サービス力

日本一のドライバー集団を育成し、誰もがその名を知る運送会社を目指す

株式会社エアフォルク

代表取締役

井上貴夫

写真/中田浩資(リンガフランカ) 文/桑原恵美子 動画/プログレス | 2021.04.12

リモートワークと外出自粛で、巣ごもり需要が拡大。以前にも増してネット通販が生活に欠かせない存在となっている。その通販事業を支えているのが、大手運送会社の委託を受け個々の家をまわる軽貨物運送事業。佐川急便のセールスドライバー出身で、2007年に設立した軽貨物運送会社「エアフォルク」を怒涛の勢いで急成長させている井上貴夫代表に、次の展望を聞いた。

株式会社エアフォルク 代表取締役 井上貴夫(いのうえたかお)

1977年生まれ。東京都出身。野球に打ち込んだ中学・高校時代に「努力したことは必ず形になってあらわれる」ことを学ぶ。「車が好きで、早く自分の車を持ちたかったことから、募集を見た中で最も給料の高かった佐川急便株式会社に入社。セールスドライバーとして抜群の営業成績を残した後、2007年に軽貨物配送を中心とした株式会社エアフォルクを設立。Eコマースの配送などを手掛けて業務を拡大し、現在11名の社員と委託ドライバー100名以上を抱える。社名の由来はドイツ語で「成功」。

自分をオープンにすることでひらけた、経営者の道

「僕が佐川急便で働いていた約6年間でも、扱う商業荷物の中で個人宛て宅配の比率がどんどん大きくなっていました。それを間近で見ていて、個人の宅配荷物がこれからもっともっと増えていく、そうなれば軽貨物運送の需要も高まると確信したんです」

佐川急便で、荷物の配送だけでなく、決済手続き、営業なども行うセールスドライバーとして働いていた頃の井上代表は、取引先の社長とすぐに親密になり、色々な相談を持ちかけてもらうことで販路を拡大するスーパーセールスドライバーとして有名だった。卓越した才能のように思えるが、井上代表が心がけていたのはただひとつ、「自分をオープンにすること」だけだったという。

「昔の宅配業務は今よりも労働時間が長かったですし、夏は暑く冬は寒い。まさに“四季を感じられる仕事”です(笑)。でも営業先で素晴らしい経営者の方々にたくさんお会いでき、経済的なゆとりを得て自分の好きなことを思いっきり追求する姿から、多くを学ばせていただきました。肉体的にはハードでしたが、きついと感じたことはなかったですね」

人生を生き生きと謳歌している取引先の経営者たちの姿に感銘を受けた井上代表は、自らも起業を決意。管理業務の経験を積むために佐川急便よりも規模が小さい運送会社に転職し、内勤業務で一般貨物を運ぶトラックの配車や人の手配などのスキルを身につけ、満を持して28歳で起業する。その会社は14年たった現在、社員11名、委託ドライバーを含む自社ドライバー100名以上、協力会社を含めると約600名体制という巨大組織に成長した。急成長の理由を、井上代表は「誠実で丁寧な仕事を、一つひとつ積み上げていった結果」と語る。

「設立当初は、お客さんからの依頼はどんなに困難であっても絶対に断らないと決めていました。そうやって実績を積み、1台1台、所有車を増やしていったのです」

軽貨物運送は「これからの社会を支える重要なインフラになる」

目の前の課題に、無心に全力で取り組み続けて会社を拡大した井上代表だが、会社設立後数年たった頃から、新たな野望が湧いてきた。

「おかげさまで軽貨物業界では知られる存在となりましたが、それだけで満足していいのだろうかという疑問が湧いてきたんです。将来的には業界内だけでなく、日本中の誰もが社名を知っているような、大きな会社にしたい」

そのためには、同業他社との差別化が急務。そのひとつとして今進めているのが、会社の規模にふさわしい体制づくりだ。

「軽貨物配送業がメインであることに変わりはありませんが、これだけ業務に関わる人と車が多くなっているので、マンパワーの問題で外注していた分野の内製化の必要性を痛感しています。自前で車を用意できない業務委託ドライバーのための車両レンタル業、すべてのドライバーに安心して運転してもらうための保険代理業、安全に運転するための車両整備などの業務の内製化を今、急ピッチで進めています」

社用車は現在、110台。「ざっと年間、50~60台は車検が必要になります。車両整備の社内化は、急務のひとつです」

もうひとつは、人材教育の強化。社員教育を担当している平田祐三氏は、「現場によって環境が多少違っても、基本ルールは同じ。それを共有して個々に落とし込むことが全体の質の向上に欠かせません」と語る。コロナの影響か最近は、色々な業界から未経験者がドライバーに応募してくる。その場合、本人が自信をもってできるようになるまで、先輩ドライバーが教育係として横に同乗する。また基本ルールを逸脱していないか、社員が抜き打ちで巡回して同乗し、緊張感を保つようにしている。

「貨物輸送というのは、正しい場所に正しい物を運ぶことでお金をもらっている仕事です。簡単なように見えますが、人間は慣れると、これくらいはいいだろうという気のゆるみからミスが起こります。どんなに慣れてもきちんと自分を律することができるかどうか、そこにその人の人間性があらわれるんです」

だが井上代表が社員に求めるものは、「ルールを守れる」ことの先にある。

「僕は小さい頃から人に『こうしろああしろ』と言われるのが嫌いで、なんでも自分で決めて動きたいという気持ちがすごく強かったんです。社員にも自分で考え、それに基づいて自由に動いてもらいたいから、あれこれ細かな指図はしません。会社ですからもちろん結果は求めますが、そのやり方はルールにのっとってさえいれば、まったく自由でいいと考えています。これからはパソコンを使いこなす世代がシニアになり、さらにEC需要は増大し続けるでしょう。軽貨物運送業が社会で担う役割は、さらに大きくなると思います。長く働いていただけるよう福利厚生にも力を入れ、軽貨物輸送が社会を支えているという意識をしっかりもってやっていける社員と共に、会社をもっともっと大きく育てていきたいですね」

多忙ななか、できるだけ現場に顔を出し、ドライバーが困っていることはないかをヒアリングしている。「荷主との交渉は会社じゃないとできません。継続して長く働いてもらうためには、現場環境を常に改善していく必要があります」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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