Passion Leaders活動レポート

[パッションリーダーズ新年賀詞交歓会]特別講演

革新の風と大きな希望が芽生える2021年 企業経営者の心得とは

SBIホールディングス株式会社

代表取締役社長

北尾吉孝

文/宮本育 写真/阿部拓歩 | 2021.03.10

2021年最初のパッションリーダーズ全国定例会にて、SBIホールディングス代表取締役社長・北尾吉孝氏が特別講演。干支学をもとに2021年の年相を解説した他、いまなお新型コロナウイルス感染症拡大の影響で企業経営も厳しい状況が続くなか、経営者としてどうあるべきかを語った。

SBIホールディングス株式会社 代表取締役社長 北尾吉孝(きたおよしたか)

1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。英国ケンブリッジ大学経済学部へ留学し、78年に卒業。ワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル社(ロンドン)常務取締役、野村企業情報取締役、野村證券事業法人三部長を務め、95年、孫正義氏の招聘により常務取締役としてソフトバンクに入社。2005年にソフトバンク取締役を退任。現在は、SBIホールディングスの代表取締役社長の他、公益財団法人SBI子ども希望財団理事、SBI大学院大学理事長兼学長、社会福祉法人慈徳院理事長などを務める。主な著書に『挑戦と進化の経営』(幻冬舎)、『進化し続ける経営』(東洋経済新報社)、『不変の経営・成長の経営』(PHP研究所)、『実践FinTech』『成功企業に学ぶ 実践フィンテック』(日本経済新聞出版)、『何のために働くのか』『修身のすすめ』『安岡正篤ノート』(致知出版社)、『実践版 安岡正篤』(プレジデント社)など、著書多数。

【2021年の年相】古い時代から新しい時代への転換点となる年

北尾吉孝氏 2021年は辛丑(かのとうし/しんちゅう)の年です。

「辛」の字は、白川静博士の『字統』によると、奴隷や罪人に入れ墨を入れる道具だといわれています。そういう道具ですから痛い。だから、「辛い」という読み方があり、だから「辛辣」といったピリッとした意味合いを持つ熟語もあるわけです。また、儒学書『白虎通義』では、「辛」という字は、下から突き上げて上を冒していく、つまり既存の秩序や概念が覆されていくという意味があります。

他方、「丑」の字ですが、これも白川静博士の『字統』によると、胎児が母親のお腹から出てきて、右手を伸ばして何かを掴もうとしている象形だといわれています。だから、「始める」「掴む」という意味があります。

以上から、辛丑の年相を考えると、2021年は「古い時代から新しい時代の転換点になる年」でしょう。おそらく、今年を契機に革新の風が吹き荒れると予想されます。随所で痛みを伴うことがあるかもしれませんが、それは新しいものを生む苦しみ。大きな希望が芽生える年ともいえるので、勇気をもって、新しい時代を目指して挑戦していく、そういう心構えが必要ということです。希望を捨てずに歩んでいただきたいと思います。

【企業経営者の心得】機を捉え、自らを変えていく

パナソニック創業者・松下幸之助氏がこう言われています。

「好況よし、不況さらによし」

不況のときこそ、新しい気持ちで果敢に挑戦しながら逆境を乗り越えていかないといけません。そういう意味では、不況というのは、会社が本物に生まれ変わる、より強いものに生まれ変わるチャンスになるかもしれないという意味です。

また、このようなことも言われています。

「かつてない困難からは、かつてない革新が生まれ、かつてない革新からは、かつてない飛躍が生まれる」

創業から大繁栄の時期に至るまで、様々な困難を経験されました。そのなかで実践したこと、体験したことから、松下氏が確信をもってこういうことを言われているわけです。

このようなエピソードがあります。あるとき、製品を30%値引きしろと言われました。これ以上料金は下げられません。そこから5%の値引きでも大変なことです。これは難しいと判断した松下氏は、設計段階から徹底して見直すよう指示を出しました。そして見事、30%のコストダウンに成功したのです。抜本的発想の転換です。今までやっていたことを続けてもコストは下げられない。ならば、すべてを考え直そうと。このような革新的な発想は、苦しいときに生まれる。だから「不況さらによし」ということなんですね。

さらに、こうも言われています。

「この不景気に困ったな、この不景気にじっとしてるよりしかたがないなというような消極的な考えを、もしもたれたとするならば、それは、私は反対であります」

不景気だから何もしないでいようという消極的な考えではダメなんです。景気が悪いときこそ、普段できなかったことができる時期でもあるし、やらねばならない時期なのです。

そこで、経営者に求められるのは、“タイミングの見極め方”です。政治、商売、何でも「機」があり、それによって成功・不成功が決まりますので、勝機となるタイミングを掴んでいかないといけません。

中国古典の「四書五経」の一つに『易経』というものがあります。『易経』においては三つの「キ」がとても大切にされています。まずは、前触れ・兆しの「幾」。次に、何をどうしたらリスクを回避できるかという勘所・ツボの「機」。そして、タイミングの「期」です。

