Passion Leaders活動レポート

[パッションリーダーズ]定例セミナー

生き残るための戦略 美容医療業界トップ、SBCの逆算経営

SBCメディカルグループ

代表

相川佳之

文/宮本育 写真/阿部拓歩 | 2021.03.18

医療サービスを提供するSBCメディカルグループは、2000年に「湘南美容外科クリニック」を開業以来、約20年で美容医療業界ナンバーワンのシェアを実現。現在は美容外科にとどまらず、不妊治療、再生医療治療など10以上の診療科目を展開する。クリニックは100を超えるが、同グループの相川佳之代表の掲げる目標は「日本を代表する『総合医療グループ』」と大きい。成長の要となっているのが、相川代表が常日頃から語る同社の指針“究極の三方良し”だ。経営者に向けて、相川氏が社員教育、同業他社との差別化、戦略法などについて語った。(2021年2月26日に開催されたパッションリーダーズ全国定例会より)

SBCメディカルグループ 代表 相川佳之(あいかわよしゆき)

1970年生まれ、神奈川県出身。日本大学医学部を卒業後、医療を通じて人の心を前向きにさせることができる美容医療の可能性に魅力を感じ、都内大手美容外科に勤務。2000年に神奈川県藤沢市に「湘南美容外科クリニック」を開院する。徹底した顧客志向を貫き、料金体系の表示、治療直後の腫れ具合の写真を公開するなど、美容医療業界にてタブーとされてきたことに挑みつづけている。現在は、国内外に107院を構えるまでに成長。医療サービスの提供は美容医療だけにとどまらず、一般内科などの保険診療をはじめ、不妊治療、再生医療といった先進医療まで展開している。主な著書に『情熱経営』(幻冬舎)、『僕が湘南に小さなクリニックを開業し、20年で「101院、年間来院者数230万人」の医療グループに拡大できた理由』(幻冬舎)、『究極の「三方良し」経営』(アチーブメント出版)など多数。

緊急事態宣言による業務自粛がサービス向上のきっかけに

相川佳之氏 2000年3月、神奈川県藤沢市に私とカウンセラー、看護師2人の計4人で「湘南美容外科クリニック」を立ち上げました。このときから、日本で最もお客様に来ていただける美容クリニックにする、と決めていました。通常はまず1院を成功させることから始めると思いますが、僕の場合は最初から「1番になること」しか興味がなく、10年で100院にするという目標を立てました。実際は20年かかりましたが。

なぜこのような明確な目標を設定したかというと、目標によってすべての設計が決まると思っているからです。いつまでに何をやるかが決まれば、いま何をすべきかが明確になります。10年後にどうなっていたいかが明確になると、5年後、3年後、1年後に何を達成していなければならないのか、そのために今日何をクリアしなければいけないのかがはっきりしてきます。そうすると、無駄な時間を過ごさずに済みます。

そのなかで特に大事なのは、“やらないこと”を決めることです。考えるほどにやらないといけないことはどんどん増えますが、ここで“やらないこと”を決めないと、本当にやるべきことの優先順位が上がりません。限られた時間の中で目標を達成するには、このことが非常に大事だと感じています。

開業当初は4人だったスタッフも現在は4354人(2020年12月)となり、毎年売上高120%で成長してきました。しかし、新型コロナウイルスの影響で昨年、開業後初めて赤字が出たのです。

このピンチをチャンスに変えようと、まず行ったのは顧客満足度調査の結果を徹底して検証するということでした。来院されたお客様にご回答いただいた山積みのアンケートをすべて出し、どのような不満が多いのか、この機会に見直しました。

すると、最も多かった回答は、「脱毛の際に行うシェービングで使うカミソリ代500円は高すぎる」といったものでした。そこでサービスと価格を徹底して見直し、2020年7月に料金体系を改定。その結果、業務自粛などがあったにもかかわらず、(1回目の)緊急事態宣言に入る前の1・2月よりも、明けた7・8月の方が業績が伸び、診療総額(売上)897億円、昨対109%で締めることができました。

もし緊急事態宣言による業務自粛がなく、サービスを見直す機会がなかったら、このような結果にはなっていなかったと思います。諦めずに、お客様が何を不満に感じているのか、どうしたらもっとサービスの質を向上できるのかと、本気で向き合えたおかげだと実感しています。

【経営理念】“究極の『三方良し』の実現”

当グループの目標は、2035年までに日本で最もお客様が来てくれる医療グループになること。そして、世界で最も評価されているメイヨー・クリニックを目指しています。メイヨー・クリニック(本部:米ミネソタ州ロチェスター市)は、アメリカで150年以上続く老舗の総合病院です。この存在を知ったとき、僕が目指すべき人生の目標はこれだ、と思いました。

当グループは、お客様にとって何が幸せなのか、社会にとってどう貢献できるか、スタッフにとって何が誇りなのか、この3つの疑問をすべて解決する“究極の「三方良し」の実現”を経営理念として掲げています。長期的に繁栄するには、お客様に喜ばれ、社会から必要とされ、スタッフが誇りをもって働ける医療グループであるべきという、とてもシンプルな考えです。

