スーパーCEO列伝

【特集】株式会社一家ダイニングプロジェクト Interview with CEO

居酒屋で培った「おもてなし力」を武器にブライダル事業へ 社員とともに歩んだ20年

株式会社一家ダイニングプロジェクト

代表取締役社長

武長太郎

写真/宮下 潤 文/蜂谷智子 | 2018.04.10

お客様に売るのは“満足” 母親の店で教わったサービスの神髄

武長氏は20歳という若さで起業するが、その前に母親の経営するパブスナックと、ホテルでのアルバイトを経験していた。彼はサービスに必要なことの神髄を、18歳の時から手伝っていたそのパブスナック で学んでいたという。

「そこではお菓子のポッキーが1000円ぐらいで提供されているわけです。僕のような若者でも、ポッキーがいくらかは分かります。僕は母子家庭で育ったのですが『自分の母親は、お客様からボッタクリをして僕を育てているのか?』とも思いました(笑)。

ところが、それでも母のお店で何万円も使っていくお客様がいらっしゃる。その方が何を持ち帰るかといったら、モノではなく『今日は楽しかった』という気持ちだけです。それで満足して帰って行かれることに、僕は衝撃を受けました。

サービスの仕事は、モノではなく、満足した気持ちと引き換えにお金をいただいているのだということを、この時に学んだのです」

パブスナックのサービスは、食事や飲み物ではなく接客がメイン。様々な飲食業がある中でも、最もサービスの何たるかが見えやすい業態のひとつだ。その時から、18歳の武長氏の心にサービスを提供することの価値や面白さが刻み込まれていた。そしてアルバイトを始めてからわずか2年後の1997年に、一家ダイニングプロジェクトの前身である有限会社ロイスカンパニーを起業することになる。

他人を喜ばせることの価値を自ら実感する社内イベント

同社では、社員のモチベーション向上に重きを置いている。受け身、草食的な人材が増えているといわれる潮流のなかで、高いハードルを越えようとする意欲を持った人材はどのように育まれるのだろうか。

「まず採用の段階からミスマッチが生まれないように、『人に喜んでもらえることが、自らの喜びや幸せにつながる』という企業メッセージを積極的に発信し、同じ価値観を持つ人材を採用しています。ですから社員はサービス精神旺盛な子が多いですよ。

さらに日頃から社員同士のイベントも盛んに行い、お互いを喜ばせる体験を積み重ねていきます。例えば、うちは創業当初から社員の誕生会を行っています。スタッフの誕生日を社員一丸となって全力でお祝いしてあげる。それで『自分が祝われることもうれしいけれど、他人を喜ばせることはもっと幸せだ』という体験を共有します」

優秀なプランナーを表彰する社内アワード「おもてなし Wedding Award」(2018年3月)

こういったイベントは社員の結束力を強めるだけでなく、「おもてなし」を受ける喜びを実感することにもつながっている。武長氏自身もできる限りこういったイベントに参加するようにしているそうだ。

一家ダイニングプロジェクトにとってのイベントは、単なる従業員慰安の機会ではない。社員からアルバイトまでが、自らが取り組む仕事の価値を実感する研修の機会でもあるのだ。

経営危機を乗り越えて…トップダウンを廃止したきっかけ

一家ダイニングプロジェクトの歴史は、すべてが順風満帆だったわけではない。起業から5年が経った2002年の頃、深刻な経営危機に陥ったのだ。

「当時は毎月、前年比で20%ぐらい売上が落ちていました。毎月300万円から400万円単位で資金がショートしていきます。慌てて銀行に向かい追加の融資を頼んでみたもののかなわず、強い危機感を感じました。離職する従業員も多く、それまでの経営方法を見直さざるを得ませんでした」

その原因のひとつは、効率を求めて行っていたトップダウンの体制づくりや、業務のマニュアル化だった。しかし、現場でお客様を喜ばせようと、不器用ながらも健気に努力している新卒社員の様子を見て、考えを改めたという。

「経営再建に奔走している最中、新卒採用した若手社員に任せていた店を視察に行ったのです。彼らは僕がいっぱいいっぱいになっていた時も、現場で頑張ってくれていました。不器用ながらも、目の前のお客様を喜ばせようとしている姿が、起業したばかりの自分の姿と重なったんです。自分も知識や経験、ノウハウはなかったけど、『想い』だけはあった。この子たちに任せてみようと思えたんです」

その頃から武長氏は、社員をマニュアルで縛るよりも、スタッフそれぞれの力を信じるようになる。それが、現在の体制づくりにもつながっているのだ。

社員一人ひとりを信頼するのが経営のカギ。 いいときも悪いときも、冷静であれ。

経営状態が悪いときは上を見て、良いときは下を見る

「僕自身は経営状態が悪いときこそ、笑顔でいるように心がけています。資金繰りで悩まされると、経営者は、短期的なことしか考えられなくなる。でもそういった空気は、すぐに社員に伝染するものです。

まず自分自身が笑顔になる。それはつくり笑いでもよいのです。人に喜びを与えるサービスで一番大切なのは笑顔ですから」

一方で経営状態が良いときこそ、注意が必要だと武長氏は指摘する。

「モットーは“悪いときには上を見て、良いときは下を見る”です。そもそも過去に経営が落ち込んだのは慢心が原因。ですから経営が回復してからも、冷静さを失わずに組織づくりなどの足元を固めることに注力しています。そうすればチャンスは向こうからやってくるのです。

経営状態が良く、組織がしっかりとしていれば周囲から信頼されますし、いざという時に融資を受けやすい。実際に『The Place of Tokyo』でブライダルに進出するチャンスをつかめたのも、足場がしっかりとしていたからだと思いますね」

経営が波に乗っている時こそ跳躍のチャンスだと無理をする企業も多いなかで、武長氏の考え方は堅実だ。それがパートナー企業からも信頼される理由なのかもしれない。

目指すは“日本一のおもてなし集団”

一家ダイニングプロジェクトは、2016年にDDホールディングスとの資本提携を結び、飲食業態の土台をさらに強固なものにした。そして1997年には、第1号店をオープンしてからちょうど20年後の2017年12月12日に、東証マザーズに上場。今後は飲食以外のサービス分野への進出も視野に入れているという。新たなステージに踏み出した今、武長氏は未来をどのように描いているのだろうか。

「今、日本人は、それまでの誇りであった“ものづくり”の技術が海外に押され、自信を失いつつある局面かもしれません。でも僕がハワイに出店したり、世界中の飲食店を訪れたりした時に感じるのは、『日本人ってやはりすごいな』ということ。

人を招き入れ、その人に喜んで帰っていただくために心を砕く日本人のおもてなしの精神は、千利休の時代から変わりません。この文化を世界の人に、自信をもって伝えたい。私は一家ダイニングプロジェクトを、日本を代表する“おもてなし企業”にしていきたいのです」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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