そして、「キ」以上に大切なのが、商売の本質とは何かということ。これについても松下氏がこう言われています。

「やはり大事なことは、暮らしを高めるために世間が求めているものを心を込めてつくり、精いっぱいのサービスをもって提供してゆくこと、つまり、社会に奉仕してゆくということではないだろうか。(中略)そしてその使命に基づいて商売を力強く推し進めてゆくならば、いわばその報酬としておのずと適正な利益が世間から与えられてくるのだと思う」

これを忘れては勝機を掴むことはできません。

今の時代に最も人々が求めているものは何か。この本質を見失ってはいけないのです。そこに着眼するためにも、イマジネーションが大切なんですね。この問題が起きたとき、自分ならどうするかという、主体的にとらえる想像力です。人の受け売りや本で得た知識、誰かの真似をするだけじゃなく、自らが考える。そういう習慣をつけていくと、新たな発想が生まれるようになります。

【企業経営者の心得】不確実な世界と共に生きる

我々の住んでいる世界は常に不確実で、未来を予見することは極めて難しい。では、どうしたらいいかというと、「有備無患(ゆうびむかん/備え有れば患い無し)」です。また、私がよく言うのは、「策に三策あり」。A案が駄目ならB案、B案が駄目ならC案。すべてうまくいくなんて考えないことです。だから、代案を考えておく。そういうフレキシビリティが大事です。

状況に応じて変わることは当然で、『易経』にこう書かれています。

「窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず」

困った状況になれば、環境や自分の考えなどすべてが変わり、そのなかで新しい解決策を見出すことができるかもしれないという意味です。何も変わらないとは思わないこと。運命すらも自分の知恵と工夫と努力で変えられると思うことです。

困難に遭遇したときは、思いきって旧来の惰性を破り、しきたりや前例にとらわれない気持ちが必要です。私は常に、そういう気持ちで今日まで仕事をしてきました。一度だって人の真似をしようという発想もなければ、人の受け売り、前例を踏襲するといったことは一切ありません。自らの知恵と工夫と努力、そして勉強で、難局を乗り切ってきました。

【企業経営者の心得】恒心を維持し、己を強くする

「恒心」とは、ブレない心のことです。どんな状況にあってもブレない心を持つことが必要です。大事が起きると右往左往する。そのような人に対して、「一体この人はどうなのか」と不安になりますよね。

恒心を維持するには、どうしたらいいか。清朝末期、太平天国の乱を鎮圧した曽国藩(そうこくはん)が「四耐四不(したいしふ)」と言っています。

「冷に耐え、苦に耐え、煩(はん)に耐え、閑(かん)に耐え、激せず、躁(さわ)がず、競わず、随(したが)わず、もって大事を成すべし」

膨大な数の仕事(煩)に耐え、何もやることがない暇な状態(閑)にも耐え、がんと怒ったり、あるいは慌てふためいて騒いだり、常に競争意識をもって争ったり、力のある強い者の言いなりになったりといったことは一切しない。そういう人間が大事を成すことができるという意味です。曽国藩は四耐四不を実行し、成功した人なんですね。

もうひとつ、恒心を維持するために大切なことは、「継続」です。何かやろうと思い立ち、必ずやるんだと決心することまでは誰でもできるんです。問題はそれをずっと持続できるかどうか。これは大変なことです。

例えば弘法大師は30年間、座り続けてきただけです、と言っています。ですが、30年間、座り続けられる人はいますか。一旦、決心したことを貫き通すことが大事で、継続してはじめて恒心ができあがっていくのです。

また、恒心を維持していく上で、常に判断に迫られる場面が多々あります。こういうとき、ブレない判断をするというのが、経営者にとって非常に重要なことです。そのため、基準、物差しがないといけません。

私の場合、「信」「義」「仁」が物差しとなっています。社会的信用を失わないか(信)、社会正義のもと正しいことをやっているか(義)、相手の立場になって考えているか(仁)。この三つの観点で物事を判断しています。だから、あまりブレることがありません。駄目なものは駄目。どれくらい利益が出るとか、そんなことはまったく関係ありません。

様々な判断を迫られる経営者は、責任が重く、激務です。そのなかで常に恒心を維持するのは大変ですが、加えて、明るく振る舞うことも重要です。社員にとって発光体でなければいけない。

私をとてもかわいがってくれた、三井物産の会長を務めた八尋俊邦氏がこう言っていました。

「ネアカ、のびのび、へこたれず」

当時、三井物産も会社の存命にかかわるような状況のときがありました。そのときでも「ネアカ、のびのび、へこたれず」と。会社の業績が悪くなっても、常にリーダーは明るい発光体であり続け、そういう表情を見ている社員が頑張ろうという気になるよう振る舞わないといけません。

さらに忘れてならないのが、「品格を保つ」ことです。品性がない人は立派な経営者に絶対なりません。経営者が身につけるべきことはたくさんありますが、なかでも極めて難しいのが「品性」です。どんなときでも人としての品格・品性を保つこと、それも経営者にとってとても重要なことです。

