本音の働き方

フロンティアの介護に聞く

「人×デジタル」が創出する、人生100年時代の介護現場の働き方

株式会社フロンティアの介護

写真/芹澤裕介 取材・文/小幡奈々 動画/ロックハーツ | 2022.04.11

2065年、日本の総人口の4人に1人が75歳以上となり、平均寿命は男性が84.95歳、女性は91.35歳になると推計されている(内閣府/令和2年版高齢者白書より)。データだけを見ても、介護福祉の業界や人材は、今後ますます社会に求められていく成長産業だと言える。そうしたなか、ICT化やDX化推進のスピードに加え、キャリアアップ制度の充実化等で常に業界を牽引してきたフロンティアの介護に、人生100年時代における介護現場の働き方を聞いた。

株式会社フロンティアの介護  

◆事業内容:中部・関東・関西に介護付有料老人ホーム、グループホームなど80以上の施設を展開。笑顔を大切にしたあたたかなサービスと定評のある介護技術により、高い満足を獲得している。施設のメンテナンス、介護福祉士などの人材採用、教育研修といった運営のハード・ソフト面は、母体である株式会社フロンティアにアウトソーシング。介護業務のICT化、DX化を図り、専用窓口を設けてメンタルサポートを行うなど、働きやすい環境整備にも注力している。

◆職種:介護施設の運営、医療介護コンサルタント、介護施設メンテナンス、介護用品販売・レンタルほか

介護業界のフロントランナーが起こす変革

中部・関東・関西に介護付有料老人ホーム、住宅型老人ホーム、グループホームなど80以上の施設を展開するフロンティアの介護(2022年3月時点)。介護スタッフを中心に、介護福祉士、介護支援専門員、看護師、理学療法士、管理栄養士、音楽療法士等の様々なスペシャリストが在籍し、日々の生活支援からリハビリテーション、レクリエーション、バランスの取れた食事提供、地域の医療機関の連携による定期往診までを行い、生活、栄養、健康管理ともに充実した介護サービスを提供している。

そんなフロンティアの介護は、業界でもいち早くICT化を導入し、介護現場での生産性向上を図りながら、職員の業務負担の軽減に注力。職員がタブレット端末を持ち、利用者のケア状況や食事といった日々の介護記録、およびリハビリ計画を一元化して管理している。これによってDX化が加速し、ペーパーレスの実現や、QRコードを用いた服薬管理によって人的ミスの減少につなげるなど、環境改善を推し進めている。

これらのICT化やDX化の推進は、単なる作業の効率化にとどまらず、介護福祉の根底にあるホスピタリティの向上にもつながっているという。「人×デジタル」がもたらす変化について、フロンティアの介護のキーマンに話を聞いていく。

「人×デジタル」のハイブリッドが、“介護福祉のニューノーマル”に

株式会社フロンティアの介護 代表取締役 塚本友紀(つかもとゆき)/株式会社フロンティア創業時から事業に携わり、株式会社フロンティアの介護代表取締役に就任。前職のブライダルプランナー経験を生かし、笑顔と心遣いを大切にした介護サービスの提供をモットーとしている。

「働く人が笑顔でいることが、利用者様はもちろん、仲間たちの笑顔につながります。株式会社フロンティアの介護では、『「すべての人の笑顔」をめざして』という理念のもと、働きやすい環境づくりや、やりがいのある制度づくりに取り組んでいます」(塚本さん)

母体である株式会社フロンティアのIT事業部主導のもと、介護現場で使えるオリジナルソフトの開発に取りかかり、ICT化、DX化にもいち早く着手。2016年度までに、施設すべての介護現場にタブレット端末を導入している。開発の背景には、事務作業の工程を減らすことで、職員負担を軽減する目的があったというが、タブレット端末が普及した今、現場ではさまざまな相乗効果が生まれているという。

「まず、介護記録がタブレット入力で済むことで、服薬における人的ミスがなくなりました。作業の効率化によって時間に余裕ができると、職員たちの心にもゆとりが生まれ、利用者様への手厚いホスピタリティにつながっています。これは何より喜ばしい成果です。また、DX化によってペーパーレスも実現しました。目に見える効果をスタッフに理解してもらいたくて、一人の利用者様が1年間に必要な介護記録紙を並べてみたんです。1mずつ積み上げたらすごい量になりました。80施設1600床で換算すると、巨大な倉庫が必要になるでしょう。病院やご家族から、利用者様についてのお問い合わせをいただいても、従来であれば保管倉庫から年代別のBOXを探し出して……と、それは大変な作業でした。今では検索するだけで解決しますから、もう記録紙には戻れませんよね」

「また、職員一人ひとりのライフステージを尊重するのも、私たちの役目です。男女を問わず、キャリア志向の方には、社内研修や資格取得支援制度を活用し、働きながら昇給や昇進を目指していただけたらと思います。さらに、子育て世代にも活躍してもらえるよう、施設形態や勤務時間など、働き方を選んでいただくことも可能です。産休や育休で現場を離脱しても、“いつでも戻って来ることができる環境”を用意しています。嬉しいことに、2021年には名古屋市から『女性活躍推進企業』の認定を受けました。これも、地道に取り組んできた女性の働き方支援が認められた証ですね」

