未来を創るニッポンの底力
ライフスタイルアクセント株式会社
文/藤堂真衣 写真/ライフスタイルアクセント提供 | 2020.09.11
ライフスタイルアクセント株式会社
2012年1月創業。メイド・イン・ジャパンの工場直結ファッションブランド「Factelier(ファクトリエ)」を展開している。「語れるもので日々を豊かに」という理念のもと、職人のこだわり、ストーリーが詰まった、人に語りたくなるものを長く大切に使ってもらいたい、そんな想いと共に、工場と消費者を直接結ぶことによって高品質な商品を"適正価格”で提供している。
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今でこそ「ファクトリーブランド」という言葉は広まりつつあるが、アパレル業界において工場が表舞台に出ることは少ない。長らく工場がとってきたOEM(受託製造)という事業スタイルは、メーカーから指示された通りに生地や洋服を作り、納品するものだからだ。商品の価値はブランドにあり、どこの工場で作られた生地や製品なのかは重視されなかった。
昨今はファストファッションの台頭もあり、国内からより安価に生産できる海外の工場へと製造拠点がシフト。2018年時点でのアパレル製品の国内生産比率は3%以下 にまで減っている。そんな状況のなかでは、高い技術を持ちながらも新しい販路が開拓できず、廃業を余儀なくされる工場も少なくない。
苦しい状況に置かれている工場だが、「工場直結ブランド」をうたうファクトリエの事業にはそんな工場の存在が欠かせない。現在、全国55か所の工場と取引しているというが、表に出ることが少なく、かつOEMに慣れた工場との提携は一筋縄ではいかないのではないか。工場とともに商品企画開発を担うライフスタイルアクセントのマーチャンダイザー(MD)・岩佐彰則氏は言う。
「まず工場にたどり着くまでが大変です。情報がないので役所に聞いたり、別の工場から紹介してもらったり、また、展示会などで気になる製品を見つけたらどこの工場かをリサーチするなどして見学に伺います。
例えば、3代前から使い続けているという年季の入った機材が現役で稼働している工場があります。しかしというかやはり、そこが生み出す製品はトップクラスのクオリティ。そういう『これでないと出せない風合いがある』といった工場の熱意や“こだわり”を大切にしたいんです。
経営者も職人気質な方が多いので、工場によって考え方も重視する価値観も違う。提携に至るまでには、55の取引先があればそれこそ55通りのやり方がありますが、とてもやりがいがあります」(ライフスタイルアクセント株式会社 MD 岩佐彰則氏)
こうした工場の一見不器用にも思える“こだわり”こそが、これから工場がサバイブしていく糸口になるという。
「メーカーの指示に従って何でもそつなくできる、という工場よりも、『これを作ったら日本一!』といえる工場がむしろ強いと感じますね。OEMが主でも、どこかが“とがって”いる工場は生き残っていく力を秘めていると思います」(岩佐さん)
「ファクトリエと工場の関係はまったくのイーブンです。ですのでファクトリエが工場に“指示”を出すことはありません。ただ、工場にはどうしてもマーケティングの視点が入りにくく、真冬に薄手のカットソーを企画してしまうなんてこともあります。
何を、いつ、どんな人に向けて作れば一番ユーザーの心に届くかを考えるのがファクトリエの役割で、そこからは工場のほうから『こんな商品を考えてみたけど、どうかな?』とアイデアが上がってきて、一緒に商品を作っていくことが多いです」(岩佐さん)
そのやりとりはファクトリエのECサイト にも公開され、製品がどこの工場で作られたものなのか、どのような思いが込められたプロダクトなのか一点一点丁寧に解説されている。これらのストーリーが“語れる”洋服を生み出し、ひいてはそれを手掛ける工場の価値を高めている。そこにあるのは主従関係ではなく、並走するパートナーシップだ。
HITOYOSHIの職人たちとファクトリエの山田社長(右)
レッドリバーの職人たちと山田社長
さらに、ファクトリエとの提携には工場の利益面でもOEMにはない価値がある。アパレル業界は一般的に商社や卸等の中間業者が入る構造になっているが、ファクトリエと工場は直接取引のため、工場の利益率がアップするのだ。
ほかにも、ファクトリエと提携することで工場側にそれまでなかった様々な変化が起きることもある。ファクトリエと最初に提携した熊本県のシャツ工場「HITOYOSHI」 は、縫製に携わる職人のモチベーションがアップしたという。
