スーパーCEO列伝

必要なのは「ユーザーフォーカス」の徹底 マネーフォワード流、なくてはならないサービスのつくり方

株式会社マネーフォワード

代表取締役社長CEO

辻庸介

文/吉田祐基(ペロンパワークス・プロダクション) 写真/片桐 圭 | 2019.08.07

マネーフォワードは、利用者数800万人を超えた家計簿アプリのほか、売上の5割以上を占める法人向けクラウドサービスなどを通じて、個人・法人問わず“お金の見える化”を推し進めている企業だ。

昨今のキャッシュレス化や会計のクラウド化に象徴されるように、この分野は変化のスピードが速く、生活やビジネスの根幹に密接にかかわるため、競合も多い。

ユーザーにとってなくてはならない存在で居続けるために、マネーフォワードが実践してきた「ユーザーフォーカス」とはどんなものだろうか?

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長CEO 辻庸介(つじ ようすけ)

京都大学農学部を卒業後、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー株式会社、マネックス証券株式会社を経て、2012年に株式会社マネーフォワード設立。2017年9月に東証マザーズ上場を果たす。新経済連盟の幹事、経済産業省FinTech検討会合の委員を歴任。

資産の“見える化”から“貯める”“増やす”まで

マネーフォワードの現在の主要事業は、「お金の不安を解消したい」という思いをもとに、個人向けの家計簿アプリの提供から始まった。なぜ不安を解消するための手段が、家計簿アプリだったのだろうか。

「貯金や資産運用を行うにも、まずは自分の資産状況を把握するところから始まりますよね。現在の自分がわかれば、将来の資金を確保するために毎月いくら貯金する必要があるのか、毎月いくら積立投資を行っていくのかなどを把握できます。そこでまずはスタート地点を把握できるサービスをつくろうと、家計簿アプリを始めました」(マネーフォワード代表取締役社長CEO 辻庸介氏、以下同)

お金の流れを“見える化”する個人向けの家計簿アプリ『マネーフォワード ME』は、2012年12月のリリース以降、右肩上がりで利用者数を増やし、2019年5月に800万人を突破。ビジネスパーソンから主婦まで、地域や年代・性別を問わず幅広いユーザーに利用されている。

家計簿アプリを入口にキャッシュレス化も進むという。

「家計簿アプリ内で完結するように記録を残したくなるので、スマホ決済やクレジットカードなど、決済手段についても自然とキャッシュレス化する動きは増えていますね」

また、マネーフォワードでは、“見える化”以外にも、お金を“貯める”“増やす”をサポートしていきたいと考えている。

例えば、貯金を促すための手段として『しらたま』という“おつり貯金アプリ”の存在がある。また、ロボアドバイザー『THEO(テオ)』を提供する株式会社お金のデザインと資本業務提携を行い、今後も資産運用の促進に注力していく。

「まずは『マネーフォワード ME』を通してお金の見える化から始めてもらって、その後のアクションとして『しらたま』やロボアドバイザーなど、目標とする資産を確保するためのアプローチ方法をいろいろとユーザーの皆様に提示しているところです」

クラウド化による業務効率化への意識は付加価値を生む

マネーフォワードでは、個人向けサービスのほかに法人向けサービスも提供している。その主軸となるが、『マネーフォワード クラウド』だ。今では売上の5割以上を占めるほどに事業を成長させている。

『マネーフォワード クラウド』はもともと、会計、請求書、経費など複数あるサービスを個別に申し込むかたちで提供していた。

しかし2019年5月の料金体系変更で、これまではバラバラに提供していたサービス群を1本化し、料金体系もシンプルにした。

会計以外の機能も1つのサービスに集約されることで、例えばこれまで会計は『マネーフォワード クラウド』を使っていたが、請求書は別途Excelで作成するといった場合においても、すべてクラウド上で完結する。会計以外の部分も手動で入力するなどの手間が省けることで、さらなる業務効率化につながる。

同社の提供するサービスによって業務効率化が進むことで、新たな付加価値も生まれるという。

例えばある飲食店では、同社のクラウドサービス導入をきっかけに業務効率化への意識が芽生え、オペレーションにおいても客が持っているスマホを注文端末として利用できる仕組みを導入。

その結果、店員が客の注文を聞きに行く手間が省け、空いた時間で「おかわりいかがですか?」といった声をかける余裕が生まれた。店員の声かけによって、ドリンクを注文する人が増えれば、必然的に飲食店の売上も増加することになる。

「業務効率化によって空いた時間で、新たな付加価値が生まれるというのは(クラウドサービスをはじめとした)サービスを導入する大きなメリットだと思いますね」

“なくてはならない”サービスをつくるためにユーザーとの直の対話は不可欠

これら個人向け・法人向け問わず、サービスをつくる上で辻代表が最も大事にしているのは「ユーザーフォーカス」という概念だ。

実は創業当初、資産管理情報をオープンにして誰もが見られるようにする「マネーブック」というSNSサービスを立ち上げ、失敗したことがある。原因は自らの思い込みだった。

「マネーブックは『これはいけるはずだ』という自分の思い込みからスタートして、結局うまくいきませんでした。そこでユーザーに使ってもらうことがすべての価値の始まりだと、改めて感じたんです。

サービスは、『あったら良いな』よりも『なくてはならない』という発想でつくらなくてはいけない。つまり『本当に、ユーザーが抱えている課題を解決できるのか』という発想が大事なのです」

「ユーザーフォーカス」を実現するために取り組んでいるのが、直接的なユーザーとの対話だ。

「サービスを開発する際、上流工程において何をつくるかを決める前に、ユーザーヒアリングをしっかりと行います。弊社が提供するサービスはほとんどがオンラインで完結するものですが、ユーザーと実際に会って対話することは常に意識していますね」

一つの実例として、「SHIP」というコミュニティをつくり、企画やマーケターだけでなく、デザイナーやエンジニアなどサービスの開発にかかわる社員と、『マネーフォワード ME』のユーザーとが直接つながる交流会を定期的に開催している。

辻代表自身も、今でも自らが地方に出向いて法人向けクラウドサービスの営業活動を行っているという。

「ユーザーの声を自分自身が絶えず聞いておかないと、いま何が求められているのか、また、会社の向かう先にユーザーがついてくるのかわからなくなります。

そもそも私たちが考えていることは、サービスを提供する側の目線に寄ってしまいがちです。だからこそユーザーが思っていることと、私たちが思っていることにはズレがあるという前提を踏まえて、サービス開発に取り組むことが大事だと考えます」

顧客の声に絶えず耳を傾けるという基本を大切にしながら、サービス開発に取り組むマネーフォワード。今後も、提供するサービスを通じて「お金の悩みから解放される」人を増やしていくだろう。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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