ヒラメキから突破への方程式

進行度も部位も年齢も不問

専門外の医師だから成せた画期的ながん免疫療法

湘南メディカルクリニック新宿院

院長

阿部 吉伸

写真/芹澤裕介 動画/ロックハーツ 文/高橋光二 | 2016.08.10

阿部吉伸先生のポートレート
日本人の死因第1位、がん。完治が困難な病に対し、免疫療法に免疫チェックポイント阻害剤の投与を組み合わせる「アクセル+ブレーキ療法®」を開発し、劇的な効果を上げている医師がいる。湘南メディカルクリニック新宿院院長・阿部吉伸氏だ。既存療法では治らない見放されたがん患者に、一筋の希望の光を届けている。

湘南メディカルクリニック新宿院 院長 阿部 吉伸(あべ よしのぶ)

1965年、富山県生まれ。90年、国立富山医科薬科大学医学部卒。パリ第a12大学アンリーモンドール病院心臓外科留学、国立金沢病院心臓血管外科勤務等を経て、パキスタン、トルコ、ミャンマーの日本大使館に外務省参事官医務官として8年間勤務。帰国後、新宿血管外科クリニック院長に就任。2015年から、医療法人湘美会湘南メディカルクリニック新宿院院長に就任し、免疫細胞療法と免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせたがん治療に心血を注いでいる。

がんの治療として従来、外科手術、抗がん剤、放射線の3大療法が行われているが、高齢化もあり、がんで死亡する人の数はまったく減っていない。そうしたなかに、“第4の治療法”として登場した「免疫療法」が注目を集めている。

人は誰でも毎日約5,000個のがん細胞が生まれているが、そのほぼすべてをTリンパ球やNK(ナチュラルキラー)細胞などの免疫細胞が攻撃し消滅させていることで、がんにならずに済んでいる。逆にいえば、がん細胞が何千億個も増殖してがんとして発見される事態となるのは、この免疫細胞の力が弱っていることが一つの要因なのだ。

そこで考えられたのが、体内から免疫細胞を取り出して培養し、活発化させたものを再び体内に戻してがん細胞を攻撃させる「免疫療法」。もともと体内にあった細胞を用いるので、副作用がほとんど無い。さらに、抗がん剤も効かない全身に転移した状態でも効果があるという、まさに夢のような治療法として脚光を浴びた。

しかし、「免疫治療」は日本では保険診療が認められていない、高額な費用がかかる自由診療。かつ、“ノウハウの塊”といわれる免疫細胞培養の難易度の高さにも壁があった。

そんななか、阿部氏は相川佳之総括院長率いるSBCメディカルグループ(SBC)において、この免疫療法にチャレンジすることになる。契機となったのは、同グループの看護師が、がんで亡くなったことだった。死の直前に彼女が口にした「免疫療法もやってみたかった」という一言が、相川氏に火をつけたという。

「SBCなら免疫療法も安く提供できるはず、という相川の問題意識と情熱に賛同しました」と阿部氏は語る。心臓血管外科が専門の阿部氏は、SBCが下肢静脈瘤のレーザー治療を始めるにあたって優秀なドクターを探していた相川氏の目に止まり、同クリニックを任されるようになっていた。

「免疫療法」の要となる培養技術の問題は、相川氏の広いネットワークが解決。自らのノウハウや技術を引き継ぐ先を探していた細胞培養の“名人”にたどり着き、スカウトに成功するのだ。阿部氏は当時をこう振り返る。

「それでも、色々な状況にある患者の免疫細胞をベストな状態に培養するのは困難を伴いました。中には思うような効果を上げられないケースもあり、常に打開策を探っていました」

免疫培養のための医療機器

「免疫治療」のカギとなる培養士は、SBCメディカルグループの相川総括院長の人脈が解決した。

そこに登場したのが、2014年に発売された免疫チェックポイント阻害剤の「オプジーボ」と2015年に発売された「ヤーボイ」である。実は、免疫細胞には暴走して自分の体を傷つけることを防ぐ“ブレーキボタン”がついていて、がん細胞は、このブレーキボタンを押して免疫細胞から攻撃されることを防いでいることがわかっていた。免疫チェックポイント阻害剤は、このブレーキボタンを無効にする薬だった。

「『免疫療法』に、この免疫チェックポイント阻害剤を併用してみたら打開できるかもしれない、と思いついたのです。さっそく患者に説明して実施してみたところ、想像以上の効果でした」

培養・活性化という免疫細胞の“アクセル”を吹かしてがん細胞を攻撃すると共に、免疫チェックポイント阻害剤で、がん細胞が免疫細胞に“ブレーキ”をかけようとするのを阻害するW攻撃は、劇的な効果を生む。

抗がん剤治療との生存割合を比較すると、抗がん剤は時間の経過と共に徐々に効かなくなり、39カ月目には生存割合がゼロになる一方、「免疫療法+オプジーボ+ヤーボイ」の併用治療は生存割合8割にまで上昇したのである。

しかも、長く体内に蓄積する効果のある免疫チェックポイント阻害剤を少量ずつ投与する「少量蓄積法」で、副作用を防ぐと共に高額な費用を軽減させるという効用も生んだ。2016年7月まで同クリニックでは300人以上の患者に対し、この治療で成果を上げている。

がんの縮小を現すCT画像

【53歳男性、腎がん+肺・リンパ節転移 NK10回+オプジーボ2回】 転移のあった患者の腫瘍も消失や縮小が認められた。

やろうと思えば誰でもできたが、阿部氏以外にこの療法を行っている人物はいない。ではなぜ、阿部氏はこの「アクセル+ブレーキ療法®」を思いつき、実施することができたのか。

「自分ががんの専門医ではなかったからだと思います。外科手術、抗がん剤、放射線の各専門医は、その領域を突き詰めているだけに発想の転換が難しいのです。しかも、それぞれの学会は、自らの存在の否定につながるような新しい治療法を認めたがらない硬さがあります。

私はがん治療に際して3大療法を決して否定するものではなく、やれることは全部やるべき、という考えです。それで命が救えるならば、当然のことではないでしょうか」

形成外科医が考案した糖質制限による糖尿病の治療法など、医学におけるブレイクスルーは、得てして専門外の医師によって起こされている。既成概念にとらわれないからこそ、柔軟な発想ができる。あらゆる分野に共通することだろう。

「がん治療が硬直化しているのなら、医師に意識を変えてもらいたいとは思います。しかし、そういったことより、私や相川が考えているのは、抗がん剤がもう効かないと言われてしまった末期がんの患者に、一筋の希望の光を差し上げることなのです」と、阿部氏は力を込める。

末期がんでも治る――。「アクセル+ブレーキ療法®」の社会に対する貢献度はとても大きいが、認知度はまだまだ低い。そこで阿部氏は著書『アクセル+ブレーキでがんを滅ぼす免疫療法』(幻冬舎)を出版し、世の中に広め始めている。このブレークスルーによってがん治療がさらに進み、医療界に変革がもたらされることを願うばかりだ。

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