Passion Leaders活動レポート

[パッションリーダーズ] 定例セミナー

研ぎ澄まされた洞察力とファイティングスピリットで、ニューノーマル時代に挑む!

株式会社ビジョン

代表取締役社長兼CEO

佐野健一

文/宮本育 写真/阿部拓歩  | 2020.08.12

2020年7月28日に開催された定例セミナーに、グローバルWiFi®で成功を収めた株式会社ビジョンの佐野健一氏が初登壇した。現在、200以上の国と地域に同サービスを展開し、昨年は売上270億円以上にまで成長。世界を襲った新型コロナウイルスの影響で大きなダメージを受けるも、佐野氏はこれをチャンスと捉え、次の一手を仕掛ける。いち早く新しい時代におけるビジネスへとシフトし、果敢に挑む佐野氏のスピリットに迫る。

株式会社ビジョン 代表取締役社長兼CEO 佐野健一(さのけんいち)

1969年鹿児島県生まれ。私立鹿児島商工高等学校を卒業後、1990年大手通信会社に入社、トップセールスマンになる。1995年静岡県富士宮市にて株式会社ビジョンを設立。経営理念は『世の中の情報通信産業革命に貢献します』。電話回線、法人携帯事業、電話加入権、コピー機などの通信インフラディストリビューターとして、WEBマーケティングやCRMの仕組みによるモデルで業界トップクラスの販売実績を誇る。2012年より海外用モバイルWi-Fiルーターレンタルサービス「グローバルWiFi®」を開始し、『世界中いつでも・どこでも・安心・安全・快適なモバイルインターネット』境を提供中。2015年より訪日外国人旅行者向けに「NINJA WiFi®」を展開。2015年12月東証マザーズ上場、2016年12月東証一部へ市場変更。

1995年、平成不況の真っただ中での起業

株式会社ビジョンを立ち上げたのは、今から25年前。バブル崩壊から始まった平成不況の真っただ中だった。

起業は学生時代からの夢。それを見据えて、営業力を身につけようと大手通信会社に入社した。またたく間にトップセールスマンの座を獲得、最終的には全国24支店の統括も務めるほどにまでなった。だが、同じ会社の人間同士で潰し合うような競争心が会社の成長エンジンとなっていることに、次第に違和感を覚えるようになったという。

──「個」の力ではなく、「集団」の力で成長したい。

その思いが、ビジョン設立のきっかけとなった。

これを後押ししたのは富士山だったと、佐野氏は当時を振り返る。

「出張で新幹線に乗っていたとき、車窓に広がる富士山を見て、『ここで起業する』と決めたんです。すぐさま新富士駅で下車して、その場で会社を退職し、アパートを借りました」

富士山の目の前、富士宮市での生活が始まり、最初に仲良くなったのは、母国を離れ静岡へ働きに来ていたブラジル人たちだった。

「僕はもともとサッカーをやっていました。静岡はサッカーどころでもあるので、これを機会に地元の社会人チームでめいっぱいサッカーをやりたいと思ったんです。そこでとあるチームに入れてもらったら、メンバーが全員ブラジル人でした」

この出会いが、ビジョンが飛躍するチャンスとなった。

「メンバーと打ち解けていく中で、母国への国際電話が高いという話を聞いたんです。加えて、大不況で残業がなくなり、大変な状態であることも知りました。そこで、彼らを採用して、国際電話サービス事業を始めることにしたのです。これが大当たりで、設立1年目の売上は7700万円、2年目は10億円を達成。誰もやっていないマーケットにスピーディーに参入したことに加え、前職の経験から通信の仕組みや、通信キャリアに交渉すれば国際電話の割引が可能になることがわかっていたというのも大きかったと思います」

そして、得られたものはこれだけではなかった。

「会社のスタッフは全員ブラジル人で、日本人は僕だけでした。仕事はもちろん、日曜になるとバーベキューに呼ばれたり、食事会に誘われたりと、プライベートでも付き合いがあったので、外国人の文化や価値観などを学ばせてもらえました。おかげで、当社の看板サービスであるグローバルWiFi®の開始に向けて、世界中の通信会社と交渉する際も、ストレスがまったくありませんでした。設立当初の経験で国際感覚を身につけられたからこそ、当社はグローバルに展開できたと考えています」

ピンチをチャンスに変える ビジョンの強み

■人材

事業を成功へと導く上で、大切にしているものが3つあると佐野氏は言う。そのひとつは「人材」。会社設立当時のエピソードから、その思いが垣間見える。

「スタッフの大半が、日本の工場へ働きに来ていたブラジル人です。ブラジルでは学歴や資格があっても、月収はわずか2、3万円で、これでは家族を養えない。だから、日本にやって来たのでした。しかし、大不況が彼らを襲います。収入が減った彼らに、時給850円で僕の会社で一緒に働いてくれないかと話したら、泣いていました。