とはいえ、組織が長期にわたって存続するのはとても難しい。とあるデータによると、開業から10年間経営できる組織は6.3%、20年間は0.3%という数字もあります。生き残るということはそれほど難しいという認識が必要です。

そこで、長期にわたって生き残れる組織にするために、経営者として考えるべきことをまとめました。

【独自の売りを探る】競合徹底調査で敵を知り、己を知る

ひとつは、やはり「売上を上げる」ことです。美容医療業界における売上とは、「単価×来院頻度」です。今後、日本の人口は減少の一途をたどるわけですから、いかに一人あたりの来院頻度を高めるかが重要です。

そのために、当グループでは、年齢・性別・人種・経済力を問わず幅広い層のお客様に、価格の2倍以上の価値を提供することを心がけています。加えて、独自の“ウリ”をつくることにも力を入れました。なぜ、他院ではなく、当院に来るのか、その理由をつくらなければライバルに負けるからです。

ここでやらなければいけないことは“競合徹底調査”です。ライバルが何をやっているのか知らずして、自分の強みを見出すのは難しいためです。この調査で、自分が属するマーケットで最も強いところはどこか、そこは何を強みにしているのか、さらに弱点は何かを見ます。ここで見つけたライバルの弱点を攻めるのです。

そして、自身のナンバーワンを見つけます。これが最も大事です。とはいっても、いきなり日本一にはなれないので、カテゴリーや地域を絞ります。例えば、「港区で最も二重手術をしているクリニック」と謳えば、港区で二重手術を希望する人はそのクリニックを選びます。

21年間、経営していますが、これまで一度たりとも、湘南美容クリニックで二重手術が2番目に上手な先生を紹介してくださいと言われたことはありません。必ず、一番上手な先生を紹介してほしいと言われます。

紹介という点でいったら、2番目と100番目の先生の差はあまり変わりませんが、1番目と2番目の先生の差は圧倒的にあるわけです。つまり、どんな分野でも1番になることは、マーケティングの上で非常に大事ということです。

僕も最初にクリニックを開業したとき、どうすれば他院と差別化できるかということばかり考えていました。どうすれば腫れない手術をできるか、どうすればもっと痛みを取れるか、どうすればもっと安くできるか……。とにかくそればかり考え、試行錯誤の連続でした。

初めのうちは怖くて、何でもできますと、広く浅くやっていこうとしました。でも、これではなかなか勝てない。競合が多いときほど、“狭く深く”特徴を出すのが大事です。また、他業種の成功事例を美容医療業界に持ち込むといったことも有効でしょう。

独自の“ウリ”をつくったら、次はどう告知するかです。どんなに自信のある商品やサービスをつくっても、知られなければ存在していないのと同じだからです。

僕が開業した当時は、テレビCMや雑誌広告といった方法しかありませんでしたが、今はそういったものを使わなくても、InstagramやTwitter、YouTubeといった無料で活用できるSNSがあります。特にInstagramの効果は絶大です。

【採用と教育】最強のチームをつくるチームビルディング

僕は、優れたビジネスモデルが完成したら、あとは良い人材を集めれば勝負に勝てると考えています。良い人材を集め、良い練習をすれば勝てるので、採用と教育をとても大事にしています。中でも重要なのは、採用です。

クリニックを開業したとき、とりあえずどんな人でも採用して、きちんと教育すればみんな成長してくれると信じていましたが、とある人材教育セミナーに参加し、「神様がつくったものを教育ごときで変えようということ自体、あなたは間違っている」と言われ、考えが変わりました。「カエルはカエル。ライオンの仔をとらない限りダメなんです。だから、教育の前に採用なんです」と言われました。

確かにそうです。組織の理念に合わないけど、仕事ができるからと採用すると、内部をめちゃくちゃにされます。かといって、能力は低いが、良い人だからと採用しても、数字が出ない。本当に腑に落ちました。組織の理念に共感し、やる気があって、優秀な人材を入れることがとても重要なんです。

■採用力 経営者自身が高い志を持て

では、どのようにして良い人材を見つけるのか。優秀な人材ほど大きな夢を達成したいと考えているので、組織の目標や将来像をしっかり伝えるという方法がいいかもしれません。経営者が“ほどほどそこそこ”でいいやと思っていると、“ほどほどそこそこ”の人材しか来ません。経営者がどういうビジョンをもっていて、どういう行動をしていくかで、それに見合った人材が獲得できるといっても過言ではありません。

「うちのスタッフはどうしようもない」とぼやく経営者がいますが、大半は経営者がどうしようもない場合が多い。経営者がどうしようもないから、どうしようもない人が集まってくるのです。うまくいっている経営者のほとんどは、「うちのスタッフは素晴らしい」と言います。

