到達できるか? という点です。

もちろん経営者も経営チームも精査をしますが、それはシード期の評価とは異なり、社会的な公器として上場企業を経営する経営者および経営チームであるかなどの視点が強くなってきます。

 

多少の違いはあれど、要は「あなたに投資したら儲かるのか?」に尽きる

©Shutterstock

以上、 投資家があなたの会社をどのように見ているかを論理的に解説してみました。

しかし、究極的には、「あなたにお金を投資したら私達を儲けさせてくれるのか?」を見ているのです。投資家は心から「起業家を応援したい」「一緒にビジョンを実現したい」と考えていますが、 投資は利益を求める「事業」ですので、儲けさせてくれる起業家を見つけてお金を預けたいというのも本音です。

ですので、今一度あなたの事業、ひいてはあなた自身を見つめ直してみて、お金を稼げる人間かどうか? お金を稼げる市場かどうか? お金を稼げるビジネスモデルかどうか? を確認してみてください。 結果としてそれらの問いに対してYESがつくのであれば、自信を持って投資家に投資検討をしてもらえることでしょう。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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