スーパーCEO列伝

最も経営者の思いを形にできるデザイナー クライアントに寄り添い、ユーザーもハッピーに

株式会社グラマラス

代表取締役社長

森田恭通

文:杉山 直隆 写真:宮下 潤(森田氏インタビュー) | 2020.12.10

グラマラス代表でデザイナーの森田恭通氏は、幅広く国内外のインテリア・デザインを手がけてきた。東急プラザ渋谷の再開発、ジョエル・ロブションの店舗、ニューヨークやパリ、カタールのレストラン、さらには小さな町の飲み屋や屋台に至るまで――。

目を凝らすと、そこには“徹底した顧客思考”“クリエイティブのための妄想力”、そして“タイムレスなデザインへの執着”と、一貫したビジネスにおける王道がある。周囲の期待を超えるアイデアで、クライアント、利用者を含めた大勢の人々を喜ばせてきたスーパーデザイナー。長引くコロナ禍のなかでも、その顧客視点と妄想力で、新たなクライアントに希望を提供する森田氏に、そのビジネス観とビジョンを聞いた。

株式会社グラマラス 代表取締役社長 森田恭通(もりた やすみち)

1967年生まれ。2001年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど海外へも活躍の場を広げ、インテリアに限らず、グラフィックやプロダクトといった幅広い創作活動を行っている。MEGU New York、MEGU MidtownやTHE ST.REGIS OSAKAシグネチャーレストラン、aqua LONDON、嵐電「嵐山駅」、りそな銀行 東京ミッドタウン支店、「東急プラザ渋谷」の商環境デザイン、「MIYASHITA PARK」の「DADAI THAI VIETNAMESE DIMSUM」「NEW LIGHT」レストランデザインを手掛ける。またアーティストとしても積極的に活動しており、2015年より写真展をパリで継続して開催している。2020年11月、自身初の著書「未来を予知する妄想の力 1000のイノベーションを生んだ森田恭通の仕事術」(KADOKAWA)が発売。2020年12月より、商いをデザインするオンラインサロン「森田商考会議所」をスタート。

デザイナーの仕事はクライアントの課題を解決すること

渋谷再開発の目玉として、2019年12月に渋谷駅前にグランドオープンした「東急プラザ渋谷」。詰めかけた人々の目を奪ったのが、タイムレスでありながら多彩な要素に富む贅沢な空間だ。

東急プラザ渋谷 エントランス(2019年、渋谷) 写真:Nacasa&Partners inc

天然の木材と光と影を巧みに使うのみならず、旧東急プラザの外壁の石を再利用、歴史の記憶まで呼び起こした2階フロア。白くエレガントな雰囲気に幾何学模様のタイルで遊びを加えた4階フロア。金色のバーの意匠で華やかながら上品なスペースをつくり出した5階フロア。回遊の楽しみに浸れる空間が、そこにあった。

この全フロアの商環境デザインを手がけたのがデザインオフィス、グラマラスの代表でデザイナーの森田恭通氏である。

デザイナーの森田恭通氏。画家・佐藤誠高氏のアートが印象的なMIYASHITA PARKのタイ・ベトナム料理店「DADAI THAI VIETNAMESE DIMSUM」(2020年、渋谷)にて。

全館のデザインを担当した伊勢丹 新宿本店本館ではアートのような装飾を次々と繰り出して館内をミュージアムであるかのように彩り、日本橋高島屋のル・カフェ・ジョエル・ロブションでは赤と黒を基調にした1万個ものクリスタルを吊るしてアバンギャルドで優雅な雰囲気を表現した。

NAGOYA Francfrancではエントランスに白い羽がペイントされた巨大シャンデリアを鎮座させ、注目を集めた。一方で嵐電(京都電気鉄道嵐山本線)の嵐山駅では、約3000本もの青竹を用いて、雅で厳かな京都らしい駅舎を表現、2011年の再開発では駅全体に友禅の着物のポールからなる森「キモノ・フォレスト」を生み出し夕方以降の嵐山駅に人を呼び戻した。国会議事堂内にある国会中央食堂では、クラシカルな日本の美と伝統を感じさせる誇り高い空間を生み出してもいる。

