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田辺宗 【京つけもの・味噌】
文/中野祐子 撮影/田村和成 | 2019.08.09
田辺宗 【京つけもの・味噌】
1875年(明治8年)創業。自家製味噌、つけものの卸売りから始まり、二代目から小売りを開始。「料亭の味を気軽にご家庭で」という思いのもと、作られる商品はどれも上品な味わいとお求めやすさが魅力。千枚漬、しば漬などの定番から、トマトやヤングコーンといった画期的な商品も開発。つけもの・味噌をメインにした京料理がいただけるレストラン「旬彩ダイニング 葵匠」も店内に直営。
株式会社ネクシィーズグループ
代表取締役社長 近藤太香巳
19歳の時、50万円を元手に会社を創業。34歳でナスダック・ジャパン(現ジャスダック)へ株式上場し、37歳で東証一部に上場。エネルギー環境事業、電子メディア事業などを展開。代表理事を務める経営者交流会「パッションリーダーズ」では、これまで4,000人以上の経営者や企業家たちと交流、今回紹介する「田辺宗」四代目とも会員として知り合う。伝統だけにとどまらない革新的な姿勢に感銘をうけ、取り寄せや贈答などに積極的に活用している。
「パッションリーダーズ」で、たびたび話しかけてくれる社長が田辺宗の四代目・田辺宗右(そうゆう)氏でした。付き合いが深まるなか、私の愛車のプラモデルをわざわざ作ってくれたり、京都の会合で100匹の蛍を見せてくれたりと、物やお金ではなく、相手の気持ちを考えて一生懸命心を尽くす田辺さんの人柄に惹かれ、経営されるお店にも興味を持つようになり、それから頻繁に利用しています。
150年近くの伝統に裏打ちされた良きものは守り、新しいことに果敢にチャレンジする精神がとにかく素晴らしいです。特に四代目女将は家業の外からきた方なのに、店の暖簾や商品に人生をかける情熱、信念は尊敬するほど。商品のクオリティやおもてなしからもその強い思いが伝わってきますね。
自分が取り寄せていただくことはもちろん、会合の手土産や贈答に田辺宗の京つけもの・味噌を使っています。お贈りするのは、たとえばSBIホールディングス株式会社 北尾吉孝社長、株式会社田辺エージェンシー 田邊昭知社長、楽天株式会社 三木谷浩史社長、GMOインターネット株式会社 熊谷正寿社長、日本証券業協会 鈴木茂晴会長、郷ひろみさん、秋元康さん、小泉純一郎元総理、幻冬舎 見城徹社長など。良いものを知り尽くした方々にご満足いただいていますね。
定番にも、新しい商品にも、老舗の経験と最新の技術を選べるのが「田辺宗」の強み。
「田辺宗」は1875年(明治8年)創業。福井県・若狭で農業を営む初代が常日頃食べるためにつくる自家製味噌が近所で評判となり、これを生業として京の都で味噌専門店を興したという。その後、一汁三菜が基本の当時の食卓で、味噌と共に欠かせないつけものも欲しいという常連の要望に応えて、つけものの製造販売も開始。料亭で提供されるような上品な味を家庭で気軽に楽しめることから商売は波に乗り、暖簾を継承してきた。
ところが、食の欧米化やスーパー・コンビニの普及が加速し、時代が大きく変化。代わり映えしない品揃えもあって客足が遠のき始めていた。
四代目女将・藤井千尋さん。京都の魅力に魅せられ、「田辺宗」の革新に取り組んでいる。
そのとき、立ち上がったのが、現在、四代目女将を務める藤井千尋さんだ。富山県出身の女将は、中学生の頃から歴史に関心を持ち、憧れの地であった京都の大学に進学。源氏物語をはじめ、古典文学や文化の研究に没頭し、アルバイト代のほとんどを寺社仏閣や博物館巡りにつぎ込んでいた筋金入りの歴女で、「愛する京都、日本の食文化を守るためにも田辺宗を絶対に途絶えさせてはならないと思ったのです」と当時を振り返る。
女将は、若い女性の感性、外部からの客観的な視点で老舗改革に取り組んでいく。
新しい素材のつけものをつけものとして積極的にテスト、販売をして、人気のあるものが定番商品になる。写真はトマト、ヤングコーン。
京つけもの・味噌は、原材料も製法もシンプル。それだけに微妙な塩梅で味が決まるのだが、「田辺宗」ではすべての工程を職人の経験や勘に任せていた。そのため、些細なことで誤差が生じたり、職人ごとに味が変わることがあり、常連から指摘を受けたこともあったという。「私が女将になってまず行ったのが、一職人の味ではなく、田辺宗の味の確立を図ることでした」と女将。塩加減や調味液の配合、漬け時間、蔵の温度などを徹底的に数値化し、これにより経験の浅い職人でも田辺宗の味を忠実に再現できるようになったという。
さらに田辺宗では新しい商品づくりも開始した。
