スーパーCEO列伝

「第3の給与」で貢献を見える化 Uniposが提唱する生産性向上の新定番

Unipos株式会社

代表取締役社長

斉藤知明

中島瑶子(ペロンパワークス) | 2020.06.08

新型コロナウイルス感染拡大にともなう外出自粛によりテレワークが広がるなか、組織の生産性向上や従業員のモチベーション管理を目的として、あるサービスの問い合わせが増えているという。従業員同士が「ピアボーナス」という少額の報酬を送り合える仕組みを提供する、「Unipos(ユニポス)」だ。

ピアボーナスは、給料でもボーナスでもない「第3の給与」と呼ばれ、Googleなど欧米のIT企業ではすでに取り入れられている組織力を高める仕組み。Uniposに関しては、フリマアプリ大手のメルカリなど340社以上の企業で導入が進む。

この仕組みを導入することで、組織の生産性や従業員のモチベーションにどのように影響するのか。また、テレワークにどのような効果をもたらすのか。Unipos株式会社(以下、ユニポス)代表の斉藤知明氏に話を聞いた。

Unipos株式会社 代表取締役社長 斉藤知明(さいとうともあき)

東京大学機械情報工学専攻。学業の傍ら、株式会社mikanにてCTOとしてスマートフォンアプリ開発に従事。 その後Fringe81株式会社に入社。一年間エンジニアとしてアプリ開発等を行った後、Unipos事業責任者となる。 2017年12月28日、Unipos株式会社の代表取締役社長に就任。2019年4月17日、Fringe81株式会社の執行役員に就任。

ダンボール箱から始まったサービス

まずは、Uniposの基本的な特徴から見ていく。Uniposは感謝のメッセージとともに、ピアボーナスと呼ばれる少額の成果給を従業員同士で送り合える機能が軸となるが、要するに「〇〇さん、仕事手伝ってくれてありがとう。そのお礼として〇〇ポイント送ります」ということだ。

とはいえ実際にお金を送るわけではなく、週に1回付与される「ポイント」を送るということ。Uniposの仕組み上、毎週月曜日に1人当たり400ポイントが付与され、1回で送れるのは120ポイントまで。貯まったポイントは、1ヵ月後に「Unipos給」として会社から主に金銭で支払うことも可能。

ポイントの交換レートは会社によって異なり、1ポイントあたり1円〜5円が一般的。例えば1ポイント5円であれば、毎週2000円分のポイントが付与されることになる。

なお、ポイントは自分に送ることはできず、その週に使い切れなかったポイントは翌週に繰り越されることなく失効してしまう。この仕組みがあるからこそサービスの利用が促されている側面もある。

「『他者に感謝できますよ』といっても、みんな使ってくれない。何に感謝のコメントをすれば良いのか、どこか気恥ずかしさを感じてしまうわけです。それなら感謝のコメントを送るだけでなく建前を用意しようということで、後々金銭として受け取ることのできる『ピアボーナス』という仕組みを導入するに至りました。

さらにあえてポイントを繰り越しできない仕組みにすることで『せっかくあるポイントなんだから、使わないともったいない』という心理も働く。こういった仕組みも、感謝のコメントを投稿するきっかけになっています」(Unipos株式会社 斉藤知明氏、以下同)

写真は、2019年2月20日に開催されたat Will Work「働き方を考えるカンファレンス2019」の公開インタビューより

また感謝のコメントを見た第三者は、Twitterの投稿に対して「いいね」をするように、共感を表明する「拍手」を送ることもできる。このときにも、コメントを受けた人だけでなく、コメントを投稿した人にも1ポイントずつ送られる仕組みだ。

これら、感謝の言葉とピアボーナスを「送る(投稿する)」「受け取る」、そして「拍手する」が、1つのタイムライン上で行われることになる。そのため、これまで社内全体で気づかれなかった、あるいは見過ごされていた会社への「貢献が見える化」されることになるわけだ。

「これまで『仕事で手伝ってくれてありがとうございます! 本当に助かりました!』という感謝の言葉は、当事者同士での閉じたコミュニケーションになっていました。しかし、それがタイムライン上で他の人にも見えるようになると、組織全体へと広がっていく。普段密にコミュニケーションを取ることのない相手でも『普段、こういう活躍をしているのか』ということが第三者に伝わるわけです。

そもそも会社の中で『何をしているのか』『どういう貢献をしてるのか』を知らないと、他者を信頼できないですよね。会社への貢献度合いを、自分から誰かに伝えることもあまりありません。だからこそ貢献の見える化は必要だと思います。そして結果として会社内で信頼できる個人が増えれば、それが組織全体を強くし、生産性の向上にもつながるのではないかと考えています」

Uniposはもともと親会社である「Fringe81」にあった独自の制度をブラッシュアップさせたサービスだ。

当時、Fringe81は社員数が30人ほどに増えてきたなかで、個々の会社への貢献度合いが見えづらくなっていた。そのため正当な人事評価が行われる機会が少なくなっており、従業員のモチベーション低下も見られた。

そこで始めたのが、社内で発見した従業員の貢献を紙に書いて、ダンボール箱で集める「発見大賞」というアナログな制度。この制度の導入後は、離職率の低下など、目に見えるかたちで成果も得られたという。

とはいえ「発見大賞」では30人程度の組織で、月に1人しか表彰できなかった。つまりほとんどの人には、スポットライトが当たらないわけだ。

「会社は当然ですが、表彰をされた人だけでなく、そのほか大勢の従業員に支えられて成り立っているわけです。そういった目に見えない多くの貢献を見える化し、従業員同士がリアルタイムで共有・共感することで、称え合う仕組みをつくれないか。そしてスポットライトが当たる従業員の数が増えれば、モチベーションや組織の生産性向上も見込めるのではないか。そういった仮説から生まれたのが、今のUniposです」

