スーパーCEO列伝
株式会社CAMPFIRE
CAMPFIRE事業部長
齋藤 隆太
文/うすいよしき 写真/土田凌 | 2019.06.27
株式会社CAMPFIRE CAMPFIRE事業部長 齋藤 隆太(さいとう りゅうた)
1984年 生まれ、宮崎県出身。法政大学人間環境学部卒業後、株式会社USENに入社。2008年7月、同期の小林琢磨氏と株式会社サーチフィールド創業。営業/ディレクターとして、クリエイター支援事業に従事。2012年6月、クラウドファンディング「FAAVO(ファーボ)」を立ち上げ、同サービス事業部責任者に就任。2018年4月、CAMPFIRE社へ事業譲渡と共に事業責任者に就任。2019年2月同社執行役員就任。
―─齋藤さんが地方に特化したクラウドファンディングサービス「FAAVO」を創業した理由を教えてください。
僕は大学進学のタイミングで地元の宮崎から東京に来ました。それまで地元のことを好きではなかったんですが、東京で誰かと仲良くなるきっかけはいつも地元の話題でした。宮崎から東京に来たことで、地元を魅力的に思えるようになっていきました。
しかし、大学を卒業した後は東京の企業に就職したこともあって、地元に帰る時間はどんどん少なくなっていきました。
そのとき、ふいに「残りの人生で地元にいる時間ってどのくらいなんだろう」と考えたんです。地元にいる時間がお盆と正月で年間10日前後だとすると、例えば18歳で地元を離れたとして80歳までの間、地元にいるのは620日。2年足らずの期間しか地元にいないんだと気づきました。
―─確かに。かなり短い時間ですよね。
それから、都市部に情報や人材が一極集中するのは、これが一つの要因になっているかもしれないと思いました。つまり、地元より東京でできたコミュニティへの依存が強くなり、次第に地元に居場所がなくなり、地元に帰る選択肢を失っていく。
振り返ってみると、高校卒業以降は地元で新しい友人がつくれていないことにも気づきました。地元を離れた人が、地元での自分の居場所を失っていく状況をなんとかできないかと考えるようになりました。
―─そこから「FAAVO」のスタートに向けてはどのような動きがあったのでしょうか?
「いつか地元に対して何かしたい」と思っていましたが、なかなか踏み出すことはできていませんでした。でも、2007年に宮崎で鳥インフルエンザが流行し、2010年には口蹄疫が流行。さらに鹿児島の新燃岳の噴火といった災害が続き、宮崎は大きな打撃を受けました。これが一つのきっかけになって、地域と都市部をつなぐためのサービスをつくろうと決意したんです。
2012年6月にサービスを開始した「地域の『らしさ』を誰もが楽しめる社会をつくる」をコンセプトにした地域特化型のクラウドファンディングサービス。地域での挑戦の輪を広げるため、各エリアとの連携を可能にし、地域の起案者の近くで寄り添ったサポートができるエリアオーナー制度などが特徴に挙げられる。2019年6月現在までに国内107エリアで2300件以上のプロジェクトが生まれている。
―─「CAMPFIRE」や「Readyfor」など、国内には大手のクラウドファンディングサービスがありますが、「FAAVO」にはどんな特徴があるのでしょうか?
「FAAVO」は地方と都市部につながりを生み出せるように設計しています。小さくても魅力的な地方のプロジェクトを紹介し、都市部の地方出身者とつなげることができる。それが「FAAVO」の特徴です。
―─立ち上げ後、サービスの状況はどうでしたか?
サービスを立ち上げると、熱意のある地方在住の方々から連絡をいただきました。地方には面白いアイデアを持っている方や、素晴らしいモノをつくる方も多いのですが、その方たちと顔を合わせてサポートする重要性を感じていました。
そのため、起案者のすぐそばで相談できること、地域の魅力をより熱量高く表現できることを重視して、その土地にオーナーを置く「エリアオーナー制」を展開していきました。結果として、創業から1年の間に8つのエリアでオーナーが立ち上がってくれて、少しずつ地域に根ざしたプロジェクトが集まるようになっていきました。
―─2017年には宮崎に地方事務所も構えられていますよね。
はい。事業がある程度安定した2016年頃に改めて業界に目を向けると、他の大手クラウドファンディングサービスに比べると「FAAVO」の成長率はイマイチでした。地方に根ざした体制にどれだけ伸び代があるのか。それを確かめるために、自分自身で走り回ってみようと決め、地元の宮崎に地方事務所をつくって活動を始めたんです。
実際に地元で活動を始めると、1週間で新しい案件が1~2個生まれていきました。地方にもやりたいことや希望はあふれていたんです。年間の流通額で考えると都市部に比べて決して大きいわけではありませんが、地方に密着できる体制を整えられれば事業が拡大する可能性を肌で感じました。
しかし、地方に事務所を構えてノウハウを伝えていくことを考えると、資金的にアクセルが踏めない状況でした。ようやく可能性が見えてきたにもかかわらず、それを実現する糸口をつかめずにいました。
そんなとき、競合企業でもあるCAMPFIRE社代表の家入(一真)から突然メッセージが届いたんです。
―─「CAMPFIRE」と「FAAVO」の統合は、家入さんのメッセージが始まりだったんですね。
そうなんです。それまで家入には一度も会ったことがなかったのでかなり驚きました。「CAMPFIREの地方部門(CAMPFIRE×LOCAL)を一緒にできませんか?」とメッセージをもらって。
―─そのときはどんな心境でしたか?