「ファクトリエのサイトを介して、商品を手にしたお客様の声(応援コメント)を直接聞くことができます。OEMではほぼありえないことでした。自分たちの製品の価値を感じて購入いただけていることがダイレクトにわかりますし、社員のやる気につながっています」(HITOYOSHI株式会社代表取締役・吉國武氏)
商品紹介ページでは、工場へ寄せられた応援コメントが掲載されている。工場からの返事があることも
また、岐阜県で特産品の和紙を素材とした「和紙ソックス」 を製造している東洋繊維では職人たちから新商品のアイデアが上がってくるようになったほか、採用面にも変化が。
「職人たちが自ら商品アイデアを出してくれるようになったのは大きな変化でした。また、ファクトリエで商品を販売していること自体が自社プロモーションにつながっていて、他社からの引き合いも増えましたし、自社ブランドとしてブランド力がついていることを実感できていますね。
また、これまで『うちは田舎の靴下工場だから』と積極的に採用活動ができていなかったのですが、若手の社員が入ってくることも決まり、技術の継承にも希望が見えつつあります」(株式会社東洋繊維 水谷陽治氏)
東洋繊維の水谷陽治氏と山田社長
「蒸れない」「臭わない」「丈夫」が特徴の「和紙ソックス」
ファクトリエと工場が結ぶのは、対等なパートナーシップ。もちろんビジネスとしてお互いの利益は最大限尊重しあうが、その根底にあるのはものづくりへの熱意を媒介とした強い絆だ。
「今回のコロナ禍においても、『マスクを作りましょう!』と声を上げ、すぐにサンプルを作ってくださった工場がいくつもあります。環境の変化にいかにスピード感をもって対応できるかは、今後の工場に問われる資質かもしれません。経営者が強い意思をもって行動を起こしてくださるとファクトリエとしてもうれしいですし、一緒に頑張りましょう!とやる気が出ますね」(岩佐さん)
ファクトリエは工場を大切なパートナーだと考えるからこそ、一緒に悩み、意見をぶつけながらものづくりに取り組む。そこに経営者の意思があるかないかは大きな差となって製品に現れる。
ファクトリエの中でもロングセラーの「ずっときれいなコットンパンツ」 を製造している株式会社レッドリバーの荻野和英社長は、製品の開発に強い探求心をもって臨んでいる人物の一人。白いパンツでは目立ちやすい汚れを素早く落とす素材や加工方法を探すなかで、ファクトリエがその一端を担った。当時のことを荻野氏はこう振り返る。
「白いパンツはおしゃれだけど、汚れてしまうからなかなかはけないという声があります。ですが、パンツを製造する者として“汚れないパンツ”は作れないものかと長年考えていたんです。その解決のヒントをくれたのがファクトリエさんでした。
2015年に山田敏夫社長と出会ってから、社長の『作り手の想いを大事にしたい』という情熱を感じ、いつか一緒に仕事をできたらと感じていました。それからもお付き合いを続けていて、2018年に山田社長から生地のテフロン加工技術を持つ職人さんを紹介してもらったことで、開発が前進し始めました。
汚れをはじく白い生地を製品として完成させ、お客様に届けるまで一点の汚れも許されないのがこのパンツ。実験と失敗の連続でしたが、徹底した品質管理に当社と同じレベルで取り組んでくださった協力工場の力も大きかったですね。通常のOEM工場だったら、ここまで情熱を持続させるのは難しかったでしょう」(株式会社レッドリバー 代表取締役 荻野和英氏)
ファクトリエの「この技術を使って、もっと面白いモノができるかもしれない。やってみましょう」という熱意が、工場の職人魂に火をつける。
「たとえ工場サイドが『これでいい』と言っても、ファクトリエが“ノー”を返すこともあります。工場の強みをよく知り、それを引き出すのがファクトリエの役割ですから、妥協はしません」(岩佐さん)
ファクトリエは工場に強要はしない。だが、「世界に誇れるメイドインジャパン」を標榜するファクトリエとしての明確なプライドを胸に、工場が持つ技術をいかんなく発揮してもらうために伴走し続ける。そして工場は、ファクトリエとその向こうにいるユーザーの期待に応えるためにアイデアと技術の限りを尽くす。
このように、ファクトリエと工場の提携は、ユーザーに高品質な製品を提供するだけでなく、工場のポテンシャルを引き出し、利益面までフォローした三方よしの取り組みになっている。共創しあえるサステナブルな関係性が生まれているのは、両者の思いが単なるビジネスの付き合いにとどまらない“熱”を介した絆で結ばれているからこそ、だ。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美