■教育 人格教育で他者と信頼関係を築ける人間性を育む

仕事のスキルアップ以上に大切なのが、人格を高めることです。どうすれば人から信頼され、何をすると信用を失うのか、人として基本的なことを教えなければいけないと思っています。仕事の能力はあっても、言い訳をする、嘘をつく、約束を守らないといったことをすれば、能力を発揮できる場を失います。

ほとんど仕事は他者との信頼関係によって成り立ち、一人でできることは限られます。多くの人の力を借り、共同でやっていくために、人格教育も大事だと考えています。

■活性化 複数のモチベーションでやる気を促す

人材をやる気にさせる仕組みづくりも重要です。褒められる、ライバルがいる、成果が報酬や昇進などに反映される、ミッションがあるなど、何にやる気がわくのかは人それぞれで、どれも大事だと僕は思っています。むしろ、複数のモチベーションがあることで、息長く活性化しつづけることが可能です。

■ポジショニング 個々が力を最大限に発揮できる環境をつくる

人が最もやる気を出すのは、ポジションが変わったときだといいます。ある大手家具メーカーでは、全社員に1年半ほどかけて全部署を経験させ、全体像をつかませてから、その人の能力を最大限に発揮できるポジションを見つけ、業務に専念できる環境を整える……といった取り組みを行っており、当グループでも最近、その手法を取り入れました。加えて、YG性格検査も実施し、採用に生かしています。

YG性格検査のメリットは、面接官の勘やその場の雰囲気といった属人的なものではなく、データに基づいて人材を見極められる点です。検査結果で、Aさんは3年以内に辞める確率が高い、Bさんは当社で活躍できる確率は80%と出たら、どちらを採用するか一目瞭然です。

【戦略を考える】知識と経験を積んでからオリジナルを生み出す

戦い方も重要です。どんな豪腕将軍であっても軍師がいなければ十分な力を発揮できません。根性だけでは勝てないでしょう。つまり、どういう戦い方をしたら勝てるのか、戦略を考えられる人がいないと、どんなに優秀な人が頑張っても負けてしまうのです。それはビジネスでも同じで、いかに効率的な戦い方をするかを考えなければいけません。

戦略を考えるには、知識と経験が欠かせません。これらがないとアイデアは出てきません。では、知識と経験がない場合はどうすればいいか。いきなりオリジナルで成功するのはなかなか難しいので、成功している人を徹底して真似るんです。

僕自身は、まったくのド素人から経営を始めたわけですが、最初にやったことは本を読むことでした。DDホールディングスの松村厚久氏の著書をはじめ、他業種の様々な成功者の本をたくさん読み、真似できるところは取り入れ、実行するということをひたすらやりました。その積み重ねのなかで、オリジナルのやり方が完成されていったという感じです。

もしも、皆さんの中に、経験が浅い、もしくはあまりうまくいっていないと思う方がいたら、自分で考えるということから一旦離れ、他でうまくいっているパターンをたくさん学び、独自に取り入れるといったことを始めてみてください。

その点についてパッションリーダーズの皆さんは恵まれた環境にあるといえるでしょう。様々な業種の、様々なステージで活躍されている経営者の方々が周りにいるのですから、その方々から話を聞き、真似ればいいのです。その方が本を読むより断然早い。

また、YouTubeなどの動画サイトを活用して学ぶのもいいでしょう。自分の好きな時間にできますし。これらで自分の知識と経験が蓄えられたら、自分の頭で考え、工夫していけばいいのです。

【社会貢献】経済的に困難な家庭から医学業界を目指す高校生を応援

2021年5月からSBCメディカルグループの新しい社会貢献「SBCキッズドア学園~医療コース~」がスタートします。これは経済的に困難な家庭から医療業界を目指す高校生を学習支援するもので、キッズドア、ライオンズクラブとの共同プロジェクトです。

大学の学部の中でも医学部は特にお金がかかります。参考書をはじめ、受験料も他学科よりも高い。6年間通わないといけないし、私立大になると学費も、さらには東京の大学に進学したら生活費も高額になります。「お金がないから医者になれない」と諦める高校生を出さないために、何か協力したいと思い、プロジェクトを立ち上げました。

日本は子どもの貧困率がとても高く、年収が100万円以下という世帯も少なくありません。ある調査によると、親の年収と子どもの学歴は関係しているそうです。塾に通わせられない、家庭教師をつけられない、仕事で忙しく親が子どもの勉強を見てあげる時間がない、などが理由です。

そこで、キッズドアで家庭教師を、ライオンズクラブで食事を、当グループで教材や家賃を提供する態勢を整えました。さらには、様々な方々と出会ったり、話が聞けたり、職業体験ができる取り組みを行いたいと考えています。

約300名がオンラインにて参加。左から株式会社Orchestra Holdings 代表取締役 佐藤俊樹氏、株式会社ネクシィーズグループ 代表取締役社長 近藤 太香巳氏、SBCメディカルグループ 代表 相川佳之氏、株式会社DDホールディングス 代表取締役社長グループCEO 松村厚久氏。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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