Passion Leaders活動レポート

[パッションリーダーズ全国定例会]

ビジネスとデザイン~人が集まるデザインとは何か~

株式会社グラマラス

代表取締役社長

森田恭通

文/宮本育 写真/阿部拓歩 | 2021.07.30

神戸・三宮にあるバー「COOL」の内装デザインをきっかけに、レストラン、ショップ、オフィス、駅など、さまざまな空間を手掛けてきたデザイナー・森田恭通氏。光を巧みに使った美しい空間をつくり出すだけでなく、そこを訪れた人の心をも掴み続ける、モノづくりのセオリーについて、これまで携わったさまざまな事例をもとに語った。(2021年6月25日に開催されたパッションリーダーズ全国定例会より)

株式会社グラマラス 代表取締役社長 森田恭通(もりたやすみち)

1967年、大阪府生まれ。2000年にデザイン事務所として株式会社グラマラスを設立。2001年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど海外へも活躍の場を広げ、インテリアに限らず、グラフィックやプロダクトでもグラマラスなデザインを提案し、さまざまなニーズに合わせて国内外で幅広く創作活動を行っている。直近では、100年に一度といわれる渋谷再開発である「東急プラザ渋谷」(2019年12月オープン)の商環境デザイン、「MIYASHITA PARK」の「DADAÏ THAI VIETNAMESE DIMSUM」「NEW LIGHT」(2020年オープン)、W大阪「MYDO」(2021年3月オープン)のレストランデザインを手掛ける。またアーティストとしても活動しており、2015年からパリにて写真展を継続して開催している。

偶然の出会いで始まったデザイナー人生

森田恭通氏 僕の仕事は、インテリアデザインがベースですが、建築や腕時計、香水の香りのデザインもしています。「デザインする」という意味は、いまやその幅はかなり広くなり、ようやく「デザイン=何でもできる」という世の中になったように思えます。

僕がデザインを始めた35年前、18歳のときですが、デザインでご飯を食べることは難しい時代でした。それもあって、当時の僕はデザインの世界に行こうと思っていませんでした。それがちょっとした偶然からこの世界に入ったわけですが、まずはそのいきさつからお話したいと思います。

16歳の頃、僕はインテリアや建築よりもファッションのほうが好きで、ファッションの世界に行こうかなとぼんやりと考えていました。そんなとき、フランスと日本に提携校がある服飾系の学校があって、そこの校長先生に手紙を書きました。すると、校長先生から返事が届いたのです。やる気があるなら本校に入学して、すぐフランスに行きなさいということが書かれているのかなと思ったら、予想外の内容でした。

「ファッションデザイナーを目指すのはいいかもしれないが、君はまだ若い。何も見ていないし、何も経験していないのに、なぜファッションデザイナーに決めてしまったのか」

校長先生の言いたかったことは、もう少しいろいろなことを経験してから、ファッションデザイナーになるかどうか決めたらどうか、ということでした。

校長先生の言うとおりだな、と思った僕は、アルバイトを始めました。朝から夜中までいろいろな仕事を経験しながら、そこで得たお金で大好きな洋服をどんどん買ったんです。

洋服が手に入ると、今度はそれを着て遊びに行きたくなる。遊びに行くと、今度は女性にモテたくなる。この流れは、鉄板ですよね。

そんなとき、神戸の須磨におしゃれな海の家ができました。バーカウンターがあって、いわゆるトレンディードラマに出てくるようなカッコいい海の家でした。そこでバーテンダーとして働くことになったのです。お酒を飲んではいけない未成年が、お酒をつくって出していたという、今では考えられないことですが、当時はそういうことができたんですね。ちなみに、けっこう評判のバーテンダーでした。

そこで働いているとき、ある常連のお客さんが僕にこう聞いたんです。

「森田君、神戸にいいバーはあるかな?」

思いつくものは、おしゃれだけど若い人が気軽には行けないような高級なバーだったり、気軽に行けても決してガールフレンドを連れて行けるような雰囲気じゃないお店だったりで、その中間というのがなかったんですね。リーズナブルな価格でビールが飲めて、デートにも使えるような雰囲気のバー。当時の神戸をはじめ、大阪にも思い当たるお店がありませんでした。

そんな話をしていたら、「じゃ、つくろうよ。森田君、デザインできるんでしょ?」と言われて、「はい、僕、何でもできますよ、デザイン」と言い切ってしまった。それがデザイナーとしてスタートしたきっかけでした。

デザイナー初仕事は「Shot Bar COOL」

どんなバーがいいか考えたとき、ふと思ったのは、壁にグラフィティと呼ばれる落書きがされている、ニューヨークのアンダーグラウンドにあるバーのようなお店でした。オーナーさんからも一任され、デザインは僕にすべて任せてくれることになりました。

