スピリット力

ロケット打ち上げの感動で人生が変わった 宇宙産業を盛り上げ、地域活性化を目指す

株式会社UtoM

最高執行責任者

村澤夏美

文/宮本育 写真/守澤佳崇 | 2022.01.11

今から30年以上前から「宇宙のまちづくり」を進めている北海道大樹町。同町にて2019年5月、インターステラテクノロジズ株式会社の観測ロケット「MOMO 3号機」が打ち上げられ、日本の民間ロケットとして初めて宇宙空間に到達した。株式会社UtoMの村澤夏美氏も、その様子を見守っていた一人だ。ロケット打ち上げのボランティアをきっかけにロケットや宇宙に魅了され、現在、インターステラテクノロジズ社の広告営業代理店として活動する村澤氏に宇宙産業への思いをうかがった。

株式会社UtoM 最高執行責任者 村澤夏美(むらさわ なつみ)

1988年、北海道札幌市生まれ。15歳からコンビニエンスストアでアルバイトとして働き、19歳で店長を任され、経営のノウハウを学ぶ。23歳で独立し、サンクス札幌富丘3条店を開業。その後、ファミリーマートに転換し、29歳のときに株式会社UtoMを設立、ファミリーマート札幌稲穂2条店をオープンさせる。31歳、インターステラテクノロジズ株式会社と広告営業代理店契約を結び、現在に至る。

社員やスタッフを守るためにたどり着いたのがロケットだった

15歳からコンビニエンスストアでアルバイトを始め、19歳で店長に就任。人材教育、商品管理などを通じて、経営者としての知識を身につけていった村澤氏。23歳で独立し、自身の店を運営していくなかで、ふと思うことがあったという。

「コンビニ業界にもAIの技術が用いられるようになったら、人手がいらなくなるでしょうし、もっと言うなら本社で直営店を管理できるようになるので、フランチャイズ化する必要もなくなるかもしれません。そうなったら、当社の社員やアルバイトスタッフをどうやって守ればいいだろうかと思ったんです」

そのときに出会ったのが、ロケットだった。

きっかけは、堀江貴文氏による会員制オンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」。村澤氏は同サロンの会員で、ここで募集されていた、ロケット打ち上げ会場で設営などを手伝うボランティアスタッフに興味をもったのが始まりだった。

「インターステラテクノロジズという民間企業がロケットの開発・製造していること、そのロケットを北海道大樹町で打ち上げていることを、このとき初めて知りました。ロケットの打ち上げを観る機会なんてそうそうありませんし、何よりも札幌から車を4時間ほど走らせただけで、そのような体験ができるなら行ってみようと。最初はそれくらいの気持ちでした」

ロケットが打ち上がる様子を観ると人生が変わる、というが、村澤氏もまさにそうだった。

「この体験をきっかけにロケットに魅了され、打ち上げのたびに大樹町へ足を運ぶようになりました。何度経験しても打ち上げ直前はドキドキしますし、空に向かっていくロケットを観ると本当に感動します」

加えて、ロケット関連の講演会にも積極的に参加し、造詣を深めていった。

「そこでわかったのは、ロケットは決して夢物語ではなく、これからのビジネスを担うインフラであり、日本は宇宙産業において世界のトップになれる可能性もあるということでした。宇宙産業に携わることができたら、社員やアルバイトスタッフを守ることができると確信しました」

ビジネスの場を宇宙にまで拡げることで何ができるのか、その可能性は計り知れない。例えば、インターネットが普及し始めた1990年代当時、これによって何ができるのか多くの人が予想だにしなかったが、今では私たちの生活に欠かせないものとなった。宇宙産業もそのような道をたどるといわれている。

さらに、宇宙産業の裾野は広く、衛星の使い方だけでも無限の可能性があるため、その市場規模は、2040年には120兆円にまで成長するという予測もされている。

ロケットの打ち上げを通じて、スポンサー企業に感動と活力を

現在、村澤氏が取締役を務めるUtoMは、コンビニエンスストアの経営に加え、2019年よりインターステラテクノロジズと広告営業代理店契約を結び、ロケット打ち上げを支援するスポンサー企業を獲得するための営業活動も行っている。だが、それだけにとどまらない。

「広告を売るだけでなく、インターステラテクノロジズのロケットと、射場がある大樹町を好きになっていただけるよう、打ち上げがある際は必ず現場を訪れ、見学者へ大樹町をご案内したり、打ち上げ観覧場でスポンサー企業様の商品をご紹介するなど、その場にいる方々にとって価値ある経験だったと思っていただけるお手伝いもさせていただいています」

インターステラテクノロジズ株式会社のロケット射場。

2021年7月に行われた「MOMO 7号機」の打ち上げのときには、スポンサー企業であるサザコーヒーのコーヒーを飲みながら打ち上げを見守る、という企画を実行。電気も水道もガスもない打ち上げ会場に、ペットボトルの水とコンロ、やかんを持参して、淹れたてのコーヒーを見学者にふるまった。

過去2回(MOMO 4、5号機)、サザコーヒーのコーヒーを宇宙へ届ける試みが行われ、どちらもその願いは届かなかったが、三度目の正直である7号機で成功。ロケットに積まれているコーヒーと同じものを味わい、ロケットが宇宙へ向かっていく様子を見守る一体感は、言葉で言い表すことはできないほどの感動だったと、村澤氏は言う。

「サザコーヒーの鈴木太郎社長からは、『大樹町はパワースポットだ。ロケットの打ち上げは、私が仕事をするモチベーションになっている。だから、毎回スポンサーになっている』と言っていただけました。それを聞いて、これこそが私たちのできることなのかなと感じました。ロケット打ち上げの応援を通じて、スポンサー企業の皆様の活力になればと思っています」

“宇宙事業といえばUtoM”と言われるような企業を目指して

今後も、社会を良くすると思えるものには積極的にチャレンジしていきたいと話す村澤氏。ロケットを見に行こうという好奇心から挑戦し、そこからさまざまな縁がつながって、今があるからだそうだ。

そして今後の目標について、このように話してくれた。

「ネクシィーズの近藤太香巳代表が孫正義氏とタッグを組んでYahoo! BBを広めたように、インターステラテクノロジズのロケット事業を世間の人々に最も紹介した会社になること。そして、いまだ北海道企業からロケットの広告スポンサーになっていただいた企業様がいませんので、当社で開拓することが目標です。さらに、とても大きな夢ですが、サイバーエージェントのような会社を目指しています。サイバーエージェントも最初はネット広告営業代理店からスタートし、いまやAmeba Blog、AbemaTV、Cygamesなど、さまざまな自社コンテンツを生み出す、日本を代表する企業へと成長しました。当社も、いずれは宇宙に関するコンテンツやサービスを自社でつくり、『宇宙事業といえばUtoM』と言われるようになりたいです」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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