【イノベーション】クルマを「ライブオークション」!? カープライスが中古車市場に革命を起こす!(前編)|カープライス株式会社 梅下直也/林耕平|ヒラメキから突破への方程式|SUPER CEO

ヒラメキから突破への方程式

【イノベーション】クルマを「ライブオークション」!? カープライスが中古車市場に革命を起こす!(前編)

カープライス株式会社

代表取締役

梅下直也/林耕平

写真/高橋郁子 文/箱田高樹(カデナクリエイト) | 2018.04.27

業者間のBtoB取引が主流で、ブラックボックスで覆われていた日本の中古車流通業界。ここに風穴をあけたのが梅下直也氏(写真右)と林耕平氏(写真左)率いるカープライスだ。同社は売りたい個人と、買いたい中古車販売店を「ライブオークション」という独自のシステムで直結。フェアでオープンな中古車流通のしくみを作り出した。2人のイノベーターに、起ち上げの軌跡を聞く。

カープライス株式会社 代表取締役 梅下直也/林耕平(うめした なおや/はやしこうへい)

梅下直也/東京大学経済学部卒。2002年 三井住友銀行入行。2006年にロシアへ渡航、現地銀行設立プロジェクトの中核メンバーとして実務に携わる。2013年よりロンドンにてEMEA新興国(旧ソ連、東欧、中東、アフリカ)の現地企業向け大型ファイナンス組成などを手がける。2015年に銀行を辞し、同年11月にカープライス株式会社を創業。

林耕平/Babson CollegeにてMBA取得後、株式会社オーディアを設立し、オープンソース系のシステム開発サービスを提供。2010年にピクメディア株式会社にて日本初フラッシュマーケティングベンチャー「Piku(ピク)」の立ち上げに参画。その後も、ベンチャー企業と投資家をつなぐコミュニティーサイト起ち上げ等を経て、2015年11月にカープライス株式会社を創業。

10分間の「CtoB」によるオークション・システム

タイムリミットはジャスト10分(※終了30秒前に入札が入ると延長)。中古車を売りに出した個人が、指定時間に「ライブオークション」のサイトにログインすると、画面上に自分のクルマが映し出された。競りの開始時間と共に、全国からアクセスした約800社の中古社販売店が入札を入れる。売り手が最初に設定した“この値を超えたら売ってもいい“という意思表示である「ウリキリ価格」を超えると、入札数が爆発的に増える。10分経過。ギリギリで最高額を示した中古車販売店が落札を果たした――。

カープライスが提供する「ライブオークション」の画面。リアルタイムで入札を追える。

カープライスが提供している「ライブオークション」はCtoBオークションによる、まったく新しい中古車売却システムだ。これまで、クルマを売りたいユーザーは、ディーラーや買取専門業者に売るしかなかった。そこで仕入れたクルマを彼らは業者だけが入れるBtoBのオークションでさらに売買。その後、販売中古車としてようやく市場に出るという訳だ。

「つまり取引の経路がブラックボックスだったうえ、複数の中間業者がマージンを乗せていた。その結果、中古車を売りたい個人はムダに買い叩かれて安く売らざるをえず、一方、最終的に中古車販売をする店側も、ムダに中間マージンがのったクルマを売らざるを得ない状況でした」とカーププライス創業者の一人・梅下直也氏は言う。

「しかし『ライブオークション』は、個人が自分の売りたいクルマをオークションに出品。ここに加盟した全国800社の中古車販売店が直接参加して、競り落とすという仕組み。中間業者が減るため、売りたい個人の方は、クルマを高く売れる。落札する中古車販売店からすると安く買える。しかもオークションはネットを介してガラス張りなので、オープンでフェアな、納得感の高い取り引きができるわけですよ」(梅下氏)

業界の常識を打ち破る、中古車流通を実践する梅下氏。立ち上げのきっかけは、ある偶然の出会いだった。

誰も手をあげなかったから、「自分が!」

 

梅下氏。ロシアでのタフな起業経験は、ベンチャー創業期の今もハードな局面を乗り切る糧に。

起点となったのはロシアだ。

前職で、国内メガバンクに勤めていた梅下氏は、2006年からロシアへ赴任。現地法人として金融機関を立ち上げるハードなミッションをこなしていた。そして2013年帰国。達成感とともに退職して、いよいよ兼ねてから視野にいれていた起業に向けて、準備をしていたという。

「とはいえ、具体的なビジネスモデルは見えないままでした。そんなある日、ロシア時代に知り合った知人から『あるベンチャー起業家が日本進出をはかるため提携先を探している。通訳代わりにアテンドしてくれないか』と依頼が入ったんですよ」(梅下氏)

サービス名を『カープライス』といった。そう。実はカープライスは、そもそも2014年にロシアで生まれた会社。すでに2015年にはロシア最大のCtoB中古車オークションサイトになっており、海外進出をはかるべく、日本でリサーチをはじめていたわけだ。

某日、梅下氏は創業者のオスカー・ハルトマンをアテンド。東京のいくつかの名だたるIT企業をめぐりながら「中古車流通をフォアでオープンなものにする。この取り組みを提携して、日本で広めないか?」という創業者のプレゼンを、真横で聞き続けた。「すばらしいシステムだ!」と誰より感じていたのは、梅下氏自身だった。