デザインの学校どころか、勉強もしていないので、知識がなく、本当に大変でしたね。それでも、毎日、現場に泊まり込んで、大工さんに怒られながら作業したものです。レンガ造りの壁、床は太い幅のフローリング。雰囲気を出すために、それらを汚してほしいとオーダーしました。当時の大工さんに不思議がられましたよ。新しい店なのにどうしてわざわざ汚さないといけないんだ、と。それでもお願いだから汚してくれと言いながら出来上がったのが「Shot Bar COOL(神戸市)」でした。

オープンすると、たちまち大流行りしました。内装だけでなく、「価格はこれくらいで」「料理やお酒はこんな感じで」といった、僕自身が「こんなお店があったらいいな」と思ってつくったものが、多くの人が求めていたものだったのです。

オープンから35年経っても、改装もリノベーションもなしに、阪神淡路大震災も乗り越えて、今も営業を続けています。

デザインすることで多くの人に喜んでいただけて、オーナーさんのビジネスもうまくいき、僕もお金をいただける。これがデザインの仕事なんだとわかり、生活の糧としてありかもしれないと思ったのが、デザイナーとして生きていくと決めたきっかけでした。

商売の起爆剤となるデザインを生み出す

結論から言うと、35年前当時から、デザインすることに対するスタンスは変わっていません。クライアント様のご商売の起爆剤になるデザインをする。それを一番大切にしています。なので、ターゲットやマーケットによっては、素朴にすることもあります。カッコいいだけが商売でうまくいくデザインとは限らないので。

例えば、ファイブスターのホテルやレストランは、洗練された内装にしないといけないことが多いですが、街のうどん屋さんから依頼が来たとき、同じようなテイストで通用するでしょうか。むしろ、のれんの向こうからオカンが出てくるような雰囲気の方が美味しそうに感じませんか。デザインというのは、クライアント様のご商売をかなり左右するものであると思うので、バランスを考えてつくり出しています。

デザイナーとは相手の目標をサポートする仕事

よくアーティストと間違えられるのですが、アーティストとデザイナーはまったく違う職業です。

アーティストは、自分の主張やスタイル、コンセプトを曲げずにそのまま突き通してモノづくりをする人。それがビジネスになるかどうかは別問題です。しかし、デザイナーは必ずクライアント様がいて、クライアント様が何を目指しているのか、もしくは、クライアント様の競合店やライバル、コンペティターから抜きん出て、どうやったら一等賞になれるかを、デザインを考えながらサポートしていくのが仕事です。

僕がクライアント様とお話するとき、まず、何を目指しているのかを聞きます。そこが最も重要なところで、地域で一番のお店になりたい、孫の代まで商売を続けたいなど、クライアント様にとって大切にしていることをヒアリングのなかで必ず聞きます。そこをすり合わせていき、目標に近づくために一緒に頑張りましょうというのが、デザイナーの基本スタンスだと思っています。

これまで携わってきた主なデザインワーク

【嵐電 北野白梅町駅】(京都)

北野白梅町駅のリニューアルのご依頼をいただいたとき、待ち合わせ場所など、その地域を象徴するようなランドマークにしたいと思いました。駅名からデザインのモチーフを白梅にしました。建物の柱をうまく活用して、中に白梅のアートをあしらい、白梅によって建物が支えられているようなデザインです。夜になるとライトアップもされます。

【Maison cacao ジェイアール名古屋タカシマ店】(愛知)

メゾンカカオは、今とても人気のチョコレート店です。ジェイアール名古屋タカシマヤ店に出店するということで担当させていただきました。ポイントは、メゾンカカオの象徴でもあるブルーを使ったデザインです。デパートの売り場は競合店がひしめき合っているので、そのようななかでも説明のいらないデザインが重要です。そこで、買い物をされているお客様の目に入りやすいよう、全面的にブルーを使いました。また、カウンター下はミラーにし、周囲の空間が映り込むことで、全体的に重くならない印象にしました。オープンした際、オープン記念のチョコレートが目当てだったということもあるかもしれませんが、朝5時からお客様が並ぶほどの盛況ぶりでした。

【GMO hinataオフィス】(宮崎)

もともとはパチンコ店でオフィスにつくりかえるにはさまざまな課題がありましたが、ワンフロア500坪という広さ、何よりも駅前という立地の良さから、何とかしてほしいとご依頼を受けました。結果、シンプルに白く塗っただけで、これだけスマートなイメージへと変わりました。中は、宮崎の特産である杉を使い、天井から太陽の光が漏れているかのようなデザインにしました。室内に使われている木材も、すべて宮崎の木を採用しています。また、フロアには大きな柱がありますが、それを木できれいに巻くことによって、邪魔だったものが空間のシンボルになりました。

