Passion Leaders活動レポート
株式会社ベネフィット・ワン
代表取締役社長
白石徳生
文/宮本育 写真/阿部拓歩 | 2019.12.19
株式会社ベネフィット・ワン 代表取締役社長 白石徳生(しらいしのりお)
1967年、東京都生まれ。拓殖大学政経学部を卒業後、90年に株式会社パソナジャパン(当時)へ入社。96年、パソナの社内ベンチャー制度を利用し、ビジネス・コープ(現ベネフィット・ワン)を設立、取締役に就任。2000年6月から現職。2004年にJASDAQ上場、2006年に東証二部上場、2018年に東証一部上場を果たす。「サービスの流通創造」を経営ビジョンにユーザー課金型の定額制割引・予約サイト「ベネフィット・ステーション」を運営。また、福利厚生・健康・ポイントを中核としたBPO事業のワンストップソリューションを提供することで、昨今の人手不足を背景とした働き方改革、健康経営、生産性向上など、企業の経営課題を多角的に解決している。EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2018 ジャパン「Exception Growth 部門」大賞 受賞。
前編でもお話しましたが、当社が予約サイトを立ち上げる際、「会員制」いわゆる「課金型」にこだわりました。その理由のひとつは、長い目で見たとき、もっとも勝てるビジネスモデルと確信したためです。
このモデルは、インターネットの世界で高く評価されています。最近の言葉でいうなら「サブスクリプション」ですね。おそらく、インターネットを使ってサブスクリプションをやったのは、世界でも当社が先駆けでした。なんせ24年前ですからね。それが今や、Apple Music、Amazonプライム、Netflixなど、幅広く浸透しています。
とはいえ、実はインターネットで売られているサービスはほんのわずかです。航空券、ホテル、鉄道、レンタカー、ゴルフ場、最近ではタクシーの予約をインターネットで行なえるようになりました。ですが、現在はこれくらいしかありません。
サービスは1000アイテムほど存在していますが、なぜこれだけしかインターネットで売られていないか。その理由は、空き情報がIT化・オンライン化されていないサービスが多いためです。航空券やホテルなどは、いち早く空き情報がIT化され、インターネットでつながっているのでオンライン予約ができます。しかし、これらのサービス以外は、いまだに空き情報がアナログで管理されています。これではオンラインで予約はできません。
ところが、今、日本は、サービス業界のIT化・オンライン化が凄まじい勢いで進んでいます。その理由は、「空前の人手不足」であること。さらに、2019年10月1日の消費税率引き上げに伴う需要平準化対策として、キャッシュレス決済によるポイント還元制度が導入されました。これにより、中小事業者のIT化に対して「国からの補助金」が交付されたためです。
そして、この商機を逃さんとばかりに、サービス業のIT化・オンライン化をサポートする企業がぞくぞくと登場。特に飲食業のIT化・オンライン化においては、この2年間で支援する会社が10社ほど誕生し、おそらく5軒に1軒の飲食店が、空き情報を端末で管理し、オンライン予約サイトと連携しています。ほかにも、映画館、エステ店、歯科医院など、いろいろなサービス業の空き情報がIT化・オンライン化されようとしています。
この状況は何を意味しているのか。当社ベネフィット・ワンでオンライン予約できるものが劇的に増えるということです。現在、当社でオンライン予約ができるものは、航空券とホテルですが、レストラン、居酒屋、映画館、美容室など、さまざまなコンテンツを取り込むことができるようになるのです。
インターネットで空き情報を共有できるようになると、インターネット上に市場が生まれます。そして、サービスの価格が変動相場制になります。皆さんも出張などでホテルの予約をされるときがあると思いますが、同じホテルでもピークシーズンは高く、ローシーズンは安くなりますよね。そういったことが、さまざまなサービス業で起きるのです。その結果、ほとんどの人がインターネットでしかサービスを買わなくなります。インターネット以外では定価での購入になるからです。
飲食業もそうで、予約を入れずにお店へ行く人はいなくなるでしょう。飛び込みでは定価での会計となりますが、何日前に予約を入れたのか、どの時間帯に利用するのかによって割引率が変わるなど、需要バランスによって価格が変動するので、よりお得なほうを人は選ぶからです。このようなことが、あらゆるサービス業界で起きると考えられます。