伊勢丹新宿本店 3F(2013年、新宿) 写真:Nacasa&Partners inc

LE CAFE de Joel Robuchon(2004年、日本橋) 写真:Nacasa&Partners inc

NAGOYA Francfranc(2010年、名古屋) 写真:Nacasa&Partners inc

2001年以降はニューヨークやロンドン、香港、カタールなどで数々のホテルやレストランをデザイン。グローバルでも名声を轟かせている。

そんな経歴を聞くと、いかにも切れ者な人物像を想像する。しかし当の森田氏は“気さくな関西のお兄ちゃん”といった雰囲気。天才的なデザインの源について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「カタカナ職業の『デザイナー』って、よくアーティストと勘違いされる。アーティストは自分が良いと思う芸術作品をつくるのが仕事ですが、デザイナーはそうじゃありません。デザイナーの仕事は、お客様の課題を解決することです。クライアントに伴走し、その商売に合ったデザインをすることで、エンドユーザーもクライアントもハッピーにします。僕が手がけた店舗やホテルを『作品』と呼ばず『物件』と呼ぶのも、それが理由です」(森田恭通氏、以下同)

現場叩き上げで、デザインを学ぶ

森田氏が歩んできた道のりは決してエリート街道ではない。デザインの知識を学校で学んだことはなく、すべて現場で身につけてきた。

スタートは18歳。先輩から「神戸で良いバーはないか?」と聞かれ、「ニューヨークのアンダーグラウンドなバーがあったら良いのに」とイメージを話したら、「では、森田君、やってみるか!」とデザインすることになった。デザインのイロハも知らなかったが、『VOGUE』や『ELLE』などの雑誌の切り抜きを大工に見せつつ、「こんなことできませんか?」と依頼したという。

「『床をわざとペンキで汚してほしい』と大工さんに頼んだら、『なんで新しい物件にそんなことするんだ!?』と拒まれましたが、『ニューヨークはこうなんです!』と何もわからないのに言っていました(笑)。現場に寝泊まりしながら、完成させたのが、バー『COOL』。この店が人気を呼び、30年たった今でも同じ内装のままで営業しています」

Shot Bar COOL(1987年、神戸) 写真:seiryo yamada

これでデザインの醍醐味に目覚めた森田氏は、自身で独自にデザインの仕事を請け負いながら、デザイン事務所でもアシスタントとして働き始めた。やがてクライアントから、店舗やホテルのデザインの指名を受けるようになり、27歳でインテリア・デザイナーとして独立した。

もう一つの転機は、30歳直前で、ロンドンの国際インテリア展示会「100% Design」に出展したことだ。思い切った背伸びだったが、これをきっかけに香港やニューヨークのレストランをデザインする仕事が舞い込む。それを成功させると、世界各地で声がかかるようになった。

「海外での店舗デザインは想像以上に文化の壁がありました。例えばロンドンではテラスの塗装の色がロイヤルのレギュレーションで決まっていたため、すべて事前に確認を取る必要があった。カタールのレストランでアジアの神秘を表現しようと、日本から仏像を2体発送したらイスラム教の偶像崇拝禁止に触れたため税関で止められ、行方不明に。しかし、そうした壁にぶつかることで、新たなアイデアが生まれ、ノウハウがたまっていきました」

現場で“もまれる”なかで、森田氏はデザイナーとしてのポリシーを確立していく。その基本姿勢が、冒頭で述べた“顧客志向のデザイン”だ。

「『デザインは商売の起爆剤でなければいけない』。これが僕のデザインの鉄則です。お客様の商売に合ったデザインとは何かを考え、洋服のオートクチュールのように、一店一店仕上げていきます」

目指すのはアバンギャルドで「タイムレス」

では、商売の起爆剤となるデザインとは何か? 森田氏が強く意識しているのは、長く愛される「タイムレスなデザイン」だ。

「いわゆる“映える”デザインで、SNSでたくさん取り上げられれば、一見、成功のように見えるかもしれません。しかし僕たちは、スマホのカメラで撮るための店をつくるべきではない。目立つことだけを考えてデザインしたら、すぐに飽きられて、短命な店になってしまうからです。ビジネスで重要なのは“リピーターを生む”こと。そのためには地元の人たちに愛される、居心地の良いデザインにすることが大切だと考えています」