【W大阪 鉄板焼き MYDO】(大阪)

W大阪は、日本初のWホテルとして、2021年3月にオープンしました。僕は、その中にある鉄板焼きレストラン「MYDO」のデザインを担当しました。日本のWホテルなので、日本らしさを出したいと思い、障子をイメージしたデザインにしました。外から見るとミニマルな白い壁で、昼間は太陽の光が店内に注がれ、夜は店内から光が漏れるつくりになっています。Wホテルは、お酒をとても大事にするブランドで、MYDOに関してもお酒に関するデザインを求められました。そこで、壁面にワインボトルの底面を使ったポイントをあしらいました。また、店内にはアーティスト・黒田征太郎氏の作品を展示し、夜になるとアート作品の中から光が漏れたり、個室も彼の作品で溢れていて、黒田征太郎美術館といってもいいくらいの贅沢な空間になっています。

【CUCINA】(岐阜)

イタリアンのお店で、十数年来、お付き合いのあるクライアント様です。ちょうどお店として使っている建物の賃貸契約が満期になるということで、これを機に何か新しいことにチャレンジしたいと、新店舗のデザインをご依頼してくださいました。つくりはとてもシンプルで、外壁には清潔感のある白いタイルを並べ、アイラインには店名を書いた窓、そこから中の厨房が見えます。店内は天井高がとても高かったので、これを活かしてシェフオーナーの舞台をつくろうと思いました。予算はなかったので、フライパンやトングなど、金物の調理器具をプレスにかけたアート作品を舞台の背景として使用しました。

【南青山インプラントセンター 佐藤歯科医院】(東京)

南青山にある歯科医院です。歯科医院は清潔感が命ですが、デザイナーとして何かしら爪痕を残したいと思いました。そこで、壁にはビトロカラーガラスという壁面装飾用のカラーガラスを採用しました。デザイン性もありながら、ガラスなので汚れは簡単に拭き取れます。また、エルメスのファブリックを使った模様も入れ、エレガントな雰囲気に仕上げました。エルメスのファブリックは、僕がパリで購入したものです。もともとはカーテンで、それを裁断し、つなぎ合わせています。

【嵐電 嵐山駅】(京都)

京都らしさを演出するため、大きな看板よりもウェルカム感があるのれんを採用。壁面には本物の竹を5000本使っています。このようにリニューアルしたことで何が起きたか。駅の商業スペースの売上が上がり、駅も利益がアップしたのです。そこで、そのお金を使い、老朽化したホームの整備をすることになり、そこでも僕がデザインを担当しました。見どころは、友禅の着物をあしらった回廊。夜になるとライトが点き、幻想的な雰囲気になります。これをつくった当時は、まだInstagramがないときでしたが、今は来た人が写真に撮り、世界中に拡散していく時代です。設置した当初、これを見るためにわざわざ嵐山駅まで遊びに来てほしいという思いが叶い、今ではものすごくバズっています。電車に乗ってホームに入るときも見えるので、遊園地のパレードを見るような楽しさもあります。

記憶に残るデザインをつくり続ける

他にも、ロッテ本店(韓国)、W香港、Mark’s Teppanyakiマリオット台北ホテル、Tse Yang(カタール)、Morimoto South Beach(アメリカ)などを担当しました。これらすべてのデザインをご覧になって、どれもテイストが違うことにお気づきだと思います。それがデザインだと僕は思っています。

デザイナーによって同じデザインを繰り返す人もいますが、クライアント様が何を目指しているのか、誰に勝ちたいのかということを考えたとき、僕は同じデザインであるはずがないと思っています。予算とスケジュールという制限の中で、クライアント様のご商売が発展するために最大のパフォーマンスは何かを考えるのがデザイナーです。ご商売に合わせたデザインをし、お店のお客様となる方々にリピーターになっていただかないことには、ご商売を持続していくことはあり得ないからです。そのためには、記憶に残るようなデザインが必須。それこそが、発展へのチャンスとなるからです。

今はコロナ禍で大変な時期ですが、チャンスはたくさんあると思います。僕らもこの1年でいろいろなことを学ばせてもらいました。仕事が減ると思いきや、むしろプロジェクトは増えています。つまり、こういう時期だからこそ、何かを望んでいる人々がいるということ。その人々が望んでいることをどう先回りし、ご提案するかが商売だと思うので、僕もこれからいろいろとデザインでお力になれるよう、頑張っていきたいと思います。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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