これは、サービス業界にとって、100年に一度の大変革ではないかと思っています。サービス提供のあり方や企画戦略などが根底から覆るような大きな変化です。この変化に対応できないと、かなりの致命傷を負うのではないでしょうか。
変化はこれだけにとどまりません。これまで通用していた、ビジネスにおける「勝ちの法則」も崩れようとしています。
ビジネスの勝ちの法則は、営業力でした。営業の強い会社が新規顧客を獲得し、売上を上げる。これが勝てる鉄則だったのです。
ところが、近年はこの法則では業績を伸ばせられません。なぜなら、いくら営業が新規受注を得ても、人手不足により消化できないためです。そのため、顧客からの評判を落としてしまうからと、営業を停止している会社が、実は多い。小売店などにおいても、以前はいい場所に出店すれば売上が上がったのですが、今はお店で働く人を確保できないので閉店する、営業時間を短縮するというケースが非常に多いです。完全に、勝ちの法則が、営業から人材の確保へとシフトしました。
一見、大きな危機が迫っているように感じますが、見方を変えると、とてつもない大きなチャンスだと思うんですね。いち早く、これまでの固定概念を捨て、新しいルールに対応できた会社がこれからの時代を生き残る、もしくはゼロから勝ち残るのではないでしょうか。
昔、ある先輩からダーウィンの進化論について一度読みなさいと言われました。僕は、読書が苦手だったので、先輩にどういう内容なのか聞いたんです。すると、教えてくれました。
氷河期に突入したとき、地球上でもっとも大きく、強い生き物だった恐竜が絶滅した。その中で、何が生き残ったのかというと、激変した環境に素早く適応した生き物だった。大きくも強くもない、ただ環境に適応して変化していった生き物だけが生き残ったと。なるほどと思いました。きっと、ビジネス界でも同じです。
昭和、平成ときたビジネスのルールが変化し、これまで強みだったものがネックになることだってあり得ます。逆に、今は知名度も、資金力もないような小さな会社が大勝ちするかもしれません。
まるで18世紀後半にイギリスで起きた産業革命のようです。産業革命は約50年続きました。それくらい長い時間軸の中で、大きな変化が起きると感じています。
もしも、電気のない時代に、電力会社をつくるアイデアを周囲に話したら、どんな反応をするでしょうか。きっと、誰もピンとこないと思います。電気そのものがわからないわけですから。ですが、現代を生きる人たちに電気のない生活を送れるかと聞いたら、暮らすことはできないと、ほとんどの人が答えるはずです。
当社がやっていることはそれに似ていて、今、サービスの流通はないので誰もピンとこないですし、なければないでいいじゃないかという反応です。ですが、10年後、多くの人がこう言うと思います。
「昔はサービスの流通がなかったらしいけど、よく生活できたね」と。
学生時代、ビジネスのネタとなるものを探していたとき、ひとつだけ予想を外したものがありました。それは「携帯電話」です。
僕が学生時代のときも携帯電話はありましたが、当時は、年間300万円ほどのコストがかかる代物で、存在としてはシャネルのバッグのようなものでした。大人たちは、人に見せびらかすために持ち歩いていましたから。ですが、今は、中学生さえも所持する生活必需品です。そのようになるとは夢にも思いませんでした。
以来、第二の携帯電話を探していたのですが、その延長線で閃いたのが「サービスの流通」という概念だったんです。
サービスの流通以外にも、電気や携帯電話のように、どうしてこのアイデアが思いつかなかったんだろう? というものが、他にもあると思います。10年後、20年後の未来に行ったつもりで過去を見渡し、過去になくて今あるものは何かという連想ゲームをしてみてはどうでしょうか。そこで浮かんだアイデアが、10年後には時価総額が10兆円を超えるような事業になるかもしれません。
当社は、「サービスの流通創造」に力を入れています。完成形が100%だとすると、まだ5%くらいしかできていませんが、僕が還暦を迎えるまでには完成させたいと思っています。今、52歳なので、あと8年ですね。それまでに、ベネフィット・ワンといえば、「サービスを売っている会社」「オンライン予約の会社」と、皆さんに言っていただけるよう頑張ります。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美