スーパーCEO列伝

3年間で1500本以上の動画を制作・配信

今、ビデオリリースに企業が注目する理由

株式会社NewsTV

代表取締役

杉浦健太

写真/高橋郁子 文/長谷川 敦 | 2018.12.10

総合PR会社ベクトルの子会社NewsTVは、2015年に設立したビデオリリース事業の専門会社だ。企業情報、商品、サービス、記者発表会等を、自社の動画制作スタッフが無料で動画コンテンツ化。それを確実に興味・関心の高いユーザーに届ける、というユニークなビジネスモデルを誇る。PRを新たなステージへと押し上げる、杉浦健太代表に伺った。

株式会社NewsTV 代表取締役 杉浦健太(すぎうら けんた)

1978年生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社ベクトルに入社後、サイバーエージェントの子会社の立ち上げを経て2010年に独立。複数社の経営を行った後、2014年、ベクトルとマイクロアドの合弁会社ニューステクノロジーの立ち上げに伴い、再びベクトルにジョインする。2015年にNewsTVを起業し現職に。

ビデオリリースの受注は右肩上がりで増加中。ちなみに2019年2月期は半年で(2018年8月までで)382本を受注。累計で1513本を受注していることに。

企業が伝えたい情報を、動画なら伝えたい人へスピーディに配信が可能に

その動画の長さは、1分28秒に過ぎない。2016年10月、紳士衣料を取り扱う企業コナカが東京・青山にオープンしたオーダースーツの新業態「DIFFERENCE」を紹介したビデオリリースのことだ。

まず、スーツ生地が並んだシックな店内のイメージが映る。すぐに記者発表会の模様に変わる。そして、いつしかCGを交えたプロモーション映像に。モデルがスマホアプリを触る。CGのスーツの色や柄、カタチが代わる。そして完成した洋服が自宅に届く――。

小気味よい編集と明快な説明が入った動画で、「DIFFERENCE」の斬新なビジネスモデルを、極めてわかりやすく伝えてくれる、という仕掛けだ。

「男性ファッション誌などへの広告出稿はまったく行わず、従来のPR手法とこのビデオリリースだけで新業態の告知をした」と動画制作と配信を手がけたNewsTVの代表取締役・杉浦健太氏は言う。

「結果、開業後3か月間、来店予約が8割程度埋まっている状態がずっと続きました。そしてコナカ様は、今や全国各地に『DIFFERENCE』を展開されています」(杉浦氏・以下同)

なぜ、それほどまでに高い効果をなし得たのか?答えは驚くほど、シンプルだった。

「クライアント企業が伝えたい情報を、適切な情報に変換し、伝えたいターゲットに確実に送り届ける。我々のビデオリリースならそれができるからですよ」

環境が整ったベストタイミング、それが2015年だった

NewsTVは、ベクトルグループの子会社のひとつ。2015年8月に杉浦氏がたった2人で立ち上げたものだ。

ビジネスモデルを一言でいうなら「企業が新商品やサービスを発表するときに配信する“ニュースリリースの動画版“の制作と配信」となる。

NewsTVが企業の商品発表会や展示会、イベントなどに映像クルーを送り込み、その様子を動画で撮影。60秒~90秒程度の動画コンテンツとして編集する。そうしてできたビデオリリースを、アドテクノロジーを用いて、企業がその情報を届けたいターゲットに向け、自社の持つ動画配信プラットフォームや、Facebook、Twitter、InstagramなどのSNSに配信する、というスキームだ。

ポイントのひとつは、通常、テキストと写真で構成されるニュースリリースを“動画にしている”ことだ。

音声と動画によるコンテンツは、テキストや写真と比較して、何十倍もの情報量となる。文章を読むより、ストレスも少なく、直感的に大量の情報を伝えられるわけだ。

その上で、一番のストロングポイントは、前述のとおり「企業側が伝えたい情報を、適切な情報に変換して、伝えたいターゲットに確実に届けられること」に尽きる。

従来のPR手法は、ニュースリリースや記者発表会などを通じて、企業側がメディア関係者に商品やサービスに関する情報を提供。テレビや新聞、雑誌などで取り上げてもらうことを目指したものだった。

しかし、必ずしもメディアが報じてくれるとは限らない。またテレビ番組や雑誌誌面で、どんな取り上げ方をされるかも、メディア側に委ねるしかなかった。本当に情報を届けたいターゲットに、きちんと情報が届いているかどうかも不明だ。そこに従来のPRの限界があった。

「以前と比べて、テレビや雑誌で情報を報じてもらうことによる効果も落ちてきた。10年前であれば、テレビの情報番組で『○○という食品がダイエットに効果的!』といった情報が流されれば、翌日にはスーパーでその食品があっという間に売り切れる現象が起きた。けれど、一般消費者のテレビに代表されるマスメディア離れが進んだ今では、そういうことはほとんどないですからね」

人々への情報の流通の仕方が変わってきているなかで、これまでのPRの手法とは違う手法を開発していく必要がある――。杉浦氏は大卒後にベクトルへ入社し、PR業界を経験。その後、一度独立してネット広告の世界を見てきた杉浦は、こうした時代の変化を肌で感じていたわけだ。

そんなとき、スマホの通信速度や動画再生技術が向上したことにより、動画をよりストレスなく見られる環境が整った。SNSもマジョリティに普及するとともに、テキストから画像へ、画像から動画へ、とコンテンツのカタチを変え始めた。

