スーパーCEO列伝

Withコロナ、Afterコロナ時代のニーズに合致

「アイメッド」のオンライン診療が 医療業界を変革! 患者はより良い環境に

SBCメディカルグループ

代表

相川佳之

文/長谷川 敦 写真/宮下 潤  | 2020.06.10

2000年に湘南美容クリニックを開業。そしてこの20年の間に、美容医療にとどまらない総合医療グループ「SBCメディカルグループ」を築き上げたのが、代表の相川佳之氏だ。そんな氏がいま最も力を注ぐことの一つに自社グループが提供する医療アプリ「アイメッド」によるオンライン診療の普及がある。相川氏はオンライン診療にどんな可能性を感じ、日本の医療環境をどう変えようとしているのか。その先のビジョンとは――。

SBCメディカルグループ 代表 相川佳之(あいかわよしゆき)

1970年神奈川県生まれ。1997年日本大学医学部を卒業し、癌研究所附属病院麻酔科に勤務。1998年より大手美容外科に勤務し、数千件の美容外科手術を経験。2000年に独立し、神奈川県藤沢で湘南美容クリニックを開業。徹底した顧客志向を貫き、料金体系の表示、治療直後の腫れ具合の写真を公開するなどの美容業界タブーを打ち破りながら、2020年2月までに湘南美容クリニックを101院にまで拡大させる。またSBCメディカルグループとしては美容医療のみならず、一般内科等の保険診療や、不妊治療や再生医療等の先進医療も手がけている。

コロナ前から見えていた医療業界の課題

新型コロナウイルスによって社会の状況が一変する中、医療の世界にもある変化が生じている。多くの外来患者が院内で新型コロナに感染することを恐れ、医療機関に行くことをためらうようになったのだ。

医療関係者向けサイト「医療維新」が4月に行った調査によれば、患者数が減少したと回答した医療機関は83.4%に上ったという。そのため患者が自宅に居ながらにして、スマートフォンやPCなどで医師の診断を受けられる「オンライン診療」を導入する医療機関が増えてきている。

このオンライン診療のニーズに早くから気づき、2018年に医療アプリ「アイメッド」をローンチさせていたのが、SBCメディカルグループだ。

「アイメッド」は、オンライン診療を導入する病院やクリニックに対してはオンライン診療を提供する医療機関総合サービスである。同時に患者向けには、ほかの患者や医療関係者からの口コミを参考にしながら病院を選定できるサービスや、いくつかの問診に答えるだけで病名の推測や患者に適した病院・クリニックを紹介するAIによる病名予測サービスが実装されている。

「アイメッド」のオンライン診療サービス利用者は20,000人を突破し、3月単月実績は2,000人以上が利用、4月は4000人、5月は6500人と急増。直近1年では決済額が10倍超にまで成長したという。

医療アプリ「アイメッド」のプレスリリースより。

2020年4月には医療機関のオンライン診療の円滑な導入を支援するため、この「アイメッド」のオンライン診療機能を、期間限定(2020年12月末までの予定)で保険診療に限り、月額費用1万円を無料に。決済手数料を従来の10%から業界最安値の3.5%で提供することを決めた。

「オンライン診療を医療業界に一気に普及させ、新型コロナウイルスの終息後も日本の医療界に根付かせたい。日本の医療が抱えてきた課題を解決するピースになるからです。そして……。

我々の経営理念でもある、医療従事者、患者さん、そして社会の“三方良し”が必ず生まれると信じているからです」(相川氏・以下同)

すべては「ユーザー視点」から

相川氏は30歳で湘南美容クリニックを開業。美容外科業界ではタブーだった「治療後の腫れが残る写真の公開」や「明快な料金表の提示」などを次々と実施して大勢の信頼を獲得、一躍業界トップに躍り出た敏腕経営者でもある。

経営の根幹にあるのが、徹底した「ユーザー視点」だ。

患者を“お客様”ととらえ、美容外科に対する不安や不満を徹底的に消していく。だから前出の情報のオープン化はもちろん、価格破壊ともいえる低料金の設定や、丁寧なカウンセリング制度の導入なども、どこよりも早く強力にすすめてきた。その結果、多くの患者を獲得し、リピーターを増やしてきた。