彼らの勤務時間は、昼の仕事が終わった後の18時から22時。この当時の僕の仕事は、とにかく彼らが働きやすいよう尽くすことでした。始業前に彼らを迎えに行き、20時になると彼らの夕食の用意。そして、22時になると、自宅まで送り届ける。それが終わると、事務所に戻って事務処理をし、掃除をして、少し仮眠をしてから、また新しい一日が始まるといったことを、365日繰り返していました」

スタッフを学歴や経歴、性別や国籍で選ぶのではなく、経営理念や経営方針をいかに理解してもらい、誠実に事業活動を行なえる人材であるかを見極める。そして、実務にあたった際は、寝る間も惜しんでスタッフのために徹底したサポートを行なう。これが、ビジョンが大きく成長できた理由のひとつだった。

■データベース

ビジョンは、全売上の約15%(約50億円)が“紹介”から生まれている。これを実現する上で欠かせないのが「データベース」だ。

通常の企業は縦割組織で構成されていることが多い。そして、部署間の横のつながりはあまりない。だが、ビジョンは、横のつながり、クロスファンクションの組織となっている。

「営業は、コピー機のチームも、電話回線のチームも、グローバルWiFi®のチームも、すべて一括りになっています。そして、佐賀にあるカスタマー・ロイヤリティ・チーム(コールセンター)も、マーケティングチームも、すべて横軸でつながっているんです」

このような組織にすることで、何が起きるのか。

「部署間や、営業担当者同士での競争がなくなり、代わりにお互いに協力しようという関係、エスカレーション(事業部間連携)が生まれるんです」

まさに、会社設立時に佐野氏が願った、「個」の力ではなく、「集団」の力での成長を叶えるアイデアであった。

例えば、ある顧客から電話回線の契約を得たとしよう。ビジョンは、そこで終わるのではなく、その後、電話機やインターネット、コピー機など、通信に関する製品・サービスを、部署の垣根を越えて顧客を紹介する体制となっている。

しかも、自ら獲得した契約で50%、他部署へ紹介して成約したものも50%という評価基準を設けているため、積極的に紹介する風土が根づいた。

加えて、成約後、営業担当者は顧客フォローを一切やらない。カスタマー・ロイヤリティ・チームが問い合わせから手続き、アフターフォローを一手に引き受けるため、営業担当者は新規顧客獲得に集中することができる。

このような体制の中では情報共有は必至で、その肝となるのがデータベースということだ。

同体制をつくった理由について佐野氏は話す。

「効率よく利益率を上げたかったからです。理由は、一人あたりのパフォーマンスを上げることで、価格でお客様に還元できるため。業界の常識として、一人の営業担当者が月間で売れるコピー機は約4台と言われていますが、当社は平均20台です。新卒者でも半年あれば15台は達成できます。このことで他社よりも粗利を半分くらいで売ることが可能になるのです。もちろん、決定率(成約率)も高くなるので効率がよくなります」

顧客としても、通信にまつわる製品・サービスをビジョンがすべて請け負う、ワンストップソリューションにすることで、システム構築からアフターフォローまでの全工程を任せ、自社では何もする必要がないという簡便さ、問い合わせに対するクイックレスポンスで満足度が大きい。その快適さから、競合他社がブランドスイッチを促そうとしても失敗に終わるため、顧客流動化の防止にも一役買っている。

■仕組み

「人材」でも「データベース」でもわかるように、ビジョンは業界の常識にとらわれていない。もっとも重要なことは、時流やニーズなどをしっかりキャッチアップできること。その声に耳を澄ませ、斬新なアイデアで市場を切り開いていったからこそ、今のビジョンがあるといっても過言ではない。その一例が、2012年からサービスが開始された「グローバルWiFi®」だ。

「実は、グローバルWiFi®を立ち上げるとき、メンバーとして集めたのは、社内で伸び悩んでいる人でした。新事業を始めるとき、優秀なメンバーを揃えたのに上手くいかないというケースがよくあります。理由は、議論が活性化しすぎて先に進まないため。ならば、スタメンを組む考え方や仕組みそのものを変えてみようと思い立ちました」

この考えは見事的中し、7年経った現在、抜擢されたメンバーは全員中核のエースとなり、グローバルWiFi®は当社の看板サービスとなった。

佐野氏が薦める ニューノーマル時代のサービス

■オンラインセールスの時代

テレワーク導入を進める企業が急増している。社内業務のみならず、いまやセールスもオンラインで行なう時代へと移行しつつある。きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大防止だが、オンラインのメリットはそれだけではないと佐野氏はいう。

