ヒラメキから突破への方程式

結婚式場は“駅近”で勝負!業界の常識を打ち破って急成長

株式会社エスクリ

代表取締役執行役員社長

岩本 博

写真/芹澤裕介、動画/トップチャンネル、文/高橋光二 | 2016.06.10

岩本博のポートレート 結婚式場にて
“駅近”にこだわったマルチスタイルの結婚式場を展開し、ヒットを続けているエスクリ。創業者の岩本博氏は、旧態依然としたブライダル業界にビジネスチャンスを見出し、“システム化”を徹底。高品質のサービスを安定的に提供し、創業わずか10年で東証1部上場を果たす。目指すは、業界ナンバーワンのブライダルカンパニーだ。

株式会社エスクリ 代表取締役執行役員社長 岩本 博(いわもとひろし)

1965年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、サントリー株式会社を経て、91年株式会社リクルート入社。結婚情報誌「ゼクシィ」の立ち上げに参画。以後10年間、営業の責任者として、集客や施設運営に関する企画提案を行う。03年株式会社エスクリを設立。10年東京証券取引所マザーズ市場へ上場。東京八重洲のオフィスビルやJR大阪駅の駅ビルに結婚式場を開業するなど、業界の常識にとらわれない新しいスタイルのウェディング会場を展開し、「ブライダル業界で最も成長している会社」として高い評価を得ている。

駅ビルや、駅から徒歩数分というアクセス抜群の立地に結婚式場を展開するとともに、徹底した“システム化”による高品質のサービスでユーザーの支持を集め、創業から10年足らずで東証1部上場を果たした株式会社エスクリ。旧態依然としたブライダル業界の常識を破る施策の数々を打ち出し、2020年までにシェア・ナンバーワンを目指している。

代表取締役会長の岩本氏は、かつて、リクルートでブライダル情報誌「ゼクシィ」の立ち上げに関わり、その後10年間で全国展開させていった立役者。そのプロセスで、ブライダル業界は家族経営的な小規模の事業者が大半を占め、マーケティングやシステム化といった経営のイロハもほとんど導入されていない実態を知る。  

「最大手でもシェア3%程度。仕組みをつくれば勝てると思いました」

以前から独立志向のあった岩本氏は、人の一生で最高に幸せな瞬間を演出するやりがいにも魅力を感じ、ブライダル業界での創業を決意。そして、絶対に勝てる競争優位性を見出すべく徹底的に市場分析を行った。

2000年代をはじめ、業界ではハウスウエディングが一大ブームとなり、「ハウスウエディングでなければ成功しない」とまで言われた。 

「しかし、私は冷静に『本当にハウスウエディングが10年後、20年後も王道であり続けるのか?』と疑問を持ち、分析してみたのです。すると、一般的な式場で勝ち残っているところがある。どこもアクセスがいいという共通項がありました。

ちょっと考えれば当たり前だと気づいたんです。都市部の結婚式には、実家のある地方からも親類や友人がたくさん招かれる。不慣れな土地、駅に近ければ近いほど喜ばれるわけです」 

その時点でアクセス性を強みにした同業は見当たらず、岩本氏は“駅近”であることを第一優先とし、その上でレストランやゲストハウス、専門式場などマルチスタイルの出店戦略で勝負する意思を固める。

結婚式場「ラグナヴェール」

東京駅徒歩5分の「ラグナヴェールTOKYO」は“日本初のオフィスビル内結婚式場”として話題に。

「駅から徒歩5分以内にしかつくらない。正直不安はありましたが、これしかないと決意しました」 

2005年、1号店の「ア・ラ・モード・パレ&ザ リゾート」を神戸市にオープン、狙いどおりにアクセスの良さに申し込みが続いた。

こうして事業は順調に立ち上がったものの、岩本氏はさっそくいくつかの壁に突き当たる。まずは“人材”。企画営業の役割を担うウエディングプランナーは、8割を女性が占める。結婚・出産適齢期の女性が大半であった。

「3~4年手塩にかけて育て、さあこれから収益に貢献してもらえると思った矢先、『実は結婚が決まりまして……』と退職する人が相次いだのです。式場の業績を直撃する事態でした。 『ノウハウは人ではなく、会社にためなければならない』と痛感し、優秀なウエディングプランナーのノウハウを蓄積・共有するシステムを構築することにしました」

このナレッジマネジメントにより、入社したばかりの新人ウエディングプランナーも早くノウハウを習得し、貢献できるようになった。

次にぶち当たった壁は、“問い合わせ対応”だ。『ゼクシィ』を見た見込み客は、電話で式場に問い合わせをしてくる。集中するのは土日。しかし土日は、プランナーは式の立ち合いや顧客との打ち合わせで忙殺されてしまう。

「ある時、入ったばかりのアルバイトが電話対応しているのを見て愕然としたのです。何の研修も受けていないので、お客様を怒らせ、切られてしまうこともありました。これではせっかく『ゼクシィ』に出稿した意味がありません。そこで、各式場への問い合わせを集中して受けるコールセンターをつくることにしました」

この業界初のコールセンターで、成約率は大幅に向上した。さらに岩本氏は、外注が常識だったドレスやフラワー、写真撮影の内製化にも着手する。

結婚式が春と秋に集中するブライダル業界では、専門分野を内製化すると、担当者が閑散期に“遊んで”しまうことになるため、外注化が当たり前だった。しかし、外注業者は直接マネジメントできず、自分たちの思うような品質のサービスを提供してもらうことがなかなか難しい。

「当初は外注業者とのトラブルもたびたび起こりました。ならば内製化しかありません。そこで、リソースを“遊ばせる”ことなく内製化できるスケールに成長するまで我慢しながら徐々に準備を進め、年間1000件を超えてから、まずドレスの内製化に踏み切りました。年間5000件を超えた今、ドレス・ヘアメイク・フラワーの3分野をほぼ100%内製化しています」

内製化により品質は向上、顧客満足はもちろん、利益も上がるという成果につながっている。このように数々の改革でブレイクスルーを果たしてきたエスクリは、“シェア・ナンバーワン”を目指していくつもの戦略を講じている。

ひとつは他の式場に自社のノウハウやシステムインフラを活用してもらい、“広義のシェア獲得”につなげるコンサルティング事業への進出。結婚式に費用をかけられない顧客のための、平日利用などの低価格プランの導入。リゾートウエディングニーズに対応した、沖縄への出店などだ。

沖縄の結婚式場

シェア・ナンバーワンを目指して、沖縄への出店など、近年は商品の多様化にも注力している。

「沖縄も、どこより空港に近い“駅近”です(笑)。これには台湾や香港の方が式場でパーティーを行う“インバウンド”のお申込みが相次ぐ、うれしい誤算もありました」  さらに、草原や海岸という変わったロケーションでの挙式を手がける会社を買収、多様化するニーズにも応えていく。

「この業界も今後、寡占化が進むと見ています。当社もグループ化を進めて、お客様から『エスクリなら、あらゆる結婚式に対応してくれる』と言っていただける世界をつくり上げたいと思っています」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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