貢献の見える化がさまざまな組織課題の解決につながる

ここからは、Uniposの導入事例をもとに具体的な効果を見ていこう。

まずは貢献の見える化によって個々のモチベーション向上につながったという、株式会社カクイチの例を紹介したい。

カクイチは太陽光パートナー事業や農業改善事業、ガレージ、ホース事業などを手がける、創業134年の老舗企業だ。平均年齢は47歳と高く、もともと2014年まではメールアドレスやPCさえなかった会社だというが、デジタル化に踏み切るタイミングでUniposを導入。とくに全国各地にちらばる営業拠点間のコミュニケーションを、活発化させる狙いがあったという。

株式会社カクイチ 執行役員事業戦略部 部長 鈴木氏(右)、事業戦略部 小山氏(左から1番目)、事業戦略部 柳瀬氏(左から2番目)

導入後は意外にも、50代以上の世代が活発に利用している。カクイチのスタッフは「叱って育てるという文化が強く、褒められる機会が少なかった世代のため、Uniposで承認されることが嬉しいのではないか」と理由を話す。

全国の拠点をまたいで「感謝」の言葉が飛び交い、前向きなコミュニケーションの量も増えているという。カクイチで20年間販促ツールをつくってきたスタッフは「改めて感謝を伝えられることはなかったものの、Uniposでコメントをもらうことで、涙が出るほど嬉しかった」とも語っている。

そういった相互の気遣いや貢献の見える化によって、個々のモチベーションの向上につながった。

さらに、Uniposの導入によってほかのチャットツールを使ったコミュニケーションにも変化をもたらすという。

「Uniposを導入することで、オンラインでのコミュニケーションにおいて、褒める・感謝するなどのポジティブなやり取りを行う文化を醸成することができます。これが、ほかのコミュニケーションツールを使って会話するときにも、良い効果をもたらす。カクイチさんでもビジネスチャットツールの1つである『Slack』を使ったコミュニケーションにおいて、業務連絡だけでなく、相手を気遣ったり認めたりする言葉を自然とやり取りのなかに入れるようになったといいます」

また、Uniposの導入によって離職率が改善し、売上増加につながった例もある。広島県で不動産・建築事業を展開するオールハウス株式会社では、事業の成長にともなって高まる離職率を改善するために、Uniposを導入した。

オールハウス株式会社 代表取締役社長・原田尚明氏

導入後は、異なる事業部間でのコミュニケーションが増えたことによって横の連携が取れるようになった。ある事業部の社員が顧客の要望に対して、別の事業部を紹介した結果、さらなる受注につながるといった例も出てきたそうだ。

さらに、Uniposで多くの賞賛・拍手された接客方法をほかの従業員たちが真似するなど、これまで属人的だった業務上のノウハウや知識を、組織内で共有・蓄積する役割も期待できるようになった。その結果、もちろん複合的な要因はあるものの離職率が改善するだけでなく、売上の増加にもつながったという。

「Uniposに投稿された個々の賞賛のなかには、会社として大事にしている行動指針(バリュー)につながるものも少なくありません。具体的な賞賛から、ほかの従業員が自発的に学び、現場へと広がっていく。会社が掲げる行動指針が自然と従業員全体へ浸透していく効果も期待できます」

重要なのは「他者の行動を認める」こと

コロナウイルス感染拡大の影響で急速に広まったテレワークだが、離れて仕事することに課題を感じる企業も多いのではないだろうか。事実、ユニポスが全国のテレワーク実施企業に行った調査によれば、テレワーク開始前と比較してチームの生産性が「低くなった」と回答した割合は44.6%。

「高くなった」と回答した7.6%を大きく上回る結果となっている。そのほか、テレワークが長期化した場合に深刻化すると思う課題として、管理職・一般社員ともに「コミュニケーションの取りづらさ」を1位にあげている。

こういったテレワーク期間中の生産性の低下やコミュニケーション不足を解消しようと、Uniposの問い合わせが増えているだけでなく、既存ユーザーの利用率も増えているという。

「とくにタイムラインに投稿されるコメントを見て、拍手を送る頻度が増えています。つまり、他者と離れて仕事をするなかで、自然とUniposのようなコミュニケーションの場を訪れる機会が増えているのだと思います。テレワークや外出自粛によって直接会うことが少なくなり、互いを知る機会も減ってしまいました。

だからこそ、オンライン上で『他の人が何をしているのか』知ることができる場を強く求めている。テレワーク環境下では、業務連絡などの仕事上で必要なコミュニケーションを交わす場以外にも、Uniposのように人が人を褒めたり感謝したりといった認め合う場の必要性も高まっていると感じます」

また自社で実験した結果から、「チームのパフォーマンスと、Uniposの利用頻度には相関性がある」とも斉藤氏は話す。例えば上司が部下の誰かに対する投稿をしたときに、ほかのメンバーが拍手などで活発に反応するチームほど、目標の達成率が上がる傾向があるそうだ。つまりチーム内で上長からメンバーに、またメンバーから上長へと互いに賞賛し合う。この関係性の強化こそが、組織を強くすることにつながるという。

面と向かって褒めるのは照れくさいという場合でも、テレワーク中に主に使用することになるメールやチャットツールを通じたテキストコミュニケーションであれば、そのハードルは下がる。

斉藤氏がUniposの利用頻度とチームのパフォーマンスには相関性があると話す通り、テレワーク中の生産性向上の鍵は、褒める・感謝するといった行動を通して「他者をどれだけ認めるか」にあるのかもしれない。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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