「女性活躍推進企業」の認定プレート。

ほか、コロナ下におけるマスクの寄付や、共同募金運動に協力するなど、組織的に社会貢献活動を行っている。

「フロンティアの介護では、未来系の介護の形を模索し、2022年4月1日、岐阜県関市に建物自体にもICT化を取り入れた『せきの憩』を開業しました。普遍的な人の心と、進化し続けるデジタルを掛け合わせ、介護の現場を常にアップデートさせていきたいと思います。介護は、人が相手であり、働く仲間もまた人です。あくまでも根底にあるのは、“人の心”というアナログな部分。だからこそ、私たちはICT化を推進しながら、『「すべての人の笑顔」をめざして』の理念のもと、利用者様はもちろん、職員が笑顔でいられる環境整備に努め、職員一人ひとりのワークライフバランスを尊重しています。これからも“ICT活用”と“人の心”のハイブリッドで、新たな価値創造に挑戦していきます」

仲間がいる安心感が力に、「70代になっても、ここで働きたい」

株式会社フロンティアの介護 フローラユーアイ(介護付有料老人ホーム) 施設長 國立永見子(こくりゅうえみこ)/2012年中途入社。「フロンティア介護スクール」講師も務める。

「私にとっての介護職の最大の魅力は、現場で利用者様と接すること。笑顔が見られることや『ありがとう』の言葉をいただける、そこにとてもやりがいを感じています。人対人のお仕事ですから、ときには落ち込むこともありますが、一緒に頑張れる仲間がいるということが、モチベーションにつながっています」(國立さん)

フロンティアの介護は施設数が多い分、管理職同士で連携をとる機会に恵まれているという。どんなことでも、上司、同僚に相談すればすぐアドバイスを受けられ、施設長会議など同じ立場で意見交換できる環境が整っている。

「前職は単体の介護施設だったこともあり、相談できる相手がいなかったんです。自分ひとりで抱え込むことも多かったので、こうした会社独自のバックアップ体制のおかげで安心して業務に打ち込むことができています。入職して10年ですが、『ひとりじゃない、仲間がいる』という安心感があったから、長く続けられていると思っています」

また、施設長を務める傍ら、「フロンティア介護スクール」の講師も担当しているという國立さん。生徒は10〜70代まで年齢層の幅が広く、教える立場ながら学ぶこともたくさんあるそう。

「介護の世界をまったく知らない方々の考えや感覚に触れるたび初心に返れますし、利用者様への接遇の在り方を考える上でも、とても役立っています。また、年齢を問わず、ライフスタイルに合わせた時間帯で働けるのも、この会社の魅力です。スキルアップに向けた取り組みも充実しているので、性別問わず、施設で成長することができます。うちの施設では、75歳の介護福祉士の方が中途採用で入社したのですが、その姿を見て、私も70代になってもここで働きたいという新たな目標ができました」

 “人と人”のつながりを強くするためのICT化

國立さんと同じく、フローラユーアイで介護福祉士として働く朝井理恵 (あさいりえ)さんは、現場の視点からもICT化による恩恵は、効率化だけにとどまらないと話す。

Zoomのオンライン取材にて。

「フローラユーアイは、スタッフ同士がとても仲間意識が強いです。施設内は、スタッフ同士の声がけで、誰がどこの持ち場にいるのか把握したり、誰もが自分の意見を言いやすい環境が整っていると思います。利用者様のケアを考えるときはもちろん、勤務シフトに至るまで、どんなこともまずは意見交換から。学校行事や突発的な子どもの体調不良の際もスタッフ同士が連携し、“お互いさま”の精神で助け合っています。

入職して12年目になりますが、介護記録のタブレット導入は正直、最初は戸惑いました。それでも慣れるとたくさんのメリットがあり、記録紙への手書き作業にはもう戻れません(笑)。たとえば、QRコードで読み取る服薬システムは、利用者様の健康管理においても安心感がありますし、趣味や好物、好きな遊びといった利用者様の情報をチームでも共有できることが、結果的にホスピタリティの充実につながっています。

スタッフ全員が、ICT化によって時間だけでなく心にも余裕を持って介護サービスができるようになったのは、正直一番大きな変化だと感じています。結局、介護福祉は“人と人”のつながりが大事。そこに改めて意識が向くようになったことが最大の成果ですよね」(朝井さん)

施設内の情報をSNSで積極的に発信し、“開かれた介護の現場”を目指す

 

株式会社フロンティアの介護 すいじんの憩(介護付有料老人ホーム) 施設長 小田切一晃(おたぎりかずあき)/2016年中途入社。

フロンティアの介護のなかで、最大規模の介護付有料老人ホーム「すいじんの憩」の施設長、小田切一晃さんは、ICT化やDX化が進むことによって得られる付加価値に期待を寄せる。

「正直なところ、介護職に対してネガティブな印象を抱く人がまだまだ多いのも事実です。そうした既成のイメージが少しでも払拭できればと、すいじんの憩では職員同士が協力し合って施設内の情報をブログやSNSで発信しています。そうすることで、利用者様のご家族様も施設でのできごとを知ることができ、安心感につながります」(小田切さん)