実際、森田氏がデザインした店は長く愛されていることが多い。初めてデザインした『COOL』をはじめ、ほかのバーやホテルも何十年と改装していないことが珍しくない。

「ただ、タイムレスなデザインとは無難なものを意味しているわけではありません。やはりオリジナリティがないと、お客様には振り向いてもらえません。登場した当初はアバンギャルドに見えるけれども、しばらく経つと、なくてはならない存在になる。そんなイメージのデザインを目指しています」

取材は、BALCÓN TOKYO(2020年、六本木)にて行われた。

デザインに欠かせない妄想

アバンギャルドでタイムレス。そんな相反するようなデザインの起点として、森田氏が大切にしているのが「クライアントへのヒアリング」だ。

「僕が呼ばれるのは、会社が新しいチャレンジをするとき。そうした会社は、必ずすでに素晴らしい実績を積み上げています。だからまずは実績を尋ね、将来のビジョンを聞きます。するとだんだんと方向性が見えてきます」

とはいえ、クライアントにヒアリングし、要望を形にするだけでは、平凡なデザインしか生まれない。

「誰がやっても同じようなデザインをするなら、僕じゃなくてもいいでしょう。そこで、クライアントの望みとは少し外れたデザインもあえてご提案します」

そのアイデアを生み出す上で欠かせないのが“妄想”だという。

「好き勝手に頭の中で考える、というわけではありません。僕はデザイナーですが、その前に“いちお客さん”でもあります。そのお客さんとしての立場から見て、『この店はどんなシチュエーションで行く店なのか』『その場合、どんな店だったらいいのか』『こんな店だったらいいな』と妄想するのです」

例えば、高級レストランのデザインを依頼されたとしよう。その場合は、スーパーモデルの女性を食事に“お連れ”することを妄想する。はじめに「どんな店がいいか」、全体像を考えたあと、家を出るところから始まって、到着から席につき、食事をして、帰るところまでを事細かにシミュレーションし、ディテールを考えていくという。

「すると、『エントランスが短いと期待感がなくなるので、ギリギリまで長くしたほうがいいだろう』『彼女は10センチの高いヒールを履いているだろうから、通路を飛び石にするとひっかかって危ないな』『店に入ったら、柔らかな光に包まれて安心できる空間にしよう』『テーブルやイスの大きさはこれぐらいがいいかな』『化粧直しのときにバーキンを置けるような台をつくろう』などとアイデアが出てきます。デートの脚本を書いていくなかで、店のデザインの原案ができてくるわけです」

「朝シャン・昼シャン・夜シャン」というほどシャンパン好きで知られる森田氏。“シャン”が進むほど妄想も膨らむ?

時には、自分とかけ離れた想定顧客層の店を手がけることもあるだろう。その場合は、身近な人の視点に立って妄想するという。

「自分が住むならもっと派手にしちゃうけれど、弟はシンプルな生活が好きなんですね。だから、マンションをデザインするときなら、自分だけの視点じゃなくて『うちの弟家族ならどんな家に住みたいと考えるだろう?』となりきって妄想したりする。ワンルームマンションなら『若いあの友人ならどんな部屋が好みかな……』とか。

僕自身も、経営者仲間とも遊ぶし、気の置けない友人やスタッフたちと遊ぶのも好き。いつもシャンパンを飲んでいるように見られるのですが、屋台のラーメンも食べますし、サワーのようなお酒も飲みます。単純に楽しんでいるのもあるけれど、妄想の“糧”になるから、森田はどこでも行く。だから、いろんな視点で物事が見られるのかもしれません」

このような妄想は、クライアントの要望があったときだけでなく、普段から行っているという。

「プライベートで遊んでいるときは、『こんな店があったらいいのにな』『こんな商品があったらいいのにな』と四六時中考えています。そういうことを考えるのが楽しいんですよね。その妄想がストックになって、仕事で役立つこともあります」

こうした日々の妄想があるから、アイデアが枯渇しないというわけだ。

「デザイン案ができたら、図面に落とし込んでいきます。そのときには『テーブルの角をとんがった形にしない』『座っている女性のスカートの中が見えにくいようにする』など、あらゆる点を細かく突き詰めていく。完全にビジネス視点です。カッコだけじゃこの仕事はできない。むしろ最後の詰めが甘いと、デザインが台無しになってしまいますから、非常に重要です」

