スーパーCEO列伝

君子を目指し志を抱け!

SBIホールディングス株式会社

代表取締役社長(CEO)

北尾吉孝

写真/宮下 潤 文/田中 緑 マンガ/シンフィールド | 2014.06.10

誰もが一目置く、圧倒的な存在感と堂々たる風格。いまや、当代随一のインターネット金融業界の雄である北尾吉孝氏は、野村證券時代から、その手腕で業界に広く知られた存在だった。

転機となった、ソフトバンクの孫正義社長との出会いは、彼が師と仰ぐ安岡正篤氏の言葉を借りれば、まさに“縁尋機妙(えんじんきみょう)”。中国古典に親しみ、その博識は膨大な著書にも表れている自身の経験と教養に裏打ちされた多くの言葉に、CEOからの信頼も厚い。

インターネットという時流に乗り、強い志とともに、数々の偉業を達成。日本最大のインターネット金融コングロマリットを実現した49歳にして天命を悟ったという、彼の起業人生とは――。

SBIホールディングス株式会社 代表取締役社長(CEO) 北尾吉孝(きたおよしたか)

1951年生まれ、兵庫県出身。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部を卒業。89年、ワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル社(ロンドン)常務取締役。91年、野村企業情報取締役。92年、野村證券事業法人三部長。95年、孫正義氏の招聘により、ソフトバンク常務取締役に就任。99年、ソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)の代表取締役CEOとなり、現在に至る。主な著書に『成功企業に学ぶ 実践フィンテック』(日本経済新聞出版社)、『古教心を照らす』(経済界)、『何のために働くのか』(致知出版社)、『進化し続ける経営』(東洋経済新報社)、『実践版 安岡正篤』(プレジデント社)など多数。

北尾吉孝的ビジネス訓5か条

1974年の野村證券入社以来、「信念を曲げたことがない」という北尾社長。その確固たる信念を突き通すのは並大抵のことではない。人格者として信望を集め、経営者としても辣腕をふるう北尾社長が、若き経営者に伝えたい、ビジネス訓5か条を紹介する。

01世のため人のために強い志を抱くべし

経営者は、志を持たなければならない。志を「野心」と間違える経営者も多いが、野心とは「金持ちになりたい」「会社を大きくしたい」という私利私欲である。反対に、志とは、世のため、人のために持つもので、「世の中にいいサービスを提供したい」「消費者に喜んでもらいたい」という想いのことだ。

「志」という字は、「士の心」と書く。「士」は十と一からなり、十は多数、一は多数の意思をまとめるリーダーを意味するという。つまり、「志」とは公に仕える心を意味するのだ。トップに立つ経営者を目指すのならば、志を高く持つべきだろう。

02徳とは人間性そのものだと心得るべし

誰もが生まれながらにして天から与えられているという「徳性」とは「良心」ということだ。しかし、その徳性が十分に発揮されるかどうかは、その人の努力次第でもある。人の上に立つ経営者としてふさわしい人格のなかにこそ、徳性が豊かであるということが求められる。

徳とはすなわちその人の人間性をあらわし、人間が社会のなかで実行するべき道を示している。また、法人も法人格という人格を有しており、「社徳」を上げて、社会から尊敬される会社になっていかなくてはならない。

論語に「子曰く、徳は孤ならず、必ず隣あり」という有名な言葉がある、「徳のある人は必ず周りに同じように徳性の高い人が集まってくる。だから決して孤独になることがない」という意味だ。

03日々どんなことにも学ぶべし

経営者は、常に物事を判断する時、仮説と検証を立てなければならない。自分の嗅覚で仮設を立て、その仮設が本当に正しいのかということを検証していく。

時代の流れ、動きのなかに、どんな些細なことであっても、必ずどこかにそのヒントがあらわれている。そうしたヒントを読み取る直感力を磨くこと、ものの見方、考え方を養うこと、そして、世界に広く視野を持つことが必要だ。

仕事を通して学べるのは、まさにそうした人間学ともいうべき、終わりのない学びだ。人間は仕事の中でこそ、成長を遂げる。また、論語をはじめとする中国古典のなかには、まさに経営者、指導者を目指すなら、学ぶべきところが多く、必読の書である。

04時流に乗るべし

成功する人物の条件は「志」とともに「時流に乗る」ことだ。時流の変わり目を見て、時流に乗る。また、一度時流に乗ったとしても、それがいつまで続くかはわからない。世の中の変化を察知しながら、自ら変わり、会社を変えていかなくてはいけない。そのためには、「自己否定」「自己変革」「自己進化」の3つのプロセスが大事だ。

成功者というのはなかなか自己を否定せず、成功にあぐらをかくもの。だから間違いを起こす。自己を新しい環境のなかで、どう変化させていき、進化させていくかを考える。まずは時流に乗り、乗った時流のなかで、その時流はいつまでも持続するのかという疑問を自らに呈し、世の中の変化を見極め、時々の時流に合わせ自己進化を続けていくことが非常に大事だ。

05企業は社会性を持つべし

会社を取り巻くさまざまなステークホルダー(利害関係者)との利害の不一致が発生した場合、最大限相手の利害に配慮しながら、互いの利害を調和させなくてはならない。こうした責任を経営者は担っている。つまりどこかの時点で「私益」と「公益」というものを調整しながら落ち着けていく能力が問われているのだ。

また、「CSR(企業の社会的責任)」をいかに果たしていくかということも常に考えなくてはならない。CSRにはユーザーに喜んでもらえるようなサービスを提供するなどの事業を通じた間接的な社会貢献と、福祉や医療、教育等地域社会への寄付や協力などによる直接的な社会貢献の2つがある。これら両方で、社会貢献することがこれからの会社に求められている。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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