「最近の健康ブームにより、野菜や発酵食品を食べる人が増え、お菓子などにも味噌味のものが多く見られます。それなら、田辺宗のつけものも味噌も、素材や提案に工夫をすれば、多くの方に良いものだと思っていただける確信がありました」
そこで、今までつけものにすることのなかった素材にトライ。
「トマトやゴーヤ、ヤングコーン、じゃがいもなどなんでも漬けてみましたよ。味はもちろん、若い女性でも手に取って買いたくなるよう、パッケージやディスプレイにもこだわりました」
すると、狙い通り若い女性や観光客も来店。中でもトマトのつけものは「田辺宗」屈指の人気を誇る看板商品になった。
「トマトの甘みや旨味を引き出すよう、職人たちと味や漬け時間を試行錯誤した調味液がたっぷりと染みて、生のトマト以上にみずみずしく、まるごと1個ペロリと食べていただけますよ」
また、京の冬の風物詩でもある千枚漬は、「食べやすさを考え、極限まで薄くスライスして昆布ベースの出しに漬け込むようにしました」とのこと。ねっとりしているのに上品な味で、これまでの千枚漬にない軽い食感が魅力。「スモークサーモンや生ハムなどを挟んだり、刻んでサラダにしたりしてもおいしいんです。そのまま食べるだけでなく、さまざまなアレンジを提案することも新しい取り組みのひとつですね」。
新商品を次々と送り出す一方、「創業当時から脈々と受け継がれてきた味や製法にこだわった商品も老舗としてつくり続けています」と女将。その代表例が奈良漬だ。
奈良漬は塩漬けにした瓜や西瓜などを酒粕に何度も漬け替えながらつくるつけもの。時間も手間も要するため、一般に出回っている奈良漬の多くは、アルコールを主とした奈良漬の“素”のようなもので簡単に作られているのだが、どうしてもアルコールの香りが立ってしまい、苦手という人も少なくない。
「田辺宗の奈良漬は、昔ながらの技で手間暇を惜しまず製造。酒粕への漬け替えを毎月行い、この工程を2年続けます。漬け込み中は温度が重要なので、そこには最新システムを導入し、厳密に管理するようにしました」
完成した奈良漬はとてもまろやかで、味わい深く、「奈良漬が苦手な方も『これが奈良漬なの?』と驚き、喜んでいただいていますね」と女将。
奈良漬はじめ、多くのつけもの・味噌はホームページからネット通販で購入可能。詰め合わせも人気。
「私は田辺宗の暖簾や味を変えたいのではありません。奈良漬のように今の技術を巧みに融合し、時代やニーズに則した商品にアップデートさせていきたいのです。伝統が土台にあるから新しいことにチャレンジできるし、これこそが田辺宗の強みだと思います」
京都御所や下鴨神社のほど近い場所にある「田辺宗」。1階が京つけもの・味噌店、2階にはモダンなインテリアの「旬彩ダイニング 葵匠」を構える。気軽に楽しめるダイニングスペースと個室によって構成されている。
「旬彩ダイニング 葵匠」では、京つけもの・味噌と四季折々の素材を使った京料理を楽しめる。
「以前は丼や麺類なども提供していたのですが、独自性を打ち出すためにメニューを一新。つけものをネタにした京漬物寿司や味噌田楽、西京焼きなど、京つけもの・味噌と四季折々の素材を使った田辺宗ならではの京料理を提供し、つけもの・味噌の旨さと、メインディッシュにもなるポテンシャルの高さを堪能いただいています」。
「葵匠」では来店客の大半が食後に1階店舗で気に入った京つけもの・味噌を購入していくという。
「田辺宗の商品はもちろんですが、つけもの・味噌をもっと食べていただくための広告塔の役割も果たしていきたいです」
「旬彩ダイニング 葵匠」 営業時間:11:30〜15:00 17:00〜21:00 定休日:なし TEL:075-213-3559
健康志向の一層の高まりやユネスコ無形文化遺産への登録などによって、その良さが再認識され、世界からも注目を集める「和食」。
「つけものも味噌も和食のひとつですが、寿司や日本酒に比べると、海外での認知度は低めです。また、京都で老舗は当たり前の存在なのですが、他県出身の私からすると、その価値や魅力をもっとアピールすれば、より強固なブランディングが図れると思うので、ネットなども活用して田辺宗を発信してきたいです」
味噌は健康・美容に効果を発揮するといわれる発酵食品、つけものはビタミンやミネラルなどの栄養を手軽に摂取することが可能。健康に関心が高い経営者やビジネスパーソンの毎日の食事に、大切な方への贈り物に、「田辺宗」の商品が役立ってくれるに違いない。
京つけもの・味噌
田辺宗
住所:京都市上京区青龍町218
TEL:0120-06-1269
営業時間:10:00~21:00
定休日:なし
公式ホームページ:http://www.tanabeso.jp/
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