きらびやかなデザインの影に隠れているが、このような見えない部分へのこだわり、「ビジネスの現場」への真摯な姿勢も、森田デザインの真骨頂だ。

日本酒とおばんざいの店、おざぶ(2017年、京都) 写真:Nacasa&Partners inc

コロナ禍で始めた「著書」と「オンラインサロン」

新型コロナウイルスの感染拡大は、森田氏のビジネスにも大きな影響を与えた。海外での仕事はできなくなり、日本でもしばらくは新規プロジェクトが凍結されてしまった。ただ、時間の余裕ができたことで、これまでを振り返り、今後の構想もゆっくり練られたという。

「このコロナ禍でしか出ないアイデアが出てくるかもしれない。そう考え、今までとは違うことをいろいろやってみようと思い始めました」

そこで挑戦したのが、自身初の著書を上梓することだ。2020年11月に自著『未来を予知する妄想の力』を発刊した。

「これまでは自分の話を本にすることは『そんな器じゃない』といって断り続けてきたんですけどね。しかし、このコロナ禍のなかで、自分たちのやってきたことや、今考えているアイデアの話をすることで、少しはお役に立てるのではないか、と」

デザイナーであり経営者でもある森田氏の仕事に対する考え方が詰まった、ビジネスパーソンが読むべき一冊。

12月からは、オンラインサロン『森田商考会議所』もスタートした。コンセプトは「商いを考える」。経営者のゲストを招いて話を聞いたり、デザインのアイデアを話し合ったりする。実は普段、森田氏はSNSが苦手で、ほとんど更新していない。それどころか、パソコンもめったに触らないほどだ。なぜオンラインサロンを始めたのか?

「最初の動機は、人と触れ合う機会をつくるためです。この自粛中、家族以外の人とほとんど会わない時間を過ごすなかで『デザインとは人と触れ合わないと出てこない』と痛感したんですね。では、どうやってコミュニケーションをとっていくべきか。そのときに、オンラインサロンを勧められたのです。お互いに“商い”を考えられる場になれば、参加者の方にも僕にもメリットがあるな、と。デザイナーに限らず、幅広い分野の方たちに参加していただきたい。何しろ『商考会(商いを考える会)』ですからね」

ネクシィーズとの提携でもたらされるもの

2020年8月、ネクシィーズグループとも提携したことも大きなトピックだ。ネクシィーズグループの「ネクシィーズ・ゼロ」では、店舗や法人向けに、LED照明や空調設備、厨房機器といった業務用設備を初期費用なしで導入できるサービスを手がけている。今後、このサービスの新メニューとして、全国各地の利用者に、グラマラスの空間デザインを提供していく予定だ。

「僕はラグジュアリーな店や施設を手がけているイメージが強いのですが、実際は小さなバーや、“おかん”が一人で営んでいる定食店のような、小さな店舗のデザインも手がけています。マーケットレンジが広いほうが、僕もやっていて楽しいんですよね。

そういう意味で、ネクシィーズ・ゼロと組んで仕事を行うことは、これまで出会ったことがないマーケットのお客様たちと知り合う機会が増えるので、非常に楽しみ。全国津々浦々のレストランやホテルのお客様たちに、自分たちがデザインを提供すれば、面白いことになると思っています。1軒の店によって町は変わることがある。僕たちも、小さくてすばらしいカフェやレストランをつくり、人が集い、活気が生まれ、町を変えてきた経験がある。そんなお手伝いをしていきたいですね」

»「ネクシィーズ・ゼロシリーズ」グラマラスと業務提携 GLAMOROUSデザインを初期投資ゼロで導入

クライアントに伴走し、商売の起爆剤となるデザインを提供する。森田氏の基本姿勢は常に変わらない。コロナ禍のなかで沈んだ企業が多いなか、森田氏のデザインは全国に大きな希望を与えるに違いない。

SUPER CEO Back Number img/backnumber/Vol_56_1649338847.jpg

vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
コンテンツ広告のご案内
BtoBビジネスサポート
経営サポート
SUPER SELECTION Passion Leaders