「数あるメリットの中で特に注目しているのは『人員の最小化』です。

例えば、埼玉、品川、市原に1時間刻みでアポが入っていたら、これまでは一人では回れないので人員を増やして対応します。しかし、オンラインにすると、すべて一人で対応できるのです。しかも、優秀な営業担当者にすべて任せることもできるので、獲得効率が高くなります。さらに、今までは不可能だった、北海道や沖縄、海外へのセールスもできるように。なので、当社は2年前からオンラインセールスを行なっていました」

移動時間の削減に加え、クラウドサインも可能になった際には、さらに効率が上がる。なおかつ、原価は増えないので、確実に利益率も高くなる。

もちろん、オフラインセールスならではのメリットもあるが、そこも現在のオンラインシステムでカバーできる。

「オフラインセールスのメリットといえば『成約率が高い』で、その理由は顧客の顔や表情が見えるためだと言います。それが理由だとするなら、いまやzoomやmeet inといったツールを使えば、オンラインセールスでも対面のように商談ができます。

便利な機能もあり、meet inは顧客に気づかれず上司からのアドバイスを受けながら商談することができたり、bellfaceはトークの80%を文字起こししてくれます。文字起こし機能については、クレームになりそうな言葉を検索しやすかったり、トークの流れの良し悪しを比較したりといったことにも活用できます」

■テレワークの生産性

働き方改革により2019年4月からすでに推奨されていたテレワークであるが、当時は「これで本当に仕事ができるのか」と、懐疑的な経営者が多かった。だが、コロナ禍でやむを得ず導入したとはいえ、時間や場所にとらわれずに働けること、非常事態下でも事業を継続できるBCPの観点からも、その生産性の高さを実感している人も少なくないはずだ。

「ツールもどんどん登場し、ビジネス向けSNSといったものまであります。当社で利用しているのは『JANDI』。ワンタッチでzoomに切り替えられ、300人規模の会議やウェビナーができるシステムも入っているので、とても便利です。

また、営業担当者の勤怠管理もオンラインで行なっています。現地でボタン操作するだけで出退勤を知らせられるほか、位置情報もすべて記録されているので、いつどこでボタンを押したのかが把握できます。また、出張における飛行機代や新幹線代、宿泊代は領収書がいらないという仕組みも採用しました。営業担当者にとって出張費用の精算は大変で、残業時間のほとんどがそれでした。システムと仕組みによって、中間の経理プロセスが省けるという点も、テレワークによる生産性向上と言えます」

■ビジョンが打ち出す 新サービス

ビジョンでは、自社で実際に使用しているビジネスSNS「JANDI」、勤怠管理システム「VWS勤怠」、Web会議システム「meet in」、電話代行サービス「tele receptionist<テレレ>」の提供を開始している。

システムの導入は、業務へ特化したものであるかが重要で、その良し悪しは使ってみないとわからないというのが現状だ。システム導入に予算を投じたものの使いきれずに終わったという話も珍しくない。

だが、長年にわたり使いこなしたビジョンが推すという点で、顧客の大きな安心感につながる。そこがビジョンの強みでもある。

ほかにも、海外用に活用していたWiFiルーターを、国内WiFiへ転用することにも力を入れている。テレワークや外出自粛により、自宅で過ごす時間が増えたことでインターネットの利用者が急増。ほかにも、GIGAスクール構想などで、今後さらにWiFiルーターの需要が増加する。このニーズにビジョンは応えていこうという考えだ。

さらに、通信事業とは異なる、新たなビジネスもスタートさせた。

「オフィスや店舗で利用できる次亜塩素酸20リットルが定期的に届く、定額制サービス『徹底除菌宣言』を始めました。安定的に、今の時代に必要なものをどれだけお客様に提供できるか。これは新規顧客獲得というよりも、既存のお客様が集客する上で、もしくは安全にオフィスで過ごせるためのお手伝いをしたいと考えて始めたものです。次亜塩素酸のほか、マスク、ハンドジェルの定期便もあり、継続的にやっていこうと思っています」

新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、ビジョンの看板サービスであるグローバルWiFi®の提供を一時休止。これによりダメージを受けようとも、成長を目指して突き進んでいきたいという。

「大変なことがあっても、それをどう捉え、どうチャンスに置き換えられるか、社長のファイティングスピリット、かつ各リーダーたちが部下を鼓舞しながら危機を脱するポイントを見つけられるかが、非常に大事だと思います。これまで以上に、洞察力を研ぎ澄まし、アンテナを張り巡らせば、チャンスになるものがたくさん落ちていることに気づけるはずです。

日本にいながらグローバルという面白いものも考えているので、ぜひ今後のビジョンにご期待ください」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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