Passion Leaders活動レポート

[パッションリーダーズ] 定例セミナー

時代と共に変化し続ける上場の意味、藤田晋が語る上場ゴールの“罠”

株式会社サイバーエージェント

代表取締役社長

藤田 晋

文/宮本育 写真/阿部拓歩 | 2020.12.15

会社設立から2年、当時史上最年少の26歳で東証マザーズに、さらに2014年には東証一部に上場を果たした株式会社サイバーエージェントの藤田晋氏。パッションリーダーズの基調講演では、上場のメリットやデメリット、そして移りゆく上場の“意味”について、自身の体験を交えて語った。(2020年10月29日、パッションリーダーズ全国定例会より)

株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋(ふじたすすむ)

1973年福井県生まれ。1998年株式会社サイバーエージェントを設立、代表取締役社長に就任。2000年に当時史上最年少社長として東証マザーズに上場。「Ameba」をはじめとするスマートフォンサービスをはじめ、国内No.1のインターネット広告代理店でもあるなど、インターネット総合サービスを展開。創業から一貫して、インターネット産業において高い成長を遂げる会社づくりを目指し、「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに、代表取締役社長であると同時に、「Ameba」の総合プロデューサーおよび技術担当取締役としてサービスの拡充・拡大に注力。2015年に株式会社AbemaTVを設立し、新たな動画メディアの確立に挑んでいる。著書に『藤田晋の仕事学 自己成長を促す77の新セオリー』(2009年日経BP社)『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(見城徹共著 2011年講談社)『藤田晋の成長論』(2011年日経BP社)『人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない』(見城徹共著 2012年講談社)『起業家』(2013年幻冬舎)など。

当時最年少で東証マザーズ上場、様々な企業の上場にも携わる

藤田 僕は、1998年に会社を設立し、その2年後、当時最年少の26歳で東証マザーズに上場しました。上場というのはマジックワードで、それまでは社員も一丸となって目標に向かってくれたのですが、東証マザーズに上場した後、次は二部だ、一部だといっても、いまいちしっくりこないというか、ウケが悪かったんですよね。そこにそれほど意味があるとは思いませんけど……みたいな顔で見られているような気がしたものです。それもあって、長いこと東証マザーズにいて、2014年に東証一部に変更しました。

当社の事業は、「インターネット広告事業」「ゲーム事業」「メディア事業」で、これらに加えて、「投資育成事業」も以前から実績を上げています。古くはmixi、DeNA、テイクアンドギヴ・ニーズ、直近ではRetty、ビザスク、スペースマーケットの上場に携わり、日常的に上場できそうな会社を見つけては投資するといったことをしています。さらに、2019年は子会社であるMakuakeとCyberBuzzのIPOを行いました。

そういうわけで、最近ではすっかり上場に詳しい人、投資がうまい人と思われているようです。

ZoomやYouTubeライブを通じて参加した約450名が、藤田氏の体験を通じた生の声に耳を傾けた。

変化のきっかけは、1999年のインターネットバブル

僕が会社をつくった1998年は、経営者はみんな上場を目指していました。理由は、上場は成功の証、中でも一部上場は日本を代表する超一流企業の証だったからです。それだけ確固たるものでしたので、当時は上場への壁は高く、簡単にIPOも、一部上場もできませんでした。だからこそ、会社をつくったときは僕も上場を目指したわけです。

そのような上場に対する価値観が変化したきっかけは、1999年のインターネットバブルではないかと思っています。とにかくこの当時は、インターネット関連の株価が上がりました。まだ、日本にNetscapeやYahoo!といった会社はなかったので、代わりにネットベンチャーに投資していた会社の株価がどんどん上がっていき、某社においては1株1億円といった価格が付いたほどでした。

そんななか、日本にはベンチャー企業向けの市場はジャスダックしかなく、アメリカに比べてベンチャー企業を育成する土壌が整えられていないことが課題として挙げられました。その流れのなかで東証がマザーズ市場をつくる構想を打ち立て、さらにソフトバンクの孫さんがナスダック・ジャパンを設立。一気に3つのベンチャー企業向け市場ができたのです。

その結果、各市場による有力ベンチャー企業の争奪戦が始まり、上場へのハードルが格段に下がりました。当社も、起業から1年あまりの会社でしたが、あちこちから投資のオファーを受けたほどです。中には、赤字企業もターゲットになり、そういう会社を上場させて、資金調達の道を開くことで、ユニコーン企業に育てなければいけないと言われるようになりました。

その後、バブル崩壊などによってベンチャー企業の上場はトーンダウンしていくのですが、2010年ごろになってスマホが普及し始めると、スマホアプリなどを開発する会社が続々と誕生し、再び上場ブームが到来。成長の可能性があるプラットフォームができると、それに関連する会社が上場できる、そういう流れがあったのです。