「アイメッド」も、このユーザー視点の経営と一直線につながる。

「湘南美容クリニックには、わざわざ遠方からカウンセリングを受けに来院される患者さんもいる。しかし条件が合わず、診療や美容手術ができないケースも稀にあった。そんなときには『たくさんの時間と交通費を費やして来ていただいたのに、本当に申し訳ない』という気持ちになっていました。

けれどもオンライン診療なら、まず遠隔でスマホ経由でカウンセリングを行ったうえで、条件が合った方だけに来院いただき、診療や手術を受けてもらうことが可能になります」

加えて花粉症や糖尿病、あるいはAGAのように同じ薬を投薬するだけの治療でさえ「対面診療」を強いる日本の医療制度は、ユーザー視点が欠けていると感じていた。ムダに待ち時間とストレスをユーザーに与えるのは、相川氏にとっては耐え難かったわけだ。

もっとも、そのデフォルトだった「対面診療」が時代の流れと共に少しずつ変化。2015年から離島やへき地など、対面診療が難しい場所から、「オンライン診療」が公的医療保険の保険適用になった。さらに2018年からは、それ以外の地域でも認められ、診療報酬の中に「オンライン診療料」が新設された。

かねてから日本の医療制度の課題と、オンライン診療の可能性に着目していた相川氏は、この機を逃さなかった。SBCメディカルグループ内だけでオンライン診療を取り入れるのではなく、日本の医療機関全体のオンライン診療普及の後押しをしたいと考え、「アイメッド」を立ち上げることにしたのだ。

もうひとつ「アイメッド」には、大きなユーザー視点があった。患者が口コミを参考にしながら、どの病院を受診するかを選定できる、独自のサービスを構築することだ。

相川氏はかつてロサンゼルスに美容クリニックを開院した際、アメリカでは患者は「Yelp(イェルプ)」というレビューサイトを活用して、病院・クリニック選びや医師選びを行っている事実を知った。一方、日本には「Yelp」に匹敵するような医療に関する絶対的なレビューサイトがない。患者は十分な情報がないまま病院・クリニック選びをせざるを得ないという現状があったわけだ。

「そこで医療界の『食べログ』や『ぐるなび』になることを目指して、『アイメッド』の中にレビューサイトを作ろうと思ったのです。患者さんがレビューサイトを見て、より評判が高い病院やクリニックを選ぶようになれば、医療側もより多くの患者さんに来ていただくために努力をするようになります。つまり競争原理が働き、医療サービスの質の向上につながる。

『アイメッド』は、現時点では病院やクリニック単位のレビューにとどまっていますが、いずれは医師ごとにレビューを行えるサービスも付加したいと考えています。同じ病院に勤務していても、医療技術や得意分野は一人ひとり違いますからね」

医療アプリ「アイメッド」の画面。左より、トップ、口コミ、AIによる病名予測サービス。

雪崩を打つように、オンライン診療のニーズが溢れた

もっとも、「アイメッド」は当初から一気に普及したわけではない。

2018年3月のサービスイン当初は保険診療を中心とした病院やクリニックでオンライン診療を取り入れようとする動きは鈍かった。要因はオンライン診療の場合、対面診療と比べて診療報酬が低く抑えられていることだった。オンラインよりも対面での診療のほうが高い報酬が得られるなら、病院経営者の多くは当然対面診療を選ぶことになる。オンライン導入へのインセンティブが働かないわけだ。

「また日本の開業医の平均年齢は、およそ50代後半とされている。これまでのやり方に慣れている中で、オンライン診療のような新しい診療方法を導入することに、心理的な抵抗感を抱いてしまう医師が少なくなかった」

一方で、AGAをはじめ自由診療となるSBCメディカルグループ内の医療においては「アイメッド」のオンライン診療システムは積極的に活用されてきた。

「自由診療も含めた月間のオンライン診療者数は、ほかのオンライン診療サービス提供事業者と比べても、おそらく『アイメッド』が一番多いはず。そのぶん多くの経験やデータを蓄積でき、それをシステムの改善に実直に活かしてきた。どこよりもサービスを磨けた」

そして冒頭に述べたように、今春以降コロナ禍により、保険診療分野においてもオンライン診療を取り巻く状況は一変した。多くの患者がわざわざ感染のリスクを冒して病院に行くことよりも、オンラインで診断を受け、薬を処方してもらうことを望むようになってきたからだ。
 
