Bar KING
取締役社長
野口慎之助
写真/田村和成 文/金田啓 | 2021.04.12
Bar KING 取締役社長 野口慎之助(のぐちしんのすけ)
鹿児島県生まれ大阪府育ち。メディア系の専門学校を卒業後、飲食事業で店長に。その後、専務として経営を支え、2020年取締役社長に就任。Bar KINGの経営を根幹に、不動産、美容サロン事業なども手がける。
Bar KINGは、オーナーを務める西野裕明氏が、敬愛するサッカーの三浦知良選手の愛称にちなんで命名。大阪と京都のベッドタウンとして賑わう高槻市で、阪急高槻市駅から徒歩数分、ビルの2階にある隠れ家的なバーとして幅広い年齢層から愛されている。
西野オーナーの元で接客業を学び、昨年から取締役社長に就任して経営を取り仕切るのが、38歳の野口慎之助社長だ。西野オーナーは“係長代理補佐待控心得”という長すぎる役職に退いて、野口社長をサポートしている。
「『いっぺん、好きなようにやってみぃ』が、西野の口癖。決断するときは厳しく判断を下しつつも、日頃はスタッフを信頼して全面的に任せてくれる。仕事を任されるのは誇らしくもありますし、より真剣に役職のプレッシャーを感じるようにもなります。サッカーのゼロトップシステムという戦法に似ていて、トップが皆を先導するだけではなく、スタッフ全員が点を取るストライカーのつもりで働く。それがうちの強みなんです」
昨年、Bar KINGで10年以上働いてきた店長が独立を希望して、フランチャイズ店のオーナーに転身した。次のステップへ進みたいスタッフは全力で応援する、それも野口社長が西野心得の姿勢から学んだことだ。
そして現在のBar KINGは、店長という役職を置かず、3人のスタッフが日替わりで店に入り、同等の立場で現場を切り盛りしている。3人が口を揃えたのが「自分が店長だと思っていた」というひと言。スタッフが自主的に切磋琢磨することで、会社全体が盛り上がっていく。ここにも西野心得の精神が息づいていた。
緊急事態宣言が発令されて、世間の状況は一変。飲食店が軒並み悲鳴を上げるなかで、Bar KINGも大きな痛手を負った。お酒を飲む人口が減っていることは常々感じて対策を考えていたという野口社長も、ここまで世界が変わるとは予想していなかったと振り返る。
さらに追い打ちをかけるように、昨秋、西野心得が体調を崩してしまう。すぐに回復したものの、精神的支柱が一時的とはいえ倒れたことで、社内には動揺が走ったという。
「でも、今振り返ると、色々な出来事が試練になってスタッフが心を一つにできた気がします。普段から一人ひとりが『自分が点を決めてやる』という自覚をもって仕事をしていれば、どんな変化にも対応できるという自信もつきました」
そして、人が集まることができない状況のおかげで、バーという「人と人が集まる場所」がどれだけ尊いものだったかも再認識できたと、野口社長は話す。
これからも「人の集う場」を提供していきたい。その思いを新たにして、野口社長は今、再生に向けて動き出している。そのための試みの1つが、Bar KINGの昼営業だ。現在予定している大幅な改装工事とともに、カフェメニューをスタートさせて、これまで取りこぼしてきた客層にもアピールしていきたいと野口社長は話す。同時に、今まで以上にフードメニューを充実させたり、ノンアルコール飲料にも力を入れたりして、お酒を飲まない人にも楽しんでもらえる場所づくりもこれからの課題だという。
「『お酒を飲む場所』にこだわっていては、未来はないと思っています。むしろバーとは、人と出会うための場所。1人ではなく、3人のスタッフに現場を任せているのも、『このスタッフに会いたい』という理由が来店動機の1つになってくれたらという思いがあるからです。これからも多彩なスタッフと一緒に『人の集う場』を守り続けていきたいですね」
vol.56
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日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
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井上裕美