ヒラメキから突破への方程式

自ら抱える問題に気付き、乗り越え世界に広げる

株式会社オウケイウェイヴ

代表取締役社長

兼元謙任

写真/宮下 潤、動画/トップチャンネル、文/内田丘子 | 2017.01.25

日本最大級のQ&Aサイト『OKWave』。質問や悩み事を投げかければそのジャンルに精通したユーザーたちから問題解決に有効なヒントを得られる。お世話になったことがある人も多いだろう。

「こんなサイトがあったらいいのに……」事業の原点は、兼元謙任社長の経験に基づく純粋な気持ちだった。今日までの道のりに幾度となく困難な局面はあったがそれを突破させたのは、守り続けてきた初心と「これに生涯をかける」と決めた覚悟である。

株式会社オウケイウェイヴ 代表取締役社長 兼元謙任(かねもと かねとう)

1966年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学美術学部卒業。建築会社、デザイン事務所勤務を経て上京し、99年、(有)オーケーウェブ(06年に称号変更)を設立。会社設立前の2年間をホームレスとして過ごし、その経験が今日の大きなバネになっている。2000年1月よりQ&AWeb サイト『OKWave』の運営を開始。2006年、名古屋証券取引所セントレックスに上場を果たす。米国Microsoft 社との業務資本提携、世界20カ国語に対応する多言語ソーシャルQ&Aサイト、OKWave総合研究所の設立など、グローバルな展開が進んでいる。掲げるミッションは、「“ARIGATO ”で世界をつなぎ幸せで満たす」。

ノートパソコン1台を手に、単身名古屋から上京。しばらく食うや食わずの生活が続くなか、デザインワークの心得があった兼元社長は、やっとの思いで仕事を得た。HPの制作である。

「ところが、400 ページくらいを1週間で納めるという無茶な仕事で(笑)。90年代後半の話ですから、今のような便利なソフトもないし、頭を抱えてしまいました」

何か解決策はないかと、兼元社長が試みたのは電子掲示板への書き込み。しかし返ってきたのは、「仕事の質問をこんなところでするな」「聞き方が悪い」などといった非難の言葉だった。

「解決に導いてもらう前に、僕の“お作法”が問題になり、最後は『出ていけ』状態でした。実はこの時のつらい気持ちが、きっかけになったのです。仕事のことだけじゃなく、例えば人間関係の悩みとか、誰でも自由に質問や回答を書き込めるWeb サイトがあればいいのにって」

ならば自分がつくればいい――パッと見えた瞬間だった。事業としてうまくいくという確信があったわけではない。芽生えた純粋な気持ちが、兼元社長を奮起させたのである。

「始めるには資金が必要でしたから、付き合いのあった社長さんたちに相談をしたのですが、ことごとく理解を得られない。『そんな見ず知らずの人のために、誰が答えるの』『質問と回答だけで成立するわけがない』。一番多かったのは、そういう反応でした」

せっかくのアイデアを諦めきれない兼元社長は、借金をして臨むつもりだったが、上京以来、家族に仕送りしていたお金を、妻がそのまま差し出してくれた。

「それでも資金は脆弱でしたから、つてを頼って無料でプログラムを書いてくれる人を探しまくったんです。当然断られてばかりですよ。もうダメかとあきらめかけた時、出会ったのが米国人のプログラマーでした。彼は僕のアイデアを『面白い』と言い、1カ月ほどでパイロット版をつくってくれたのです。夢のようでした」

「チャレンジしているうちは失敗はない。あきらめた時が失敗である」という名言があるが、兼元社長はそれを体感したという。

「しつこく、粘り強くやり続ける。そうしていると、これが最後だと思えるような局面で、思わぬ支援者や出来事を引き寄せるものです」

3000万件以上のQ&Aデータベースを強みに世界規模でビジネス展開。20カ国語対応のQ&Aサイト『ARIGATO』は現在200カ国で利用されている。

『OKWave』のオープンは2000年1月。当初はシステムにバグが発生するなど、事態の収拾に追われたが、半年ほど経つと安定してきた。

「ある時、登録会員数がグンと跳ね上がって1万人を超えたんですよ。調べてみると、かつて僕が追い出された掲示板に、『こんな面白いコミュニティサイトがある』という書き込みがあったらしく、そこから広がっていったのです。面白いものですよね。僕は、その掲示板から事業アイデアを授かり、ユーザーももらったのですから、2回助けられたことになる(笑)」

インターネット系の雑誌にも取り上げられ、注目されるようになったこの事業に、出資をする起業家も出てきた。しかし一方で、Q&Aは集まってもPV(ページビュー)が伸び悩んでいた当時、広告を集めて収益を挙げるという事業計画は、思うように進まなかった。

「3年間、赤字でした。出資を受けて助かったものの、支援者からは『赤字は悪である』と厳しいことも言われました。もっともです。収益を出さなければビジネスは成立しない。でも、僕には『人の役に立つことをやり続けたい』という強い気持ちがある。

模索するなか行き着いたのは、ほかの事業で収益を確保し、循環させ、一般向けのQ&Aサイトは続けるという考え。それで始めたのが、企業向けのビジネスです」

2006年6月に兼元社長(写真左)の地元、名証セントレックスに株式上場。企業向けソリューション事業で強固な経営基盤を築き上げた。

企業のヘルプデスク用にFAQ ソリューションを提供するサービスだ。それらは現在、『OKBiz』シリーズとして大きく成長している。
今や登録会員数は250 万人以上、月間1億1000万PV(2014年1月現在)を誇る規模となり、多様なソーシャルメディアや、ユーザー、企業を未来につなぐ総合研究所を立ち上げるなど、兼元社長は走り続けている。

「僕は、Googleを超えたいと思っているんですよ。もっと深く、そして世界中の人間の知恵をつなぎ、悩みや困り事を抱える人に最適なソリューションを提供するということ。

PVではなくページバリューの時代が必ずやってきます。その時、本当の『ありがとう』『助かった』を言い合える世界を我が社がリードして広めたい。そこが原点だし、僕はこれを一生涯やると決めています。こういう覚悟があれば、どんな障壁も超えられる――そう思うんですよ」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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