Passion Leaders活動レポート
株式会社ネクシィーズグループ
代表取締役社長兼グループ代表
近藤 太香巳
写真/阿部拓歩 文/竹田 明(ユータック) | 2020.01.28
株式会社ネクシィーズグループ 代表取締役社長兼グループ代表 近藤 太香巳(こんどう たかみ)
1967年11月1日生まれ。19歳のとき、50万円を元手に会社を創業。34歳でナスダック・ジャパン(現ジャスダック)へ株式上場し、37歳で2004年当時最年少創業社長として東証一部に上場。2015年グループ2社目が上場を果たす。エネルギー環境事業、電子メディア事業、経営者交流団体「パッションリーダーズ」のいずれも日本一の規模にまで拡大。新プロジェクトであるセルフエステBODY ARCHI(ボディアーキ)を全国に展開中。常に新しい事業領域にチャレンジを続け、ビジネスパーソンから若者まで情熱あるリーダーとして圧倒的な支持を得ている。世界的経済紙・Forbes(フォーブス)による『Forbes Asia’s 200 Best Under A Billion 2018』に選定。『JAPAN VENTURE AWARD 2006』最高位経済産業大臣賞受賞。『シーバスリーガル ゴールドシグネチャー・アワード2019 Presented by GOETHE』ビジネスイノベーション部門受賞。2020年、業界をリードする環境先進企業として、環境大臣より「エコ・ファースト企業」に認定。
唐突だが、「仕事ができる人」とはどんな人材だろうか?
リーダーとして人を動かすにしても、動かそうとしている人材がどれぐらい仕事のできる人間なのか、事前に見抜いておく必要がある。人材の能力を大きく見積もっていれば落胆するし、小さく見積もっていると機会損失につながる。
近藤氏曰く、仕事ができる人はボールを持たないという。どういうことだろうか。近藤氏の言葉に耳を傾けてみよう。
「取引先やお客様、あるいは社員間でも信頼感は『スピード』と『クオリティ』から生まれます。特に『スピード』が重要です。スピード、スピード、スピード。仕事のスピードが遅いと“できない人”と思われてしまいます」
頼まれたことはすぐに実行する。連絡事項は直ちに伝える。つまりスピード感を持って仕事をする人を評して「ボールを持たない」と言っているのだ。反対に「ボールを持つ」のは「仕事ができない人」という評価に直結している。スピード感のある仕事をするために、近藤氏は次の5原則を提唱する。
<今直ぐ五原則>
・今すぐ動こう
・今すぐ共有しよう
・今すぐ改善しよう
・今すぐ相談しよう
・今すぐメモしよう
今すぐ五原則の中の「今すぐメモ」について、近藤氏は詳しく言及し、タスクが多くなると誰しも脳内がパニック状態になる故に、優先順位を付けてメモに書き出し、終わったタスクはチェックを付ける。それだけで、仕事がスピーディになると語った。
「仕事ができない人」の特徴として、仕事にスピードがないと併せて、情報や状況を明確に把握していない点を挙げた。
「憶測や推測には意味がありません。状況が明らかになっていれば、経営者は意志決定できます。しかし、情報が少ない中では、意志決定はできないし、仮に意思決定をしたとしても、成功する確度が下がります。それは経営者として正しい判断とはいえません。だからこそ、リーダーとして会社から『多分』『だろう』『思う』を排除して、徹底的に調べて明確な情報を求める姿勢を作り上げなければなりません」
「多分」「だろう」「思う」は、すべてNGワードにする。「結構多い」と報告を受けても“結構”の部分は主観によって変化する。「多分○○だと思う」では重要な判断はできない。
人を動かすのに大事なことがある。それは相手から信頼を勝ち取り、反対に相手を信頼することだ。とても単純な話だが、信頼していない相手のためには、誰も動かない。
近藤氏は講演の中で、自らの体験談を元にした「信頼のつくり方」を披露。「嘘をつかない」「小さな約束を守る」「相手に心を尽くす」の3つのポイントを上げて詳しく説明した。
「嘘をつかない、小さな約束を守るのは、経営者・リーダー以前に人としての問題です。ただ、仕事は常に状況が変わるもの。時には約束したときとは状況が変わってしまうこともあります。けれども、状況が変わったその時点で伝えれば嘘にはなりません。伝えるのを先延ばしにしているといずれ嘘になる。それを肝に銘じておくことが大切です」
さらに「小さな約束を守る」に関して、経営者ならではのアドバイスを、講演に集まった人たちに伝えた。
「経営者は多忙を極めます。優先順位の高いことから処理するため、小さな約束事は反故にしがち。しかし、小さな約束でも、約束は約束。約束を守ることで信頼は生まれます。私は飲みの席でお酒の勢いで承諾した約束でも、全力で守るように心掛けています。翌朝、失敗したと頭はかかえますけどね(笑)」
「信頼のつくり方」の3つ目「相手に心を尽くす」は、熱狂チームのつくり方・前編で取り上げた「ホスピタリティ」に通じる。
人の気持ちをつかむには「利他」の精神が必要で、自分のことばかり押し出しても、相手には伝わらない。むしろ億劫な気持ちにさせる。近藤氏が会長を務めるパッションリーダーズでも「利他」の精神は必ず自分に跳ね返ってくると何度も説いているが、この日も同じように繰り返した。
