刺激空間から革新が生まれる

天井高12Mというオフィスが巻き起こすイノベーション

ラクスル株式会社

代表取締役社長CEO

松本恭攝

写真/芹澤裕介 文/竹田明(ユータック) 動画/Glasses Creative | 2017.02.10

オフィスの天井高が12メートルもあるラクスル株式会社。2016年度、第29回日経ニューオフィス賞を受賞したその空間が体現している、松本代表の経営哲学とは?

ラクスル株式会社 代表取締役社長CEO 松本恭攝(まつもと やすかね)

1984年富山県生まれ。2008年に慶應義塾大学商学部卒業後、外資系コンサルティングファームのA.T.カーニーに入社。コスト削減などのプロジェクトに従事する。2009年9月にラクスル株式会社を設立、代表取締役に就任。印刷会社の非稼働時間を活用した印刷のEコマース事業で売上を伸ばし、現在は中小企業のオフラインでの集客活動を支援する「集客支援プラットフォーム」事業の展開を加速させている。

“仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる”を理念とし、印刷や物流といった古いビジネスモデルが残る業界に、インターネットの力を利用し革新を起したラクスル株式会社。2015年に移転した現在のオフィスは、まさに新しい時代をつくる会社の名にふさわしい斬新な空間だ。もとは住宅展示場だった場所で、天井までの高さがなんと12メートルもある。

「起業してしばらくは資金力も脆弱だったため、賃料を抑える目的で取り壊しが決定しているビルをオフィスとして利用していました。取り壊しも近づき、従業員の数も増えて手狭にもなっていたのもあり、新しいオフィスを探し始めました。もともと建築やデザインに興味があったため、空間に対するこだわりが強く、なかでも天井が高い空間が好きだったので、臨海部の倉庫などもターゲットに探していました。そんな折、天井までの高さが12メートルもあるこの物件と出合い、即決で借りることにしました。オフィスとして利用できる物件でこの高さを持ったところはそうないと思います」

松本代表は、
“PROGRESSIVE”
“INTERACTIVE”
“COMFORTABLE”
の3つをコンセプトにしたオフィスを設計するため、複数の建築事務所に声をかけて、コンペを実施した。

「我々がつくり上げたい空間のコンセプトを理解して、最適なデザインを提案してくれるパートナーを探すことに注力しました。いろんないいアイデアがたくさんありましたが、高さをうまく利用し、飽きのこないデザインだったのが気に入って、今のオフィスにしました。見上げれば木があるという“空中庭園”がモチーフになっていて、室内にもかかわらず屋外にいるかのような空気の流れを感じられます。広い空間の中にボックス型の部屋を設置して空間が適度に仕切られているのも仕事を進めるうえで効率的です」

さまざまな役目があるボックス型のミーティングスペース 社内の会議に使う部屋は、一部の壁を取り払いオープンな環境となっている。ボックス型の会議室は、広い空間を仕切る役目も果たしている。中には、はしごを使って屋上に上れる会議室もあり、社員の友人が訪れた際の記念撮影スポットとして活用されている。

オフィスをデザインする上で、松本社長にはこだわりのポイントがあった。コミュニケーションの発生頻度と、空間の快適性だ。

「当社には、エンジニアもいれば、eコマースやカスタマーサポートのスタッフなど、それぞれ異なるバックグラウンドを持った人が働いています。いろんな職種の人がいるなかで、コミュニケーションが発生しやすいオープンな空間にしたかったんです」

新しいオフィスをつくった効果は、意外なところにも表れたと松本社長は言う。

「社員がこの空間を好きになってくれて、友達を呼んでくれるんです。それがきっかけで採用につながることもあり、仲間集めにも良い影響が出ています」

主に社外の人との打ち合わせに使う会議室。印刷に使うCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の色をモチーフにしている。それぞれの部屋を示す番号は、ラクスルのオリジナルフォントを使用するなど、細部にまで印刷に携わる会社としてのアイデンティティを表現している。

昔からある産業にインターネットを中心としたテクノロジーを持ち込み、新しい21世紀の産業に構造をつくり変えたい、そんなラクスルの思いをうまく表現したオフィスになったと松本社長は満足している。

「インターネットのおかげで世の中は便利になり、それに合わせていろんなところでこれまでのルールを変えていく必要があります。その意味では“枠にはまらない”ことが重要です。もとは住宅展示場だった場所を、オフィスとして借りようと考える人は少ないでしょう。けれども、少し違う視点での発想が重要なんです。考え方を少し変えるだけで、こんな素敵なオフィスに生まれ変わるんですから。これまでのルールではなく、ゼロベースから自分たちで考え、創造していく。そうすることで、今の時代に合った新しいものができるのです。このオフィスはまさしくそれを体現していると思います」

ヨハネス・グーテンベルクが最初に印刷した聖書に使われた“B42”というフォントを使ったロゴ。印刷が知識を一般の人々に開放することにつながり社会を大きく変えたように、500年の時を経て、今度は自分たちが印刷の発明に匹敵するイノベーションを起こすという意味が込められている。

空間や色彩といった感覚的なことを重視する松本社長。論理を超えたものこそが差別化につながるという自らの信念を最後に語ってくれた。

「実は、論理的に説明できるものは、あまり差別化につながりません。誰もが同じ結論にたどり着くからです。むしろ、感覚的なものを大切にすることで、オリジナリティが生まれます。論理とは反対に、感覚は人によって千差万別。だからこそ個性を表現しやすいのです。オフィスにしても、会社のロゴにしても、感覚的なことを推し進めれば、それが会社のカラーをつくり上げ、強みにつながっていくのです。だから、こだわりやセンスといった独自の世界観を大切にした方がいいと思います」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

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DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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