「僕自身は中古車業界やクルマにも詳しいわけじゃなかった。けれど、前後して『クルマを売りたい』父のつきそいで、買取専門業者につきあったことがあったんです。そのときに『売る気がないなら査定額はいえませんね』と不透明はなはだしくて(苦笑)。21世紀にこんな商売をしている業界があるのか、と唖然とした経験がありましたからね」(梅下氏)

旧態依然とした業界にオープンでフェアなCtoBオークションの仕組みによって、誰しも納得する取引を生み出す――。これまでにない『カープライス』のビジネスモデルは極めてチャンスに溢れ、価値あるものに思えた。ところが、提携を持ちかけられていた名だたる日本企業は、みな一様に腰が引けていたという。

「既存のプレイヤーが溢れた業界に参入するにはリスクが高い」。そう判断されたからだ。

「だから翌日、オスカーに相談されたんです。『日本では難しいビジネスなのかな?』って。即答しましたよね。『そんなことはない。レガシーな業界をよい方向に変える大きなチャンスがある。むしろ私がやりたい!』と自分から手をあげたんですよ」(梅下さん)

ほぼ同じ頃、違うルートから『カープライス』にチャンスを見出していたもうひとりの日本人がいた。共同経営者となる林耕平氏だ。林は、商社や音楽業界で仕事をした後、渡米してMBAを取得。そこでITの知見を加えて、数々の事業を立ち上げてきたテック系の起業家だった。かつて一緒に事業を手がけていた友人が『カープライス』創業者であるオスカーと同級生だった。彼に「日本で事業展開を検討しているが、一緒にやれないか?」と声をかけられたのだ。

「Amazonが流通を変えたように、旧い業界こそインターネットのテクノロジーが入ることで大きな変化を起こせる。日本の中古車流通が80年代くらいから基本的に変わっていないのを知って、『これは大きなインパクトを残せる可能性があるな』と」(林氏)

林氏。梅下氏いわく「テクノロジーに強いうえ、経営面でも同じ言葉で話せる貴重な存在」。

ファイナンスを含めて、マネジメント全般に関するノウハウを持つ梅下氏と、起業経験を重ねたうえで、テクノロジーの知見も持つ林氏は、お互いを補いながら共鳴できる関係だった。

「加えて、お互いどこか楽観的というか、真剣にビジネスには向き合うんだけど、切迫感がないところが共通していた。そこも『彼となら組める』という後押しになりましたね」(梅下氏)

「過去を振り返ってもベンチャーの創業期って、ストレスフルになる。そのストレスにやられると落ち着いて正しい判断ができなくなるものなんです。僕も梅下も、これまでの起業の経験からそのまずさを実感していたこともあるかもしれません。どこか『なんとかなるよね』という雰囲気を持っているというか(笑)」(林氏)

こうして、現地の創業者の信頼を得た2人のチーム、彼らのサポートを得て、日本版『カープライス』を2015年11月に立ち上げた。

迷ったら、理念に立ち返る

最初から順調だったわけではない。ライブオークションのシステムはロシアのシステムをローカライズすることで対応できた。しかし、買い手として参加してもらう中古車販売店に加盟してもらうのはゼロから開拓するしかなかった。

「いくらロシアでは大きな会社とはいえ、中古車業界を知らない新参者でしたからね。加盟のお願いにいっても、最初はやはり信頼されませんでしたよね」(梅下氏)

ただし「旧来型の仕組みを変えて改善したいこと」を丁寧に伝えると、多くの販売店が耳を貸してくれた。そもそも彼らが抱いていた業界の“危機感”も後押しとなった。クルマ離れが進むなか、中古車流通業界自体が縮小傾向に。質の高い中古車が市場に出回りづらくなったうえ、これまで「買い取り専門」と銘打っていた大手の業者が、中古車販売も手がけはじめ、なおその傾向は強まっていたからだ。

ブレイクスルーとなったのは、2017年春に、ビジネスモデルを改善させたことだ。『ライブオークション』は、実はそもそもロシアの仕組みを踏襲して、オークションが終わるまで最終価格は見えないスタイルだった。しかしサービスをまわしていくと、肝心のところがオープンではないわけです。お客様はどこか不安感を感じさせた。ただ、ここを全てオープンにすることは、落札者に対する売買手数料もフルオープンになるということだ。

「迷いましたけどね。ただ、そもそも『テクノロジーの力で、業界をフェアにオープンに変えていきたい』という理念があってはじめたビジネス。フルオープンで見せることにしました。お客様からは成約時に手数料として税込み10800円と、落札者から受け取る手数料もすべて誰しも分かるようにしました。日本だけのスキームですね。これで変わった」(林氏)

「『カープライス』は本気だ」「業界が変わる」「彼らは信用できる」――。

理念とビジネスモデルが明確につながった昨年から、増加傾向にあった加盟店がさらにふえ、全国800にまで到達した。このタイミングで、三井物産からの出資を受けたことも信用力をあげることにつながった。車両の査定をするパートナー企業も増え、中古車を売りたいユーザーも口コミで確実に増えていった。

「迷ったときは理念に立ち返る。ビジョンを軸に経営判断をする。いろんな局面があったし、これからもあると思いますが、そこはブレません。すると、なんとかなるんですよね(笑)」(梅下氏)

現在は、さらにユーザーへの認知度をあげるマーケティングに力を入れ始めている。

「テクノロジーによって業界を変える」。そのビジョン・ドライブの経営こそが、『カープライス』のエンジン。これからもきっと、なんとかしてしまうのだ。

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vol.35

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株式会社ベクトル西江 肇司

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