当時からCAMPFIRE社はクラウドファンディング業界でも大手だったので、統合すれば「FAAVO」に不足していた資金面や広告面、技術面でも大きな力を得られると思いました。しかし、「FAAVO」はサービスを一からつくり上げていたこともあり、葛藤もありました。
ですが、家入と何度か会うなかで、印象的なことがあったんです。
ある日の話し合いに、家入がある資料をつくってきました。そこには「『FAAVO』と『CAMPFIRE』で最強のプラットフォームを作ろう!」という強いメッセージや、家入らしいポエム調のメッセージが並んでいました。
家入はお互いの弱みを補い合うだけの統合ではなく、一緒になって地方の課題を解決するための統合を思い描いているんだと感じました。家入自ら、思いの詰まった資料を丁寧に説明してくれた時間は、今でも心に残っています。
その瞬間、「僕たちがやるべきことは、競合同士で競うことではなく、より使いやすいサービスを構築するために“共創”していくことだ」と思えました。
僕が「FAAVO」をつくった根底には、「地方と都市部のユーザーをつなぎたい!」「自分の地元や地方に居場所を生み出せるサービスをつくりたい!」という思いがあります。改めてユーザーの視点に立ったとき、競合と争うだけではなく「統合してより良いサービスを提供する」選択肢の存在に気づいたんです。
―─齋藤さんがイメージする、より良いサービスについて教えてください。
プロジェクトを起案する方にとってプラットフォームを選びやすく、使いやすくすることに向き合うことが一番だと考えています。競合サービスと比べたり、数値的な目標を達成するために本来の目的からズレた努力をしたりしてしまうことがあります。でも、競合企業同士がいくら競おうと、ユーザーにとっての“使いやすさ”には無関係だったりしますよね。
今回の統合を経て、競合企業はライバルである一方で、同じ課題を解決しようとする仲間なんだと考えられるようになりました。お互いのメンバーの才能を生かすことができて、ビジョンに共鳴できる企業同士なら、ユーザーのニーズを叶えるために、今の時代こそ「統合」という選択肢も持っておくべきだと思うんです。
―─なぜ、今の時代こそ……なのでしょうか?
現代では自分のやりたいことを掲げ、実現に向けて行動する人が増えていると感じます。挑戦するのは素晴らしいことです。ですが、日本は人口減少の時代に入っていますので、労働力人口も減る一方。そういったときに、競争相手と共創する選択もできたらと思っています。
―─「CAMPFIRE」と統合して、生まれたシナジーはありますか?
お互いの長所と短所がうまくかみ合ったときにシナジーを感じますね。
「FAAVO」の課題は、サイトの改善などに人員を割けていなかったこと。その代わりに地方に密着することでカバーをしていました。一方で「CAMPFIRE」はサイトの改善スピードが早く、広告などにもダイナミックに行う一方で、地方に密着する部分には課題を抱えていて。
統合してからは、連携を取りながらお互いの短所を補い合い、また、長所を生かし合っています。単純に「1+1」ではなく、それ以上のシナジーを生むことができる点は、統合の大きなメリットだと感じています。
──統合という選択をして、今はどのような思いですか?
僕は新卒で入社した企業を1年半で辞めたり、人脈もお金もコネもない状態で会社を立ち上げたり、大切に育ててきた「FAAVO」を競合企業と統合するという選択をしました。高校時代に進路選択で周囲の意見に流されて後悔したことがあり、大切な決断は自分が絶対に後悔しない選択をしようを決めているんです。だから、どの選択にもまったく後悔はありません。
現代では、人口が減少していくことは避けられず、人材を企業同士で奪い合っています。その状況で、リーダーとしてどう舵を切っていくべきか? ユーザーや社会が求めるサービスをどうやって設計していくか?
そのひとつの考え方として、統合やM&Aという選択肢がもっと当たり前になり、“競争ではなく共創する”という考えが広がることで、ユーザーが本当に求めるサービスが増えていったら、世の中がもっと面白くなりそうですね。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美