今も非常に多くの企業が上場していますが、それは上場のハードルがさらに下がったということ。これによって、上場に対する価値観や意味が変わりつつあるのではないかと感じています。

現代における上場のメリット、デメリット

そもそも上場するメリットは何でしょうか。一つめは「資金調達力の向上」です。増資をしたり、社債を発行するなど、株を活用することで資金を調達できます。

二つめに「社会的信用の獲得」。近年、上場のハードルが下がったことで“成功の証”といったイメージは薄れてきましたが、それでも上場することで“怪しい会社ではない”程度の信頼は獲得できます。

三つめに「経営体制の改善」です。会社経営は気合で乗り切れるところがあるので、しっかりとした経営体制を整えないまま運転することが珍しくありません。しかし、上場を目指すと、それにふさわしい準備を行うので、垢が流し落とされるというか、強固な経営体制が構築されます。また、上場後は、「No Pain No Gain」というか、毎回決算を開示しないといけないので、そのプレッシャーによって健全な組織・企業が維持されるとも言えます。とても大変ですが、そのような環境に身を置けることもメリットと言えるのではないでしょうか。

一方、デメリットはどうでしょうか。最も感じているのは「上場後の経営の難しさ」です。例えば、組織を大きくするために増資したいと言うと、株主から“株式を希薄化させるな”と言われます。周りもそうだそうだと反応し、肯定的な空気をつくられてしまうと、株価が下がる。株価が下がると満足に資金調達ができないので、結果、精神面だけでなく、物理的にもプレッシャーに負けてしまい、もちろん増資もできなくなります。

既存の事業では業績が伸び止まりするので、株を成長させるためにも新規事業に踏み出すわけですが、着手してから当面は先行投資が続くので赤字決算が続きます。しかも、営業利益が30%変動すると、下方修正をしなければならない。これがとにかくしんどい。例えば、まだ利益が1億円くらいの小さな会社が上場すると、3000万円変動することで下方修正となり、その3000万円が使えなくなります。組織を大きくするため、ひいては株主に貢献するために新規事業を立ち上げたいのに、上場したことで、3000万円が使えなくなり、新しいこともできず、ずっとギリギリでやっているという企業が多いのも現実。そういった面では、未上場で魅力的な企業であり続けるほうが、ある意味、資金を集めやすいかなという印象です。

上場の陰に潜む、落とし穴

僕もやってしまったことで、いわゆるベンチャー企業の経営者がよくやりがちなことが、上場前にとても大きな目標を掲げることです。来期は100億円達成、なんてことを言ってしまうのですが、当然、簡単に達成できるものではありません。これをやってしまうと、上場後に下方修正しなければならなくなります。これは処刑レベルの大変さ。この世で一番聞きたくない言葉は下方修正です。上場するとこの言葉が本当に嫌いになります。それくらい赤字を出すと全否定されるのです。

当社は、2000年3月に上場し、最初の決算は2000年9月でした。このとき、大赤字を出してしまったのです。上場時に225億円もの資金調達をしてしまったものですから、一気に大きくしますから待っていてくださいねと言わんばかりに、投資をし、人を増やしましたが、インターネットバブルが崩壊。黒字化した2003年まで赤字が続きました。

この間も、3カ月に一回は決算発表がされるので、そのたびに「お前は社長を辞めろ」と言われたり、競合企業に買収を提案されたり、アナリストに辛辣なことを書かれたり。経営能力を疑われ、リーダーシップが取りづらくなり、非常にハンドリングしづらい状況になりました。

だからといって、無難な目標を掲げればいいというわけでもない。無難にまとめると、事業を引っ張ることができなくなり、いわゆるありきたりな、こじんまりとした会社に定着してしまいます。これこそが本当の“上場ゴール”の正体であると僕は思っています。

また、人材採用に有利だから上場したいという話もありますが、これは真逆で、一番人気があるのは、上場を控えた企業なんです。上場を目指しています、ストックオプションを付与しますというと、いい人材が集まってくる。ですが、上場後にストックオプションと言われても、市場で買うから大丈夫です、となりますよね。

大きな目標を掲げると、それが達成できないと叩かれ、下方修正しなければならない。一方、無難な目標だと社内も志が低く、そうこうしているうちに小さな会社になって、存在感を失い、上場前に目標にしていた社会的信用や宣伝効果といったものも得られなくなってしまう。採用もイケていないし、資金調達もままならない。現在の上場には、やってられないんだけど、といった思いを抱いている人が多いかもしれません。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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