「取引先との商談に向かう前には、必ず先方のビジネスをくまなく調べます。すると商談の中で先方のビジネスの話になり、商談相手に『自分たちのことをよく知っている』と思わせることができます。相手のことを知って、相手に心を尽くす気持ちを持ってプレゼンテーションを展開すれば、こちらの意図は相手に伝わります」
「相手に心を尽くす」のは、何も取引先に限ったことではない。会社の仲間や経営者の場合、支援者相手にも心を尽くすことを忘れてはいけない。
「SBIホールディングスのCEOである北尾吉孝さんには、昔からとてもお世話になり、今でも定期的に食事をするなど交流を続けさせてもらっています。北尾さんと会うのは年に数度ですが、小まめに近況報告のメールを送っています。自分のおかれている情報を共有することで、次に会ったときに話がスムーズに進みます。普段は音沙汰がないのに、困ったときだけ揉み手で近寄ってくる。そんな人間を助けようとは思わないでしょう」
自分のビジネスにとってキーパーソンだと思う人には、小まめに連絡を取って確固たる人間関係を築く。人を動かす背景には、信頼関係が必要だということだ。近藤氏は講演の聴衆に向けて次のように問いかけた。
「その人のことを思っているか?」
「その人のために時間を割いているか?」
「その人のために汗をかいているか?」
近藤氏が人を動かすためにどんな努力をしているのか垣間見られる言葉だ。
ビジネスにおいて「人を動かす」というとき、想定されるのは取引先・お客様だけではない。社員、メンバー、部下、上司etc.呼び方はどうであれ、一緒に働く仲間も対象となる。特に、経営者なら「社員・部下」の動かし方に頭を悩めている人も多いだろう。モチベーションが低い人材をどうすれば奮起させられるのか気にかかるところだ。しかし…。
「モチベーションは人か与えられるものではありません。自らの内側から引き出してくるものです。頑張っていない人に、どれだけ頑張っている人のストーリーを聞かせても心に響きません。モチベーションが自分の中にあるからこそ、いい物語を聞いたときさらにモチベーションが上がるんです」
このままでは課題が先に進まない。モチベーションが低い人材を奮起させるにはどうすればいいのだろうか?
「褒められたり、認められたり、感謝されたりするのは、誰しもうれしいもの。モチベーションを持っていても、時にはそれが下がることもあります。リーダーは社員のモチベーションを高く保てるように、正しく評価して、ありがとうの気持ちを伝えることが重要だと考えます」
人に評価されるために生きているわけではないが、高く評価されて嫌な気持ちはしない。評価してくれる人の言うことなら聞いてみようという気持ちになるものだ。
「社員が実力以上の成果を上げれば、ハグしたくなるぐらいうれしい。手を抜く社員を見れば腹が立つし、その場で怒る。けど、そんな感情は明日に持ち越さないようにしています。経営者が喜怒哀楽を露わにすることは悪いことではないと思います。ただし、社員を好きでい続けることが大前提です。私は絶対に社員を嫌いにならない自信があります!」
経営者だって一人の人間。喜怒哀楽はある。年齢を重ねるにつれて、感情のコントロールを覚えたが、近藤氏も若いころは行き場のない感情を処理できずに苦しんだという。
「若いころは憤りを感じることが、今よりもずっと多かった。あるとき、感情の行き場を求めて、思いの丈を作文に書きなぐりました。最初は愚痴やフラストレーションのオンパレード。
しかし、感情を吐き出すうちに筆の進みが変わりました。文章にしたネガティブな感情が自分に跳ね返ってきて、羞恥の念が込み上げてきたからです。すると、5行目ぐらいからポジティブな自分が姿を見せるようになりました」
方法は何でも構わない。経営者もテンションを上げる手段をもてば、自らのモチベーションをコントロールできるようになり、社員や部下にも教えることができる。
「創業時から変わらない私のモチベーションは『こんなものじゃない』。この悔しさが私を支え続け、今も私を形作っています。自分に満足した瞬間に可能性は消えます。そんなリーダーにはついて行きたくないですよね?」
ネクシィーズグループもこれまでに何度もピンチに見舞われてきたと前置きした後、ピンチの時は社員にはっきりと「ピンチだ!」と伝えると近藤代表は語った。ただし、ピンチだと言うだけでは社員の心が折れる。そこで、ピンチだけどチャンスに変化しうるストーリーも併せて伝えるのだという。
「ピンチであることを伝え、同時に脱出手段を示すことで、今、私たちが命がけで取り組まなければならないのはここだと悟らせます。現状と目標の数値を見える化して社員と共有。その上で、メンバーそれぞれが何をするべきかに落とし込んでいけば、ピンチはチャンスに様変わりします」
講演の最後、いかに社員に対して本音でメッセージを送ることができるか、それが経営者にとって一番大切なことだと、近藤氏は語った。自分が思うこと、目指す先、それを飾りのない言葉でストレートに伝える。「何度言ってもわからない」とあきらめてはダメだと力説した。
「100回言ってわからなければ101回言えばいい。何があっても言い続ける、それがリーダーのあるべき姿です!」
vol.56
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日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美