「ただ、介護現場へのタブレット導入に関しては、やはりデジタルアレルギー世代にとっては容易なことではありませんでした。ベテラン職員が難色を示すなか、助け舟を出してくれたのは若手スタッフです。操作方法を分かりやすく説明してくれたおかげで、今ではベテラン職員も使いこなせるようになりましたね。そんな以前はなかったコミュニケーションによって職員同士の信頼関係が生まれたのは、うれしい誤算です」

「ICT化によって事務的な負担が減り、時間的余裕が生まれたのは、介護福祉の業界全体にとっても本当に大きな改革です。ですが、私たちが大切にしているのは、あくまでも人の心ありきのデジタル化。『人ができることは、人がやる』という姿勢を変わらず持ち続け、一秒でも長く利用者様に関わることができるよう、職員一同心がけています」

利用者様、職員、企業、すべてが好循環でまわる次世代の介護福祉を

株式会社フロンティアの介護 山梨支社 支社長 天野 真吾(あまのしんご)/2021年中途入社。

「フロンティアの介護が推進してきたICT化やDX化は、事務作業の効率化だけでなく、多様な働き方を可能にしました。利用者様の介護状況は一元管理されている他、勤務シフトもチーム内で共有されているので、申し送りもスムーズ。そうした小さな変化の積み重ねが、育児や親の介護に携わっているスタッフたちのフレキシブルな勤務体制の実現にもつながっています」(天野さん)

「職種や勤務先の施設形態、正社員・非常勤・夜勤専門といったライフスタイルから、自分に合った働き方が選べます。また、人材育成にも注力していますので、充実した社内研修や資格取得支援制度のもとでスキルアップをサポート。『フロンティア介護スクール』で様々な講習を無償で受講でき、未経験・無資格でも働きながら介護の現場に必要な知識や技術を身につけることが可能です。取得した資格ごとに手当が保障されていますから、ライフステージに合わせたキャリアアップが目指せます。

そういった点では、一度退職し、競合他社で勤務した職員が戻ってくる、いわゆる『リターン組』が多いのも当社ならではと言えます。外に出たことで当社のトータルバランスの優位性に気づくといった中で、タブレット導入の利便性も理由の一つになっているようです。若手はもちろん、中途採用の職員も、ライフプランを立てやすい環境と言えます」

また、フロンティアの介護では、外国籍の職員やLGBTQ+、定年退職後の嘱託社員等、多様な人材雇用の可能性を広げ、ダイバーシティを実現している。

「いずれも『「すべての人の笑顔」をめざして』の企業理念に通じるところであり、今後も施設ごとに尽力しながら、利用者様、職員、施設、組織、そのすべてが無理なく好循環で回るような、次世代の介護福祉を実現したいと思います」

ICT化、DX化の推進によって介護福祉の現場はどう変わる?

競合に先駆けてICT化、DX化を推進してきたフロンティアの介護。その立役者であるITソリューション事業部の田村恵三さんに、ICT導入の背景を聞いた。

「2008年頃から、フロンティアの介護では他会社に先駆けてICT導入促進のスタートを切り、他にはない魅力ある会社づくりを目指しました。現在、介護記録を紙にペンで記入している事業所は、介護業界全体の40%と言われていますが、当社ではスマートフォン普及率が60%を超えた2016年の段階で、紙での記録を全事業所で廃止。介護記録をタブレット端末で行う変革を一斉に進めました」(田村さん)

また、一般的に介護記録やバックオフィスを支えるパッケージは多く存在していますが、当然ながら介護事業者が自分たちの業務を効率的にするための『かゆいところに手が届く』ようなソフトウェアは販売されていません。私たちは、一般的な業務はパッケージソフト、介護業界に特化した内容は自社開発ソフトを利用し、同時に必要に応じてパッケージソフトと自社開発ソフトを連携させ、新たに『介護運営会社』をサポートするシステムを一つ生み出したと考えています。そうした意味でも、介護業界でのICT化における最先端にいると自負しています。

介護は、人と人のふれあいによるサービスであり、ICT化によって実現できることは、職員が個々の専門分野だけに注力できるよう手助けをすることです。企業理念である『「すべての人の笑顔」をめざして』を体現する意味でも、それこそが私たちの使命だと考えております」

行政においても介護福祉の重要性は常にうたわれていることであり、近年ではSDGsの観点からも注目度は高まっている。成長産業として新しい価値創出が求められるなかで、フロンティアの介護の挑戦は続く。

企業情報・問い合わせ先

株式会社フロンティアの介護

職種:介護施設の運営、医療・福祉サポートほか
TEL:0120-93-9830(採用窓口)
E-mail: recruit@frontier-coltd.co.jp

ホームページ:https://www.frontier-gp.jp/

株式会社フロンティア

職種:医療介護コンサルタント、介護施設メンテナンス、介護用品販売・レンタル、人材派遣、飲食・サービスほか
TEL:052-746-9954(採用窓口)
E-mail: recruit@frontier-coltd.co.jp

ホームページ:https://www.frontier-coltd.co.jp/

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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