スーパーCEO列伝

新規事業で時代を切り拓く!

インターネットに新たなマスメディアを! AbemaTVの挑戦

株式会社サイバーエージェント

代表取締役社長

藤田 晋

写真/宮下 潤 文/竹田 明(ユータック) マンガ/株式会社M41  | 2017.06.12

2016年4月に開局以来、瞬く間に人気を博し開局1周年が過ぎ、ダウンロード数は1700万を超えるAbemaTV。

さらに、放送前から注目を集めた番組「亀田興毅に買ったら1000万円」では、開局後最高の1420万視聴、累計コメント48万件を記録。賛否両論の入り混じった多くの注目が集まるのをよそにサイバーエージェント藤田晋社長は「無理な黒字化は事業をおかしくする」「年間200億円の赤字」などと発言。腰を据えてインターネットテレビを育てていく様子。

果たして、藤田社長の真意はどこにあるのか?常にヒットサービスを生みだし続ける藤田流の経営哲学、その秘密に迫る。

株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋(ふじたすすむ)

1973年福井県生まれ。1998年株式会社サイバーエージェントを設立、代表取締役社長に就任。2000年に当時史上最年少社長として東証マザーズに上場。「Ameba」をはじめとするスマートフォンサービスをはじめ、国内No.1のインターネット広告代理店でもあるなど、インターネット総合サービスを展開。創業から一貫して、インターネット産業において高い成長を遂げる会社づくりを目指し、「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに、代表取締役社長であると同時に、「Ameba」の総合プロデューサーおよび技術担当取締役としてサービスの拡充・拡大に注力。2015年に株式会社AbemaTVを設立し、新たな動画メディアの確立に挑んでいる。著書に『藤田晋の仕事学 自己成長を促す77の新セオリー』(2009年日経BP社)『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(見城徹共著 2011年講談社)『藤田晋の成長論』(2011年日経BP社)『人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない』(見城徹共著 2012年講談社)『起業家』(2013年幻冬舎)など。

ヒットの秘密は仕組みにあり!
藤田流 
新規事業 成長の法則

「アメブロ」をはじめゲームやアプリ、斬新な企業向けのサービスなど、次から次へと新しいアイデアが事業として巣立っていくサイバーエージェント。誰もが気になる藤田流ヒットの秘密に迫ります。

サイバーエージェント(CA)が、成功する新規事業や魅力的なサービスを次々と生み出す背景には、藤田流の人材育成哲学がある。IT寵児として一世を風靡した時に、たくさんの人材が入ってきたが、ITバブルの崩壊とともに、一斉に離れていった経験があるそう。ここから中途採用やM&Aに頼らず、社内で人材を育成させる“自前主義”という考え方が誕生した。この考えをベースに多彩な育成の仕組みをつくっている。そのひとつが2004年にスタートした社内制度「CAJJプログラム」だ。

「CAJJプログラム」は、「大型の買収よりも、社内での事業の立ち上げと拡大を重視」「新規事業は小さく生んで大きく育てる」「人材の採用、育成、社内の活性化を強化」という、CAの成長戦略を制度化したものといえよう。社内の収益化している事業を営業利益にもとづきJ1~J3の3段階に振り分け、基準を満たせば昇格し、結果を出せないと降格・事業撤退となる。CAJJプログラムを開発した理由を藤田社長は次のように語った。


「明確な評価システムを導入して、そのなかに事業を放り込めば、自然と切磋琢磨し始めます。社内のほかの事業と競える環境は、モチベーションの維持や創意工夫につながり、事業が成長・熟成して行きます。『最短でJ2に昇格した』とか、社内で話題になると、事業に携わっている社員たちは、やりがいを覚えてどんどん積極的に事業を展開させてくれます」

 

CAJJプログラム

サイバーエージェント(CyberAgent)事業(Jigyo)人材(Jinzai)育成プログラム。利益規模やサービス規模などにより事業を3段階に区分し、昇格や撤退基準を明確にすることで事業を拡大させる仕組み。新規事業へのチャレンジを促すと同時に、撤退基準を明確化で不採算事業への固執による損失の拡大を避ける。2四半期連続で減収減益になったら撤退、もしくは事業責任者は交代となる。

そしてもうひとつ、CAが2016年に新しく導入した「スタートアップJJJ」も新規事業を育む仕組みだ。これは新規事業だけにフォーカスした制度で、経営陣が新規事業を「時価総額」で評価。時価総額30億円を超えれば「CAJJプログラム」に移って、さらなる高みを目指すという仕組み。時価総額という概念を持ち込んだのが斬新だ。


「スタートアップ期間は業績だけで測れない側面があります。収益化はできていないがユーザー数を急速に伸ばしているとか、有力な分野にいち早く参入して、同業他社に対してアドバンテージを築きつつあるとか、スタートアップの段階では、収益につながっていなくてもさまざまな価値があります。それを上場企業なら“株式時価総額”で測りますが、同じようにうちの経営陣が、それぞれのスタートアップ事業に“時価総額”を付けて評価しています」


時価総額を付けるときに、「リーダーのカリスマ性」も評価の対象にするなど、市場が会社を評価する際のあらゆるポイントを考慮する徹底ぶりが面白い。社内に小さな市場を作り上げているようなものだ。
 

スタートアップJJJ

事業(Jigyo)人材(Jinzai)時価総額(Jikasougaku)の頭文字を取った、2016年10月に運用を開始したCAの新しい育成プログラム。原則設立2年以内で、収益化していないスタートアップ事業を対象に、時価総額によって事業をランク分け。時価総額30億円達成で卒業・CAJJプログラムへ昇格。一方、6四半期連続シード継続や3四半期連続粗利益減少すると事業撤退となる。

「CAJJプログラム」も「スタートアップJJJ」も、事業の評価を数値化してわかりやすくしている。これこそ藤田流の仕組みづくりといえる。2016年にスタートしたAbemaTVの番組企画でも藤田流はいかんなく発揮されている。「とんがリスト会議」という企画を評価する場を設け、それぞれの企画がどれだけ“とんがっているか”を測るのだという。藤田社長曰く、「他にはない、とんがっている番組か、ニュースのように視聴習慣につながる番組にしか価値はない」。


新しい事業やサービスを生み出すには、アイデアをひねり出し実現に導く人材と、それを明確に評価するシステムが必要だと、藤田流の仕組みづくりからは教えられる。さらに、獲得した評価をもとに社内で競える環境も成長要因のひとつといえるかもしれない。


もちろん、社内の評価をすべて成果にしぼっているということではない。役職に関する人事評価については実績よりも、人格を重要視しているという。


「事業が大きくなれば、人を束ねることになります。それには個人で優れた業績を残す以前に、優れた人格をもっているか、が重要です。いわゆる日本企業的な考え方ですが、事業の育成を考えたときに、管理者の人格は非常に大切なことなんです」 

 また、もうひとつ藤田流のヒットの秘訣がある。ネーミングの妙だ。


「サービスでも事業でも制度でも、ネーミングは大事です。ありきたりの名前にすると存在を忘れられてしまいます。一生懸命作った福利厚生の制度でも使われないことがありますが、それはネーミングが悪いからですよ」


「CAJJプログラム」「スタートアップJJJ」「とんがリスト会議」「あした会議」「ジギョつく」「新卒社長」「2駅ルール・どこでもルール(家賃補助制度)」「休んでファイブ(リフレッシュ休暇)」etc。アイデアを生かすも殺すも名前ひとつ。このあたりも藤田流といえよう。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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