同時に、アドテクノロジーの進化によって、より精緻にターゲットを絞り込んで情報を発信できるようになった。こうした潮目の変化が、ちょうど2015年頃だった。

つまり従来のPRの限界を超える環境が整ったわけだ。

「我々が事業を始めたのも2015年。これよりもし1年早く始めていたら、きっと失敗していたでしょうね」

だから、先に挙げたコナカの「DIFFERENCE」も、都内在住の20~30代の男性ビジネスパーソンに絞ってビデオリリースを限定配信した。「便利でおしゃれで革新的なスーツ」に興味を持ちそうな彼らのSNSに、自然に広告として流れるようにしたわけだ。その結果、大量の反応と、8割以上の来店予約が埋まるという状況を生んだ。

こうした成功が他業種のクライアントを呼び込み、3年前のサービス開始以来、NewsTVが制作・配信したビデオリリースは、既に1500本以上に達している。社員は40人前後に増え、最近では一日5、6本のペースで、新たなビデオリリースが配信されている。多くの企業が、同社のニュースリリースの効果性を実感しているからこその数値といえる。

もっとも、単に「ターゲティングした層に動画コンテンツを届けている」ことだけが、同社の勝因ではない。

緻密なデータ分析と改善、その繰り返しがビデオリリースの真髄

NewsTVが、効果の高いビデオリリースを制作・配信できているもうひとつの理由は、各工程にスペシャリストを配置し、常にデータに基づいた、緻密な分析と改善を怠っていないことだ。

動画を撮影し、編集作業を行う動画制作チームは、かつてテレビ局で情報番組の制作に携わってきたスタッフが多いという。彼らは1時間の記者発表会のうち、どの部分を切り取って60~90秒程度の映像に編集し直せば、視聴者が興味を持って見てくれる動画になるかを熟知している。

また、クライアントのニーズに応じて「どんな属性や特性のユーザーにビデオリリースを配信するか」というターゲティングユーザーの抽出を担っているのは「運用チーム」と呼ばれているスタッフたちだ。

繰り返しになるが、NewsTVは自社で動画制作機能と配信プラットフォームを保有している。そのため「ユーザーがどんな動画をどのシーンで観るのをやめたか」「どんなシーンを繰り返して観たか」といった細かなデータを、1秒単位で集計できる。

「このデータを運用チームが分析して、動画制作チームにフィードバックしていく。ここに僕らの本当の強みがある」

過去の実績から、SNSのこういうアカウントにフォローしている人に配信すると、より高い視聴効率が得られるのではないか――。運用チームはデータ・アナリティクスのスキルと、日々の積み重ねたナレッジを合わせて得たノウハウを、動画制作チームが次の動画の改善に生かす。こうしたデータの蓄積や分析によって、ターゲティングユーザーの絞り込みがより精度の高いものになるのだ。

「当社のビデオリリースは、ビジネスモデル自体はシンプルですが、裏側では非常に緻密な作業に取り組んでいます。また、すでに3年前からこのデータを積み上げてきているビデオリリース会社は唯一無二。他社には簡単には真似できないものだと思います」

NewsTVのビデオリリースの強みをさらに付け加えるなら、“スピード感”もある。クライアントが希望すれば、最短で撮影したその日に編集作業を終えて、配信することもできるという。

これを可能にしている理由は、動画の制作費を“無料”にしていることが大きい。クライアントが支払うのは配信費のみなのだ。

実はNewsTVでも当初は、「企業から制作費を50万円~100万円程度いただいていたことがあった」(杉浦氏)という。しかし制作費をもらうと、通常の広告制作と同じような意識がクライアントの担当者の中に生まれ、詳細なチェック・確認が求められるようになる。そのため動画の撮影から配信まで2~3週間かかることも珍しくなかった。

そこでNewsTVでは制作費を無料にシフト。クライアントのチェックの期日を区切ることで、撮影から配信までの時間の短縮化を図った。これにより鮮度の高い情報を、届けたいターゲットにスピーディに届けることを実現したわけだ。

「昼間に記者会見をした動画を、すぐさま編集し、その日の夕方に配信することも可能です。場合によっては、最初に流したビデオリリースの試聴データをすぐさま反映させて、ブラッシュアップした動画を再配信することもできる。これは、データ・アナリティクスができるスタッフと、情報番組や報道番組を手がけてきたスタッフが多くいる、我が社ならではの強みですね」

ビデオリリースが商習慣に、そんな時代を作りたい

2018年10月より、NewsTVのブランドキャラクターにアンジャッシュの渡部建さんを起用。自社CMに登場し、ビデオリリースの認知度アップに向け、攻勢をかけている。

杉浦氏は今後の目標として「ビデオリリースを商習慣にしたい」と語る。企業が自社商品やサービスの認知度アップを図る際に、従来のPRの手法とともに、ビデオリリースが当然のように選ばれる時代が来ることを目指している。

ビデオリリースの可能性は、商品やサービスのPRのみに留まらない。最近では新卒社員や中途社員のリクルーティングに活用する企業も増えているという。「ビデオリリース×アドテクノロジー」を用いれば、まさに企業が求める人材にターゲットを絞って募集情報を届けることが可能だからだ。

そのほかBtoBビジネスにビデオリリースを用いるなど、さまざまな活用方法が想定できるそうだ。

「2020年には5G(第5世代移動通信システム)のサービス提供が始まり、今以上にスマホで動画をストレスなく見られる時代が訪れます。すると企業も情報発信をするときは、静止画ではなく動画が当たり前という状況に必ずなる。先には、コンテンツを静止画とテキストだけで流すことに違和感を感じる、そんな時代がくるはずです」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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