【企業経営者の心得】難局こそ人物が見極められる

普段は、ちょっと小才が利くような人間が評価されますが、難局であればあるほど、その人の資質が垣間見えます。『呻吟語』という書物にこう書かれています。

「大事難事に擔當(たんとう)を看る
 逆境順境に襟度(きんど)を看る
 臨喜臨怒に涵養(かんよう)を看る
 群行群止に識見を看る」

難局の場面で担当になった人を見れば、その人がどういう人かわかります。状況が悪くなると弱気になり、良くなると得意満面で大きな顔をしているような、この差が大きい、襟度(度量)のない人か。うれしいときでも、腹が立つときでも、どんなときも恬淡(てんたん)としているか。周りが良いと言ったら何も考えずにそれについていくのではなく、自分で考え、判断する人か、という意味です。

また、経営者に求められる資質も『呻吟語』に書かれています。

「第一等の資質は、深沈厚重(しんちんこうじゅう)。第二等の資質は、磊落豪雄(らいらくごうゆう)。第三等の資質は、聡明才弁(そうめいさいべん)」

「深沈厚重」とは、深く沈着で思慮深く、厚み重みがあり安定感をもった人。
「磊落豪雄」とは、明るく、物事に動じない人。
「聡明才弁」とは、非常に頭が良く、弁の立つ人。

世間の人は、第三等の資質を第一等の資質と間違えます。思慮深いと、のんびりした人じゃないかと思ったりする。しかし、『論語』の中に「君子重からざれば則ち威あらず」とあり、重厚な雰囲気がないと威厳がないという意味です。然れども「威ありて猛からず」。偉そうなことをすることはないと。まさに第一等の資質とはそういうものです。

【企業経営者の心得】時流に乗る

先見性について、様々な人が持論を述べています。松下幸之助氏は以下のように言っています。

「一つのことを一生懸命やっていると、そのものごとについてある程度の予見ができるようになる」

その通りだと思います。

また、阪急鉄道の創業者・小林一三氏は、阪急沿線をつくるとき、たくさんの土地を買いました。しかし、購入した土地の中でも特に良い条件のものを地元の豪商たちに非常に安い値段で売りました。豪商たちはそこに豪邸を建て、阪急沿線は一大高級住宅地となっていくんです。

さらに、梅田のターミナルに阪急百貨店や、宝塚方面に宝塚歌劇団、阪急ブレーブス(現・オリックス・バッファローズ)といった球団などを、どんどんつくっていきました。こういうものをつくることによって、阪急沿線を使ってもらうようにしようと。それが阪急グループの繁栄につながると予見してのことでした。

さらに、ソフトバンクの孫正義氏は、アメリカの発展の早さに着目し、いち早くアメリカに渡りました。アメリカは日本に比べて、5年ほど進んでいるので、アメリカを見れば日本でもやがて成長するであろう事業が予測でき、それを日本でやってきたわけです。

未来を知ることは極めて難しいことです。ですが、知るための手掛かりになるものはある。これは、世界の先哲が皆一様に同じことを言っています。代表的なのが、『論語』の中にある「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」です。歴史を知ると、どのように世の中が動いたのか、どんな判断をしたらどういう状況になるのかがわかります。イギリスの詩人、ジョージ・ゴードン・バイロンもこう言っています。

「将来に関する予言者の最善なるものは過去である」

また、アメリカの政治家、ジョン・シャーマンは

「将来に対する最上の予見は、過去を省みることである」

洋の東西、古今を問わず、人間性は変わりません。どんな太古の昔でも、頭脳の程度もそれほど大きく変わらないわけです。ですから、たゆみない歩みのなかで、次々と歴史がつくられていっても、そのなかで人間が考え行動することは、そう変わりません。

全国より約400名の経営者が参加。

最後に

人類が誕生したときからウイルスは存在していて、人類とウイルスの戦いも過去からずっとありました。では、どのようにウイルスを克服してきたか――。ワクチンです。

今年は辛丑の年ですが、ちょうど60年前の辛丑の年、ポリオ(急性灰白髄炎/脊髄性小児麻痺)が流行しました。ポリオを克服できたのは、まさにワクチンのおかげでした。

現在、新型コロナウイルス(COVID-19)を克服しようと、世界中でワクチンの開発が盛んに行われており、mRNAワクチンやDNAワクチンといった新しい技術を用いたものがどんどんつくられています。

まだまだ大変な時期は続きそうですが、新型コロナウイルスに感染することなく、元気に明るく希望をもって、この一年を歩んでもらいたいと思います。無論、私もそうしていくつもりです。お互いに頑張りましょう。

SUPER CEO Back Number img/backnumber/Vol_56_1649338847.jpg

vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
コンテンツ広告のご案内
BtoBビジネスサポート
経営サポート
SUPER SELECTION Passion Leaders