また国もこれまでオンライン診療に関しては、再診時からしか認めてこなかったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて方針を転換。感染が終息するまでの時限措置ではあるが、初診でのオンライン診療についても、公的医療保険の適用対象にした。

病院やクリニックとしては、患者から選ばれる医療機関になるために、オンライン診療システムの導入を避けて通ることはできなくなってきたのだ。

「オンライン診療では、院内感染のリスクが防げるだけでなく、診察にかかる時間も短縮されます。待合室で長時間待たされ、調剤薬局でも待たされ、さらに自宅や職場と病院との往復にも多くの時間を費やさなくてはいけませんでしたが、その時間のロスも一気に解消される。

1度便利さを実感した患者さんは、もう2度とオンライン診療から以前の診療スタイルには戻ろうとはしないはずです」

患者向けのサービスでもあることが「アイメッド」の最大の強み

他のオンライン診療サービス提供事業者が提供するシステムと比較したときの「アイメッド」の強みは、価格優位性だけではない。医療者向けのサービスであると同時に、患者向けのサービスも有していることを独自の特長としている。

湘南美容クリニックのウェブサイトには約130万人の患者数があり、月間約1000万PVのアクセスを保持、そのウェブサイトのトップ画面に「アイメッド」のバナーが貼られている。これをきっかけに「アイメッド」の存在を知った患者は、美容医療以外で医療機関探しをするときにも、「アイメッド」のレビューサイトやAIによる病名予測サービスを参考にして、自分が行くべき病院やクリニックを選定するようになる。その際にその病院やクリニックがオンライン診療を導入していれば、当然患者から選ばれる要因の一つになる。

ちなみに「アイメッド」のレビューサイトには16万件の病院・クリニックが登録されており、口コミの投稿件数は約18,000件にのぼる。 

一方、他のオンライン診療サービス提供事業者のサービスは、あくまでも医療機関がオンライン診療を導入する際にシステムを提供するというもの。患者向けのサービスはないため、患者が行くべき病院探しをする際に、これらのウェブサイトを利用することはない。

病院やクリニックとしては、多くの患者に自院がオンライン診療を実施していることを知ってもらい、選ばれる存在になりたいのなら、「アイメッド」を選択したほうが有利というわけだ。競合にはない大きな強みである。

2050年には製薬や大学も。世界NO.1を目指す

相川氏が「アイメッド」で実現したいのは、患者が豊富な情報をもとに自分が行くべき医療機関や受けたい医師を選定し、仮にその病院やクリニックが遠方にある場合はオンライン診療で受診する、という新しい医療の形を一般的なものにすることだ。

「将来的には、自宅で簡単に血液検査ができるキットが開発されたり、患者の血中酸素飽和度や脈拍数などの情報をウェアラブル端末やスマートフォンと連動させて、医療機関に送ったり、といったことが可能になる時代が訪れるはずです。

つまり検査についても、わざわざ病院やクリニックに出向く必要が少なくなり、オンラインで完結できることがどんどん増えていきます」

すると患者は病院選びをする際の距離的制約から、さらに解放されることになる。極端な話、北海道に住んでいる患者さんが、沖縄の病院やクリニックを受診することも可能だ。

「患者さんとしては病院選びの選択肢が広がり、医療サイドとしても良い医療を届けている病院ならば、遠方からでも患者さんを集められる。全国の病院やクリニックとの競争が必須となる時代にもなるわけですが、それによって医療の質は確実にあがる」

健全な競争が医療サービスを変えていく。もちろん、そのなかで自身のSBCメディカルグループは、中心的な存在として飛躍していく狙いもある。

「すべては患者さんのために、美容外科やオンライン診療だけではなく、保険診療の充実から、製薬などのメディカルサイエンス、さらには医学系大学などの教育機関の設立など、最高の医療を多方面から提供する総合医療グループを目指しています。2050年にはその姿を完成させていたい」

2019年のSBCメディカルグループの展開。

2050年世界における展開目標。

「アイメッド」のサービスの一つであるAIでの病名予測サービスの精度を高めれば、患者が自分の病名の推測するためのツールとしてだけではなく、医師が患者の病状を把握し、治療法を選択する際のツールにもなりえる。いずれはこのAIを使った病名予測サービスを、医師の医療技術のばらつきが大きい発展途上国に輸出し、医療水準の向上に貢献したいと考えているという。

「どこまでも患者さんのために」。その情熱は国境も時代も超えて、続いていくのだ。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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